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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
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第20話

――彩暦635年4月23日

於:草原の街ラフィン北東・ダンジョン『グリュン山砦』


……――


 砦の中は『ダンジョン』と呼ぶに相応しい造りになっていた。

 暗い道、トラップのある通路、飛び出して来る魔物、そして……何故か設置されている宝箱。この世界の誰に聞いても理由はわからないが、ダンジョンにはそういったものがあるのが当たり前であり、もはや常識として理解されている。だからこそ冒険者たちは一攫千金を夢見てダンジョンに潜る者も多い。


「悪いが、我々はダンジョンの奥を制覇することを優先する。報酬は出すので、道中の宝物については特例依頼に参加させられた彼らに譲ってやってくれ」

「わたしたちも、参加させられた側なんですけど……」


 先頭を切って進むクリスの言葉に、やや不服そうにセレスが唇を尖らせる。セレスも冒険者となって戦ってきたものの、こういうダンジョンに潜った経験はそう多いわけではない。だからこそ宝物に対して興味を惹かれているのだが……クリスとしては、それ以上にこの規模のダンジョンの主に対して神経を尖らせていた。

 ぽっと出のダンジョンにしては、やけに階層が広く魔物の数が多い。冒険者の数も多いというのに、砦の石通路を進んでも他の冒険者に遭遇することは少ない。とはいえ人が居ない訳ではなく、反響してくる剣戟や魔法の音、魔物の叫び声などは聞こえてきている。


「……気をつけろ、魔物がくる」

「あ、はいっ」

「了解です」


 突然足を止めたクリスの言葉に、透も腰を落としつつ刀に手をかける。セレスも前衛としても後衛としても動けるように、右手に白い光を生み出した。

 どしん、と重い音を響かせて通路の先、曲がり角からぬぅ、っと野太い腕が出てくる。続いて出て来るのは、人間を肥大化させたような胴体部だ。そしてその上には、角の生えた頭があり……眼は血走り、牙と牙の間から熱い吐息を漏らしている。


「オーガだ。知ってるか?」

「実物は初めてですが、ギルドで話は聞いています」

「結構。では行くぞ、私が地面に撃つ魔法の効果範囲には入るなよ」


 すらりと剣を抜いたクリスの問いに、透は頷く。

 今回のダンジョンで最も危険視されている魔物の種族である、オーガ。本来であればダンジョンの深い層か、古く強い魔物の出るダンジョンか。でもなければ浅い層でトラップにより偶発的に召喚されるくらいでしか目にかからない魔物だ。


 見ての通り筋骨隆々の肉体は非常に力が強く、素手であってもその拳で石造りの家を破壊するほどの威力を出す。巨躯ではあるものの、その肉体に無駄な造りはないため動きもそれなりに機敏。動物的な直感力も高いのか、トラップに対する回避力もそれなりにあり……また、不意打ちをしても対応されることがままある。

 肉体は頑強であり、堅牢。街で量販されている安物の剣はまず刃が通らない。筋肉らしい弾性もあるため、打撃系の攻撃にもある程度耐性を持っている。

 弱点としては、魔法能力の低さか。一応、魔物であってもある程度のランクの存在は人間同様に【色】を生み出し魔法を使う。オーガもその例にもれず、魔法を使う魔物の一種だ。で、あるが、その魔法の能力はそう高くない。一般的には、冒険者かけだし程度の魔法しか使えず、魔法に対する対処ができるのならば脅威にはあまりならない。

 ――逆に言えば、それくらいしか弱点がない。初級の冒険者であれば遭遇は死を意味するような存在だ。


だが……クリスは気負いする様子もなく、剣と盾を構える。そのほんの少し後ろで、透も居合抜刀の構えをとった。

セレスは緊張に額に汗をしながら周囲の気配を探るが、他に増援がなさそうであることに少しだけ安堵する。

オーガの視線が透たちの方に向くと、その眼に剣呑な輝きを生んで耳障りな咆哮を放った。それにセレスは体を震わせるものの、クリスも透もそれぞれ経験と胆力で体の緊張を軽減させてこちらに向けて駆け出してきたオーガに対して戦意を見せる。


「走れ氷刃、茨の如く貫き穿て!《グラシアル・ソーン》!」


 盾の内側で生み出したクリスの【青】の色から、床に向けて光が放たれる。そこから地面に霜が降りたように白く凍てつく冷気が生まれると、オーガに向けてその凍った地面を広げていく。オーガはソレに対して踏み込みは危険と察知した様子で、どん、と石畳を蹴り割って跳躍。肉の塊となって、弾丸のような速度で突撃してきた。

 対するクリスが再び魔法を使おうと色の輝きを増した所で、透は刀を抜いて地面にそれを突き立てる。


「人剣地技、《地裂衝》!」


 飛び込んでくるオーガの真下、凍てついた氷の床が透の剣気によって爆発し、空中で動きの制御ができなかったオーガはそれをまともに食らってしまう。

 真下から真上に向けての、指向性の強い爆発によって天井に叩きつけられたオーガはそのままふら、と地面に落ちてクリスの氷に捕まりその体に氷の茨が絡みついていく。


「……非常識極まりないとしか言えないが、助かる。まさか傷を受ける事なく、《ソーン》に嵌める事ができるとは思わなかった」

「なるほど、こういう魔法だったんですね……ちなみに私が何もできなければ、どうしたんですか?」

「私が使える【青】の魔法には、氷の盾を生み出すものがある。それと氷槍を生み出して物理的な圧力で押し込む、という感じだな。多少は衝撃を受けるが、オーガ1匹や2匹程度ならこれでどうにかできる」


 苦しそうなうめき声をあげるオーガだが、すでに両手両足にクリスの魔法で生み出された氷の茨が絡みついてその肉に突き刺さり、動きを止めている。関節に適切に棘が刺さり、動けなくしているあたりが非常にいやらしい効果だと、透は思った。

 ギルドで教えてもらったように、オーガの急所は人間と同じらしい。体格が同じだからか、なのかもしれないが……目の前のように、足首に深く氷の茨が突き刺されていては健もボロボロだろう。あの足が動く事はもうない、と判断できた。


「想定以上に楽ができるのはいいことだ。これからも頼むぞ、その訳がわからん技で助けてくれ」

「訳がわからんとか言わないでください」


 身動きのとれないオーガの首裏に剣を突き刺しとどめを刺したクリスは、その地面にかけた魔法をといて軽く息を吐き軽口を叩く。先程の魔法は、【青】の中でもそれなりに高位の魔法なのだ。本来であれば後衛の術士が精神力を練り上げて使うものを、剣と同時に扱えるクリスの能力に驚くべきなのだが……

 不幸というべきか、透はまったく理解ができていないし、セレスにも高度すぎてどれくらい難易度が高い行為なのか、気づけていない。


「そういえば、あの……カオーバクセン、とか言ったか?あの門を破った技だが、アレを使えばオーガの1匹くらい楽に仕留められんか?」

「できなくはないですけど……周辺の壁、耐えきれますかね?生き埋めとか嫌ですよ?」

「トールのカオーバク、さっきの門を吹き飛ばしたセンとか言うのがつかない方はこの通路の両端くらいまで一気に巻き込みますからね……やめてください……」


 門を吹き飛ばした威力を思い出してクリスが提案するも、主にセレスが断固拒否してその案を取り下げさせた。それは以前、『ルーディルベーアの森』で試し打ちをした時に吹き飛ばされてしまったため、だろう。先程の《火皇爆・穿》で集中させた爆発であっても吹き飛ばされた以上、透としてはセレスの近くでこの技を積極的に使う気にはなれなかった。


「まぁ、いい。先程の……チレツショー、とやらもいい技だ。他にもあるのだろう?楽しみにさせてもらうぞ」


 透とセレスが渋る以上はクリスも無理を言う事はできず、頷いてから立ち上がり先へと進む。それに追いつくように、透とセレスも少し小走りになって追いかけていくのだった。

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