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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
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第21話

――彩暦635年4月23日

於:草原の街ラフィン北東・ダンジョン『グリュン山砦』


……――


「ここが最深部のようだな……」


 それからおよそ2時間ほどかけて透たちはダンジョン最深部の扉前に到達していた。3人の目の前にある高さ3m少々の大きい扉は、禍々しいまでのオーラを放っている。つい先ほどまで通ってきた通路にはオーガやオークたちがどんどん湧いてきたというのに、この扉がある広間だけは不気味な静寂に包まれていた。


「少し休憩をしよう。トール、セレス。状態は?」

「……流石に、ちょっと疲れました」

「わ、たしも、休憩、ありがたい、です……」


 装備品に傷を作り軽傷も負ったがセレスの魔法で治癒して先頭を歩いていたクリスはまだ元気そうなのだが、怪我はしていない透と基本的には雑魚散らしと支援しかしていないセレスは疲労が蓄積されていた様子をありありと見せて床に座り込んだ。

 このあたりは、冒険者としての年季の差なのだろう。クリスは二人の様子に何も言う事はなく、『インベントリ』から携帯式のコンロのようなものと薬瓶、そして2つカップを取出し、薬瓶の中身をカップにいれて温めはじめた。


「これを飲むといい。苦いが、効く」


 やがて湯気をたてはじめたカップを二人に差し出す。透とセレスはそのカップを受け取り、そろってその中身を見て顔をしかめた。


「な、なんですこれ」

「臭……っ!においがまず臭い、ですっ……」


 困惑した表情を浮かべる透に、顔を近づけ涙目になるセレス。二人の様子にクリスは少しばかり楽しそうに笑みを浮かべた。


「ハイポーションに竜舌根と炸裂サボテンの煮汁を混ぜて濃縮させたものだ。疲れが軽く吹き飛ぶぞ」

「はひっ!?は、ハイポーションに、竜舌根に、炸裂サボテン!?」

「……何それ?」

「どれもこれも10万ゴルドはする魔法薬とその材料、です……!」


 クリスが軽く口にした材料に、透がいつものように首をかしげてセレスが驚く。そしてその驚いた理由を説明する……という流れをクリスはじっと見て、口を開いた。


「片や魔法じみた剣技を使い、卓越した戦闘センスがあるにも拘らずその歳まで無名で、また世間に対する知識も少ない。片や戦闘技能は不足しているものの魔法の応用力に長け、造詣が深い。それこそ冒険者としての力量とは不釣り合いにな。……お前たち、自分たちが如何に特異……というか、何かを隠している事がバレバレだと流石に気付いているな?まぁ、とりあえずソレを飲め。冷えると流石に飲めたものじゃなくなる」


 感情を乗せない、やや詰問めいた口調の言葉に透とセレスはそろってうめくような声を上げる。そして、透が一瞬首をかしげた。透にとっては自分が異世界から来た存在だという秘匿すべき情報はあるものの、セレスにもそのような話があるとは思ってもいなかったし、聞いてもいない。ちらりと視線を隣のセレスに向けると、セレスは少しだけ居心地が悪そうに身をよじっていた。

 二人の様子にため息をつくクリスは、とりあえず渡したものを飲めと急かし、二人とも覚悟を決めてそれを口にする。


「ぅえ」

「ぎゅ」


 口に広がる、エグみと苦味。まるで野に生えた草をアクも取らず煮詰めてできたかのような青臭さに、二人そろって悲鳴をあげた。が……すぐに、二人とも目を開いて腕をふったり立ち上がったりする。


「え、嘘、さっきまでの疲れがない」

「こんなに、効くものなんですね……」


 蓄積していたはずの疲労が吹き飛んだ様子に、透とセレスはそろって驚いた顔を見せる。クリスはそんな二人に残りも飲むようにジェスチャーし、二人は従って顔をしかめながら残りの液体を飲み干した。

 飲みきったものの口内に苦み走った液体がこびりついており、セレスは『インベントリ』から水筒を取り出して水を飲む。透もそれを見て真似して水をとりだし一気に飲み、それでなんとか一息をつけた。


「どうだ、良く効いただろう」

「効きました、けど……」

「好んで飲みたくは、ないですね……」

「そうだろうな。私もできればこれは飲みたくはない」


 肉体の疲労は回復した変わりに精神的に疲労したような様子を見せる二人にしれっとクリスが告げて、薬瓶に残った薬液を一気飲みしたあと投げ捨てる。ぱりん、と割れる音が響き、透とセレスが信じられないものを見たような視線をクリスに向ける。


「なんせ回復効率だけを考えた薬品だ。本来であれば長期戦闘の後や防衛戦のように休憩する暇がない場合にだけ使うものだ。私の消耗具合だけなら、もう少し効率が悪い代わりに飲みやすい魔法薬でもよかったが……貴様らには、それでは足りないと判断した。これから、ダンジョンのボスとの戦いになる。貴様らが疲れて動けないなどと言い出したら私が困る」


 『冷めると飲めたものではなくなる』と自分で言った薬液を温めもせずに飲み、苦々しい顔をしながらもセレスたちのように水で流し込みもせず、禍々しい扉を向いて歩きはじめた。


「先程の質問の答えは、ボスを倒して町に帰ってから聞かせてもらうぞ。きちんと私が納得できる答えができるように、今のうちに考えておけ。……まぁ、この規模のダンジョンのボスだ。戦っている間に考える余裕など、ないだろうがな」


 ちらりと振り返り、強い視線で二人を射抜きながら扉に手をかける。言外に、準備はいいな?と問いかけているのが、透とセレスにも理解できた。

 だからこそ頷き、クリスの後ろに立って扉を見上げる。


「よし、では開けるぞ」


 二人の準備ができたことを確認し、クリスが扉をゆっくりと開いていく。

 ――その先にあった空間は、例えるならば闘技場か。円形のフィールドに、囲うような檻が存在している。障害物も何もない空間は、野球のグラウンドが入りそうな程広かった。天井もひどく高く、空間を無視しているかのように檻の天井が上にある。最初は暗かった部屋も、三人が入ると檻の外に無数の松明が浮かび明るくなった。

 そんな広い空間の真ん中に、巨躯の魔物が1匹佇んでいる。オーガの特徴を持ちつつ、肌は黒く鎧のようなものを身に付けた存在だ。右手には禍々しい、セレスの体ほどもありそうな斧を持っている。

 そのオーガが、三人と目を合わせた瞬間大地が震えるような雄叫びを上げ、土煙を上げて爆走してくる。


「バーサークロード・オーガだと……!?トール、全力で行け!こいつ、さっきまで倒していたオーガの100倍は強いぞ!」


 雄叫びを受けて顔をしかめたクリスが、それだけ叫んで前に走った。

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