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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
24/30

第24話

――彩暦635年4月25日

於:草原の街ラフィン・冒険者ギルド


……――


 ダンジョン『グリュン山砦』と名付けられたオーガの砦ダンジョンは、成立後24時間を待たずにラフィン冒険者ギルドの発令した特例依頼により壊滅した。壊滅、というのはダンジョン内で二度と魔物が発生しないようにダンジョン最深部のコアとなっているものを破壊することで達成する。

 たとえばラフィン南のダンジョン『ルーディルベーアの森』などは、近くに民家などもなく、危険な魔物の数もそう多くなく、冒険者の修練に使い勝手がよいという理由から最深部のコアである樹木は人間の手で保護されている。そのようなダンジョンはこの世界では珍しくなく、冒険者であれば世界各地のダンジョンに入ることが可能になる。


 だが今回の『グリュン山砦』に関しては、湖国の西部交易主幹都市であるラフィンから徒歩で1日かからないという距離。加えて初期測定ではジェネラル・オーガという、討伐に最低でも熟練冒険者5人。安定して倒すのであれば10人を要する魔物が出る、と推測されていた。故に、特例依頼が発令される。ラフィン近辺にいた冒険者総勢83名とギルド支部長クリス・クランドールの合計84名によるダンジョン攻略が開始される。

 ――だがその情報は過少であった事がすぐに判明する。オーガだけでなくオークやコボルトも存在し、一応ながら指揮系統が存在する集団として冒険者が迎撃される。さらには最深部に存在したのはジェネラル・オーガを超えるバーサークロード・オーガ。冒険者だけでなく湖国騎士団による討伐命令すらおかしな話ではない状況になった。

 

 ラフィン冒険者ギルドの支部長であるクリス・クランドールがたった3人のパーティで討伐に成功したという話は翌日にはラフィンの街でもちきりになり、ダンジョンから持ち帰られた宝物や魔物の素材に街が湧いた。その盛況は日が天頂を過ぎななめになった頃にもまだ続いており――


「さて、そろそろ洗いざらい吐いてもらおうか?」


 冒険者ギルド3階にあるギルド支部長室にもその声が聞こえる中、執務机に肘をついてやや疲れた表情を浮かべたクリスが応接用の椅子に座る透とセレスに説明を促した。


「洗いざらい……どこからですかね?」

「来歴と、貴様の技術だ。あとセレス、『恩恵』については湖国ギルドに登録されていないぞ?罰則はないが、登録しておけばいくらか支援もあるというのに……その辺をしなかった理由についても説明してもらおうか」


 今日は街の外に出るつもりがない様子で、防具を一切身に着けていない透が軽く首をかしげて質問に質問で返し、クリスが少し苛ついた顔を見せて、さらに透の隣で我関せずと座っていたセレスにも視線を向ける。セレスは額に汗しながらそっぽを向いて吹けない口笛を吹く真似をするも、クリスの視線が外される事はなく、観念した様子で眼を閉じた。


「……他国に、全力を晒すつもりは無かっただけ、で通じませんか?」

「……その言い方をする、という事は」

「私の名前は、セレス・スティフ・クラスマイン。ギルド登録名のグラスハイトは、婿入りした父の旧姓です」


 ぼそ、っと小さい声で。普段のような明るさはなく、少し拒絶の混ざった冷たい声色で答えるセレスの言葉に、クリスは眉をぴくりと反応させた。そしてその次のセレスの言葉に、がた、と椅子を揺らす。


「……っ!?……なる、ほど。……その事、トールには伝えているのですか?」

「いえ、まだです。……この後神国に行く予定でしたので、その時に伝えるつもりでした」

「……どういうこと?」


 セレスの告白に対しては、偽名だったのかな?程度に話を聞いていた透だったが、露骨に言葉づかいを変えるクリスと、自分の名前を出されては会話に割り込まないという手はなかった。む?と首をかしげて二人に視線を向けると、クリスは若干気の毒そうな顔を見せ、セレスは申し訳なさそうな顔をする。


「六王家と、十二公爵について知識はあるか?」

「え?えーと……現在世界に存在する六つの国の王家と、あと王を補佐する文武を司る一国二公の十二公爵家……でしたっけ?」

「その程度の知識はある、か。……クラスマイン公爵家は、神国の文武のうち文の公爵家だ」


 冒険者になる前に、セレスにこの世界のだれでも知ってる話リストに上がっていた内容をクリスに問われ、少し思い出す仕草をして答えを返す透。それにクリスは安心した表情を見せてから、セレスに対して指差すのでなく手のひらを向けるような指し方をした。


「……ほんと?」

「……はい、ほんとです」

「ひぇぇ……」


 想像だにしなかった答えに、きりきりと古臭いからくり仕掛けのようにゆっくりとセレスの方を向き、首をかしげる。しかしセレスは、申し訳なさそうに頷いて認めるだけであり、透はそれを聞いて珍しく驚いた声をあげて椅子に身を深めた。そんな透の様子に、少しもじもじしながら表情をうかがうようにセレスが顔を寄せる。


「……ぁ、何?」

「いえ、その……と、友達ですよね、わたしたち?」


 若干思いつめているようにも見える表情に、透がすぐに視線を天井からセレスの顔に戻すと、セレスがもじもじしたまま尋ねてくる。その質問の意味が理解できず、透は、ん?と首をかしげた。


「え……友達じゃないの?」

「……!あ、いえ、そうです、友達です。トールっ。」


 質問の意味も理解できないまま、思ったままに答えを返すと、セレスは嬉しそうな表情で透にぎゅ、っと抱きつく。透は何が何だかわからないまま、セレスの頭を撫でながら視線を感じてクリスの方に顔を向けた。そこには、若干胡乱な顔を向けているクリスの顔があった。


「……まぁ、貴様らがどうなろうと私の与り知らぬ所だ。見ぬ振りをしよう。……では、クラスマイン嬢」

「あ、いえ。セレス、でお願いします。冒険者としては今後もセレス・グラスハイトとして通しますので」

「……そうですか。いや、そうか。では、今後も冒険者としては『恩恵』登録はなし、ということでいいのか?」

「話が速くて助かります。そのようにお願いします」


 何かをあきらめるような様子で顔をふり、居住まいを正して透に抱きついて表情を崩しているセレスに声をかける。が、それに反応してセレスはさっと透から離れて椅子に座り、真面目な顔で訂正を求めた。

 それに対してクリスも追及するのはやめて、セレスの今後の扱いについて口を開いた。その内容がセレスの求めるものだったために、セレスは嬉しそうに笑みを浮かべて頷く。


「まったく、本来冒険者登録は本名で行うものだろうに……貴様、神国のトーレンツを抱き込んだのか?」

「トーレンツおじ様にはお世話になりました。安心してください、母の許可も出ていますので」

「フレアライト様も承知の事、か……であればもう何も言えんな」


 一方対照的に苦いものをかみしめたような顔をしてぶつぶつと呟くクリスに、セレスはにっこりと笑みを浮かべて返事をする。その時に出された名前に、もうクリスは考えるのをやめて顔を振った。

 一連の流れを、透は特に自分にとって問題があるわけでもなさそうなので黙って推移を見守った。そんな透の様子にセレスは嬉しそうな顔をしている。


「……とりあえず、質問したい内容は1つ、終わった。もう1つはトール、貴様の出自だな」

「セレス?」

「言っていいと思いますよ。クリス様は秘匿すべきことはちゃんと隠す方だと信じれますし」

「何の話をしている?」


 クリスからの問いかけに透はセレスに伺いをたて、セレスがOKを出す。その流れに何か不穏さを感じてクリスの声がとがった所で、透はす、っと片手を上げた。


「私、異世界人です。どうもこことは別の世界から来たみたいでですね」

「――は?」


 セレスの許可が出たのでさっと出自を答えた透の言葉に、クリスは今日1番の驚き顔を晒す事になるのだった。

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