第2話
――彩暦635年4月5日
於:リグル村・周辺
……――
「あぁそうだよ!俺様たちは『凶骨の牙』だ!」
「変な格好してやがるが、この辺じゃ見たことねぇ特徴してるツラだ。ってことは冒険者かなんかだろ?じゃあ俺らの名前くらいギルドで聞いてるだろぉ?」
「今この『湖国』を恐怖に陥れている盗賊集団!宝も酒も食い物も女も全部戴くぜぇ!」
女2人と侮り、ゲラゲラと下卑た笑い声をあげる3人。それぞれ右手には安っぽいが刃の手入れはされているナイフを持っている。
ナイフの先端を透と女性に突きつけて、ニタニタと獲物を甚振るように少しずつ近づいていく男たち。
その足が、止まった。
男たちは困惑した顔をしてお互いの顔を見るが、なぜ自分たちの足が止まったのか理解できていない様子を見せる。
「あぁ、そう。あんたたち、盗賊なんだ。――強盗、なんだ」
自慢げに謳う様子を聞いていた透が、平坦な声のままに右手を左腰に佩いた刀のうち、飾りの無い『無銘』の柄に手をかける。
かちゃ、と鯉口を切る音を立ててすらりと無骨な鋼の刀身を露わにし――
「何が起きてるのかさーっぱり分からないからイラついてた所で、目の前に強盗ね。いいわ、ちょうどおあつらえ向きじゃん。あんたたち――」
あは、と。乾いた笑みを浮かべ。
彼女は顔を上げて蟲を見るような視線を男たちに向ける。
「殺してやるわ」
透の足が男の足で10歩分の距離を一瞬で詰める。
そのまま無造作に刀を振り上げると、すぱん、と音を立てて真ん中に立っていた男の右手が根本から切り離され――
続く薙ぎで首が刎ねられ空を舞う。
「悪い、とはちょっとだけ思ってあげる。なんせ、これは『憂さ晴らし』の『八つ当たり』なんだから」
1人目があっさり殺された事に、まだ残り2人は反応できていない。
きょとんとした呆けた顔を透に向けたままの男に、続く刃が閃いて――ざん、と透から見て右に居た男が袈裟懸けに切り落とされた。
流れるように左足を軸にして体を回転させつつ残る1人を逆袈裟に切り上げ。
「が」
「あぉ」
命脈を絶たれた男たち3人は、何かを言おうとした顔のままに崩れ落ちる。
溢れ出る血は大地を汚し、空気に鉄錆た臭いを含ませながら……
――透は、ほんの数日前の事を思い出していた。
鍛冶師である父の作品を納品しに町に出かけ、一緒に昼を外食で済ませて銀行に寄った所で――銀行強盗に襲われたのだ。
薬物を使用していた男たちは容易く密造銃を撃ち銀行員や民間人を射殺。
さらに残る銀行員に遊びで仲間を殺させようと銃を渡して脅しはじめた所で透の父清流と透が立ち上がった。
二人は持っていた刀と竹刀で男たちを取り押さえるが――透が当身で気絶させたと思っていた男が不意に起き上がり、発砲。
狙われていた透をかばい、清流が銃弾を受けてそのまま亡くなったのだった。
父の仇と思っても日本の法律では仇討ちは禁止されている。
そういう事もあり、心の内にかかえていた思いが――ここで現れてしまったのだろう。
「……あー、ぁ」
悲しみのような、嘆きのような、なんとも言い難い声を漏らしながらジーンズのポケットに入っていた懐紙で刀を拭い、納刀する。
ぽりぽりと頭をかきつつ、透は振り返って女性に顔を向けた。
「えー……っと、つい、やっちゃったけど、不味かったり、します?」
地面に広がる血液から逃げるように、立ちすくんでぽかんとした顔をしていた女性の元に透は近づいていく。
そして声をかけると、はっ、とした様子で女性は透の顔を見て。
「あ、ありがとうございました!!ええっと……いえ、『凶骨の牙』は指名手配盗賊団ですし、生死不問で問題はないです……っていうか、すごい腕前ですね。あの、冒険者の方……ですよね?」
頭を下げてお礼を言う女性は、物言わぬ骸となった盗賊たちよりは上質そうな革製の軽鎧に短いマントを身に着けている。
その首には銀のチェーンで吊り下げられた白い宝石のペンダントトップが吊り下げられており、それが月光を鈍く反射していた。
お礼の言葉に続いてちらりと死体に視線を向けたあと首を振り、そして逆に透に質問を投げかける。
身長は透とほぼ同じで、声色から察するに恐らく女性と透は同じくらいの年齢なのだろうと思われる。
声色――と、そこで透は目の前の女性と、先ほど斬り捨てた男たちが『日本語ではない言語』をしゃべっていた事にも気づく。
が、何故か自分も自然と女性と同じ言語を口にして会話が出来ていることに首をかしげた。
「んぁ、いえ、冒険者、じゃないです……っていうか、うーん、色々と訳が分からない状態なんですけど……それはさておき、多分『厄介事』の最中ですよね」
いまだ女性の上に浮かぶ光を見上げ、銀髪碧眼という日本ではまず日常的に見かけない容貌の女性と違和感なく会話している事に対する疑問は……とりあえず後回しにしておく事にした。
それ以上に、透はきな臭いにおいを感じていた。多分それは、早急に対応しなければ行けないのだ、と本能が感じていた。
「あ……は、はい、そうです。巡回騎士様と一緒にギルドの依頼でリグル村に来たら、あの『凶骨の骨』が襲ってきて……!騎士様達は不意を討たれてしまって、わたし、助けることもできなくて……」
「あ、いや、詳細は後でいいです。とりあえず、こう聞きます。――助けが要りますか?」
涙を滲ませ、緊張の糸が切れたように透に訴えかけようとする女性に手のひらを向けて言葉を遮り。
単刀直入に、尋ねる。
「は、はい……お願いします!助けてください!」
「おっけー、了解です。じゃあ行きましょうかっ」
頷き、震える声で懇願する女性に透は力強く頷く。
――正直、透にも何がなんだか分かっていない。疑問は果てしなく山積みとなっている。
だが今は、目の前の女性を助けることに集中しようと、透は自分の中の疑問をとりあえず深く沈めていくのだった。




