第19話
申し訳ありません、予約投稿の設定ミスをしていました……
明日以降もちゃんと18時に投稿していきます。
また、前話の最後の透の言葉を少しだけ修正しました。
――彩暦635年4月23日
於:草原の街ラフィン北東・グリュン山中腹
……――
門に向けて走る透に、矢が降り注ぐ事はなかった。先ほどの一撃で、コボルト弓兵はつぶす事ができていたようだった。だからこそ安心して門に取りつくまでできるものの、そこで門の両脇の小さな扉からオークやコボルト短剣兵が出てきて透に殺意を向けてくる。
しかし、後ろから追いかけてきたセレスの拳が片方の扉から出てきたコボルトを殴り飛ばし、もう片方はクリスの剣が踊り、切り捨てる。
「どういう事だ、何か策があるのか!?」
「策、という訳じゃないです。ただのゴリ押しなんで。……セレス、ちょっと威力を上げた『火』を使うから、ほんのすこしだけ時間稼ぎしてもらっていい?クリスさんも、頼みます」
「あああ、あれやるんですか!?ああぁ、っもう、まぁ、確かにアレなら扉壊せるでしょうけど……!?まって、威力あげる……って言いませんでしたか!?」
一度、透の『火』……つまり、人剣火技を見たことがあるセレスは動揺を露骨にみせながらオークの顔面を拳で突いて吹き飛ばした。その動揺の具合に訝しげな表情を浮かべつつ、クリスは襲ってきたコボルドを一刀両断する。
「よくわからんが、その『火』とやらを使えば何とかなるんだな?ならやってしまえ。時間をかけるのは得策ではない」
「了解ありがとうございます。……まぁ、ほんの5秒程度ですから。合図したら、飛びのいてください」
出口専用の小さな扉から延々と魔物が飛び出てくる状態に辟易した様子のクリスが許可をだし、セレスがえー、っと悲鳴を上げる。透はよしきた、と1歩だけ下がって刀を霞の構え……顔の横で、刀身を先端に向けて突き出すポーズをとる。
――瞬間、ごぅん、と、透の体から今まで以上に濃い金色の光が吹き上がり、その刀身へと吸い込まれていった。そして刀身から、まるでジェット機のエンジンのような高い音が響いていく。
その光景に、透の『色』を知った冒険者たちのざわめきが広がる。だが、その彼らが何かを言うより早く、透は身を屈め突進するポーズとなり。
「行きます、二人とも離れて!」
その声に反応し、セレスは組み合っていたオークの手を掴んで小さな入り口に突き飛ばし、クリスは盾でコボルドの頭を強打して蹴り飛ばした。そして二人ともが、ばっ、と左右に飛んで門の前から離れる。それを視認して、透は大地を蹴り赤い輝きを帯びた刀身を突き出した。
「人剣火技、《火皇爆・穿》!!」
技名の咆哮に合わせて、刀身を覆う赤い輝きは先端へと集まる。その輝きは赤から濃く紅となり、やがて黒へと近づきながら大気を切り裂く爆音を唸らせ――が、っと音をたてて刀の先端が強固な砦の門に刺さる。
次の瞬間。
「ひぁ、ぁぁっっっ!?」
「く、ぉっっ!?」
外開きの門が内側に跳ね開けられる。蝶番は門の外枠ごと吹き飛び、片側だけで重さが1トンはありそうな扉がきしみ、浮かび、透の目の前で強引に開門させられた挙句に近くにいた魔物ごと吹き飛ばされ扉の内側に重い音を立てて倒れ込んだ。
爆音と轟音が響き、門が倒れてそこにいた魔物たちを潰して消滅させていく。本来であれば感情も何も持たない魔物も仰天したのか、左右で飛び出す準備をしていたコボルトが吹き飛んだ扉の方を見ながらギィギィと耳障りな喚き声をたてていた。
「今だ!総員、突撃せよっっ!!」
そんな魔物たちの混乱の様子に、クリスは剣を掲げて待機していた冒険者たちに突撃命令を出す。呆けていた冒険者たちも、リーダーであるクリスの言葉に鬨の声を上げて、武器を構えて砦の中へと突撃していくのだった。
「姉ちゃん、やるじゃねぇか!」
「な、コレ終わったら、話させてくれよ!悪い話じゃないからね!」
「大丈夫か?力使い切ったか?まぁ後は任せとけって、俺らで何とかするからよ!」
先程の一撃で体内の剣気を消耗し、地面に膝をついていた透の所を避けながら冒険者たちは砦内に駆け込む。その時、すれ違いざまに近くを通る冒険者たちは透の肩を叩き、笑顔を見せてから中へと駆け込んでいった。
扉近くで起きた戦闘は、動揺していた魔物たちが一方的に駆逐される流れになる。その勢いにまかせて、冒険者たちはどんどん奥へ進んでいくのだった。
「さっきの技は……いや、詳しくは今は聞くまい。動けるか?大分疲弊しているようだが」
冒険者たちがほぼ全て砦へ押し入った所で、クリスが透の元にやってきて手を差し出す。それを握り返し、引いてもらいながら透は立ち上がって膝についた土を払った。
「ありがとうございます。おもったより消耗があった、というだけですから動けますよ。……セレス?」
腕を少しくるりと回して不調がない事を確認し――そこで、セレスが近くにいない事に気づいて周囲を見回す。
すると……セレスが、入り口近くの茂みに余波で吹き飛び突き刺さっているのが見えて、透は慌てて彼女の腰を掴んで引っ張り出した。
「……トールには、やはり今度、お説教する必要が有ると思います。仲間であれば打ち合わせもするものでしょ?それに、さっきの技、唐突に『威力が高い』のを使うとか聞かされた身にもなってください」
「ごめん、ごめんね、ほんとごめん……」
じと、っとした眼で助け出されたセレスに文句を言われ、透は素直に反省して頭を下げる。セレスもまだ少し言い足りない、という雰囲気ではあったのだが……クリスがいること、砦の中で戦闘が続いている音がすることから、あぁもう、と頭についた枝葉を捨てて透の肩を叩く。
「本当に、またあとでお説教ですからね?とりあえず、行きましょう。クリス様、おまたせしました」
「いや、気にするほどでもないよ。……トールの腕前は、非常に信用が置けるものだと確信した。我々も行くぞ、雑魚は彼らが掃討してくれるだろうが……これだけの大砦だ。ボスがいる。……甘く見て、ジェネラルオーガくらいは、いるだろう。気をつけて進むぞ」
セレスが頭を下げ、クリスは軽く笑って砦の中を指差す。言うとおり、規模は相当に大きい。入り口から見る限りでは3階層分はありそうな砦で、山の奥に向けてさらに内部構造が侵食しているのも見てとれた。
さらに呟くジェネラルオーガという、言葉。クリスの言葉の苦味が混じった響きに、その脅威を感じながら3人は砦に足を踏み入れていく。




