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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
26/30

第26話

――彩暦635年5月5日

於:湖都ルーベリア・『妖精の踊り場』亭


……――


「……どーしよ」

「どうしましょうか、ねぇ……」


 それなりに上等な宿の食堂で、透とセレスは二人して夕食に手も付けずに机につっぷしていた。本来であれば、今頃神国に到着してセレスの実家に向かう頃合いだったのだが……意味のわからないトラブルが発生したのだ。


「なんで、転移陣が発動しないんです……」


 ちゅう、とストローでジュースを飲みつつセレスが愚痴めいた呟きを発する。

 実際、言葉通りの事態が起きた。ここ、湖国の首都である湖都ルーベリアの冒険者ギルドそばに設置されている『転移陣管理所』で、ここから世界各地の転移陣管理所へ転移が行える。セレスの建てたスケジュールの通りにルーベリアにやってきたおかげで、丁度今日の行先は神国の首都、神聖都アーヴ・ルダーだった。

 喜び勇んで管理所の受付にラフィン冒険者ギルド支部長印のついた転移陣利用特別許可証を提出し、内部の特別待機所ですぐに転移をさせてもらえる手筈となったのだが――


 なぜか、転送魔法が発動しなかったのだ。うんとも、すんとも。最初は透とセレスがテロリストとして施設破壊にでも来たのか、という視線を向けられたものの、転移陣利用特別許可証を利用した、という事から冒険者ギルドのお墨付きであるという事でその点は無罪とされたのだが……しかしそれから先、職員がいくら調整しようとも転移陣が発動することはなかった。

 今では緊急の札が張られ、転移施設自体が封鎖されている。それにより使おうとしていた人たちの暴動じみた声がギルド前の広場から今も聞こえてくる。


「ちなみに、この転移陣が使えないとなるとどうなるの?」

「……わたしが来たルート、つまり船、ですね。ここから東に馬で7日行った先の、港町アルスツール。そこから神国の港町エング・レーヴに向かうルートになるんですが……合わせて2か月という所ですね」

「2か月ぅ……?めちゃくちゃ時間かかるね」

「いえ、これ一般人のルートでは最速です。冒険者が非常にお金を貯めて使うか、でなければ今回のような許可証を使って転移陣を使うのが、本来の国間の移動手段です。……で、どうします、トール。明日から……」


 テーブルに乗ったビーフシチューのような料理にどぶんと漬かった豚の角煮めいたものをフォークでとり、取り皿において小さく切りながら口に運びつつ、透は他のルートについて尋ねた。

 それに対するセレスの答えに、うぇ、と顔をしかめながらも美味しそうに豚肉を口に入れ続ける。そんな様子を見てセレスも取り皿に肉をとって、口に運び……


「あ、これ、すごい美味しい」

「だよね!……ううーん、明日また、転移陣管理所に行って、再チャレンジしたいってのが本音かな……」

「わたしもそれには同意です。……ただ、嫌な予感はしますので、明日の昼はここのギルドで町から出ない程度の仕事をして、夕方行きましょう」


 さすが湖国の首都、その冒険者ギルド前という立地の宿の飯が美味しくないという事はなく、二人して先ほどの鬱屈した気分を晴らすために勢いよく夕食をとるのだった。

 食べてしまうと、公衆浴場に向かい風呂に入って宿で休む。しっかりと休養を取った翌日、ギルドで簡単な街中の清掃等の仕事をした後に――ちゃんと今日は転移陣が使えるという情報を聞いて、今度こそはという顔で転移陣管理所へと向かうのだった。


「……貴方たちは、昨日の。今日も、お使いになるのですか?」

「はい、お願いします」


 夕方の、営業時間終了間際。昨日使えなかったせいでどうやら今日は客が多かったらしく疲れた顔をした青年があまり好ましくない表情を浮かべて透とセレスを迎える。しかしそれにもめげず、特別許可証を提示することで転移施設内の待合所に通された。

 ――割と、長い時間待たされる。というのも、昨日の出来事が原因で、念のために本当に最後に転移陣に案内する、という流れになっていたのだ。原因が何かわからないものの、実際に昨日転移陣が使えなくなったのは事実であるため、二人ともそれを了承して施設内で呼ばれるのを待つ。

 受付開始したのが、18時ごろ。そして20時になった今、ようやく二人は転移陣に通された。


「あーもー、待つの疲れたぁ……」

「トール、仕方ないです。それより背筋を伸ばして。そんなだらけた様子を見せないでください」


 天井と壁、床に至るまで無数の魔法陣が刻まれた、およそ一辺が5mほどの立方体の部屋の中心に立って、透とセレスは目の前の窓の外で何人もの転移陣技師たちが動き回っているのを見ていた。

 どうやら昨日のような事は初めてであったために、普段より増員して今日は運営していたようだった。そして、今日は今に至るまで何事もなく無事に転移を繰り返し……最後、透とセレスの順番になったのである。昨日、転送の不調が発生した原因であるペアだという事で技師たちの厳しい視線が窓越しに向けられる。透もセレスも、思い当たる節がないために少々不満を覚えながら転移の開始を待った。


「今回は何事もなく行けばいいですが……」


 小部屋の外から、転移に使われる膨大な魔力が室内に注ぎ込まれる。20人もの【黒】の術士からなる転移術が始まった。昨日と同じように、部屋の隅から魔法陣に輝きが宿り、部屋中に刻まれた魔法陣が一斉に輝きを放つ。昨日は透もこれを純粋に綺麗だと思いながらみていたのだが――

 ばしゅん、という音とともに高まった魔力は霧散し、すべての魔法陣が光を失う。そこまで昨日と全く同じ流れになってしまい、透とセレスはそろってため息をついた。そして、転移室の扉がばん、と強く開かれて一人の男性が部屋に入ってくる。


「そちらの黒髪の女性。君は、何か特異体質か何かと言われた事はないかね?もしくは、私の知る限り転移の術をすべてかき消すような代物は知らないが……そういった魔法の品を持っていたりするか!?」


 びし、と透を指さして興奮した様子で問いただす。透はそういわれても、という顔をしたあとで少し首をかしげて、答えた。


「あえて言うなら……その、【金】、持ちです」

「は……?む、あ、いや、失礼しました。王室の、方でしたか……?しかし、貴女のような方は資料に記載されておりませんが……」

「あ、いえ、特にそういうのでなく、民間の、特別変異、みたいなものらしいので気にしないでくだされれば……」


 金、という言葉に狼狽えて頭を下げる男性に、透はあわてて追加で自分がそういう身分ではないことを示す。すると男性は顔を上げて、何事か呟き。最初の食って掛かるような雰囲気を消して透に向けて頭を軽く下げる。そして、顔を上げて口を開いた。


「民間の、金……存在することもある、程度には聞いていたが、実物に出会うとは……とりあえず、部屋から出てもらっていいか?明日使えるように、整備する必要がある」

「あ、はい」

「わかりました」


 そう促されて部屋から出ると、そのまま奥の部屋に案内された。そこには複数の転移陣技師たちが先ほどの転移失敗記録を紙面に記している様子が見えた。そしてその部屋の隅にある椅子に案内され、二人は素直にそこに腰かける。なぜこんな場所に案内されたのだろう、と不安の浮かぶ様子で周囲を見ていると、最初に案内した男性が2人分の温かいコーヒーのような飲み物を持ってやってきた。


「トール嬢は、自身の【金】についてまだ理解が足りていないのではないか、と思い、ここに案内させてもらった。どうだろう、【金】は全員能力が異なると言われているが、自身の能力について理解はできているか?」

「へ……?いや、その……たぶん、できてない、です。何となく、身体能力が高くなっているので、それかなぁ、と思っていますが」


 唐突な能力についての言及に、目を白黒させながら自信なく透が答える。自分が告げた通りに、今までの冒険で試した結果としてもそれくらいしか本当に思いついていなかったからだ。だが、男性はしっかりと、断言するように再び口を開いた。


「今回の転移失敗は、トール嬢の【金】によるものだと判断して間違いないだろう。こんな馬鹿げた現象、【金】だと言われて逆に納得したくらいだ。……貴女の能力は、一言でいうなら『限定的魔法無効化体質』とでも言おうか。転移術が貴女の身体に作用する瞬間、術が完全に無効化されて消滅した」

「へ……?いや、でも、今までセレスの魔法はかけられたり、しましたよ?」


 言われた言葉に、思わず透は反論する。実際にセレスの防御魔法などはその体にうけ、効果を発揮したことはあったからだ。だが、男性は首を横に振る。


「だから限定的、と言ったろう?計測した数値を見る限り、中級までの魔法は普通に効果を発揮する。だが……高位の、たとえば転移や再生、時間制御といった高等魔法は効果を発揮することはないだろうな。つまり、転移陣を使う事は不可能だ。申し訳ないが、神国に行くならば通常の……船を利用したルートを使用してほしい」


 断言する男性の顔に、透もセレスも何も言えずにただ、茫然とするしかないのだった。

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