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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
25/30

第25話

――彩暦635年4月25日

於:草原の街ラフィン・冒険者ギルド


……――


 日が落ちて通りの祭り騒ぎが今度は酒盛りの騒ぎに変わる頃。

 冒険者ギルド支部長室の執務机に上半身を投げ出し、クリスは盛大にため息をついていた。


「結果的には最適解となったが、期待の新人を子飼いにしようと声をかけた私が憎い。爆弾じゃないか貴様ら」


 視線の先には応接テーブルに乗せられた簡単な料理とお茶を堪能している透とセレスの姿がある。透の事情説明に、非常に時間がかかってしまったためにクリスが手配し用意させたものだ。二人はきゃいきゃい騒ぎながらおいしそうに食事をし、クリスからの視線を受け流している。

 若干悪乗りも進んでおり、透がセレスにテーブルマナーを見せてほしいとお願いをして、セレスがしっかりとした、100%完璧な貴族らしい食べ方をしてみせて凄いと歓声をあげてセレスが照れた様子を見せて、といった様子にクリスがどん、とテーブルを叩く。

 それでようやく二人の視線がクリスに向けられた。


「爆弾とか失礼です。身分を隠しているだけの、ただの一冒険者ですよ?」

「そうそう。私なんて右も左もわからないようななり立て冒険者ですよー」

「本当のただの一冒険者やなり立て冒険者が連携してバーサークロード・オーガを倒せるものなら、私も大分楽ができるなぁおい」


 返事の内容と棒読みな言い方で二人がさっきの呟きをちゃんと理解していた事に気づいたクリスも、不機嫌な声を隠しもせずに椅子にもたれかかって背伸びをした。


「……しかしまぁ、納得はした。貴様らがバーサークロード討伐の誉れを私に譲った理由は、素性を隠したいためだな?」


 ――それは、バーサークロード・オーガ討伐直後の話になる。

 なんとかバーサークロード・オーガを討伐し、ダンジョンコアとなっていたバーサークロード・オーガの鎧についていた宝石飾りを破壊した後、残ったバーサークロード・オーガの剣……ラグゼスと銘打たれていた剣を戦利品として持ち帰る途中で、透とセレスからクリスに1つお願いがされたのだ。


 内容は、『事情があるので、あまり名前を売りたくない。なので、今回の討伐はクリス主体だった事にしてほしい』というもの。

 理由がわからず、このような凶悪な魔物を退治しうる腕があることを広める事によるメリットや、報奨金、冒険者ではなく騎士になるという道を示してみたものの、透もセレスも首を横に振るだけだった。理由は後で話す、という事だったのでクリスも不承不承、二人の願いどおりに『討伐はクリス主体で行った』という喧伝を行い、戦利品であるラグゼスを掲げて凱旋したのだが……

 その理由を聞かされて、クリスは頭を押さえながらも意味を理解でき、苦悶の混じる声で問いかけた。


「えぇ、そうなります。これからわたしたちは、神国に行き、トールの事を母様に報告、相談しなくてはいけないのです」

「フレアライト侯爵閣下か……まぁ、確かに、世界で1位とも2位とも言われる頭脳の女史であれば、異世界などとわけのわからない話も解析はできるかもしれんな……」


 そこで、クリスの言い方にほぅ、と透は感嘆の息を吐いた。それほどまでに知識の深い人であれば、この状態に対して何かしらの答えが一つは出るのではないか、という期待のためだ。ただ、クリスがやや同情的な視線を透に向けているのが、透は気になった。


「……クリスさん、なんですその目」

「いや、私も拝見した事の無い人を悪し様には言えないからな、どうも言えん」

「それ、既に悪く言ってる自覚ありますか?」

「知らんな」


 きぃ、と椅子の角度を変えて窓の外を見るようにして透と視線を合わせなくなったクリスに、透は椅子から立ち上がって執務机に詰め寄る。が、クリスはとぼけるような返事しかせず、透と視線を合わせる事はなかった。だからこそ、透は振り向きセレスに顔を向ける。――その顔も、少しばかり顔色が悪かった。


「……だ、大丈夫ですよ、トール。その……えっと、ちょっと、好奇心が強い人ですが……」

「ですが?」

「……いきなり解剖したりは、しませんよ?」

「ごめん凄く不安になってきたんだけどそれ」


 何とか必死にフォローしようとするのだが、続ける言葉のせいで透は更に不安な顔になる。しかし、それ以外に現在の状況について何かしら相談でき、回答に近づける道も探せないという事は理解しているので、飲みこむ顔をしてから椅子に再び戻った。


「しかし、残念だ。貴様らの願いを聞く代わりに子飼いにしてやろうと考えていたのに、アテが外れた」

「え、そんな事考えてたんですか」

「当たり前だろう?バーサークロードクラスの魔物を2人で討伐できるような腕だ。どこも放っておかんぞ。だから、貴様らはとっとと神国に行け……ほら、これくらいは用意してやる」


 椅子に戻った透に対して大げさに残念そうなそぶりを見せつつ、机から何か書類を取り出し書き始めるクリスに、むぅ、と透は唇を尖らせる。そんな透をなだめるように、書き終えた書類をふい、と投げて透とセレスの前の机に落とす。何がかいてあるのかと読み込んだセレスが驚いた顔をして。


「……転移陣利用特別許可証!?いいんですか!?」

「あぁ、今回の私からの礼だ。……何だかんだ言ってはいるが、今回のあの魔物……貴様たちが居なければ甚大な被害が出ていたことだろう。それに対するものだ」


 セレスの質問に、クリスが柔らかく笑みを浮かべて頭を下げる。

 この転移陣利用特別許可証というものは、基本的に王侯貴族やギルド支部長が緊急時にのみ使用できる切り札のようなものだ。これを使えば、1回の使用に1人あたり25万ゴルドかかる費用も無料になり、さらには待ち時間平均3か月を飛ばして割り込み使用することができる。

 現在透たちがここで冒険をしていたのも、この費用50万ゴルドとあらかじめ行っていた予約の待ち時間のためだった。その両方が解決できる書類に、驚くのも無理はなかった。


「ありがとう、ございます」

「……気にするな、と言いたい所だが、そういえばクラスマイン侯爵家の力でどうにかできたか?であれば私はこれ以上なく恥だと思うが」

「いえ、その。ご安心ください。その……母が、今年の初めに和国の宮参りの神事を見るためと、3月に法国で新たに発見された魔書を見るためにつかって、当分禁止と言われているようですから……」

「そう、か……」


 ありがたく転移陣利用特別許可証をセレスの『インベントリ』に収納しつつ、ふと行われたクリスの問い。それに対するセレスは死んだ魚のような顔をして返事を行い、クリスはそれに対して何も言えず、ただ目をそらすしかないのだった。

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