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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
17/30

第17話

――彩暦635年4月22日

於:草原の街ラフィン


……――


 それからきっかり30分後、クリスは作戦会議室から数人の男性を引き連れて出てきた。そのまま指示を飛ばし、階下で待機中の冒険者に作戦内容と出陣指令を出すように伝え、2階の隅にあるテーブルに座る透とセレスの所へやってくる。


「準備はできたか?私たちは最前線にて敵の撃破にあたる。下の冒険者たちには包囲殲滅の指令を出しているので、砦の中を叩くのが我々の役目だ」

「ちょっとまってください、何でわたしたちが!?」

「【金】を持ち、『凶骨の牙』を討伐できるほどの冒険者を遊ばせるほど余裕がある状況ではないのでな」


 セレスの抗議に間髪入れずクリスが口を挟む。その視線は強く透を貫いており、透は少々の困惑を持ちながらもその視線を受け止めていた。

 じわり、と透の隣にいたセレスは何かよくわからない感覚に顔に汗を浮かばせ無意識に一歩後退する。その背に透は手を伸ばし、彼女の背中を撫でて落ち着かせた。


「敏感だと、ほめてやろうか?」

「結構です。……セレスは私の友人です。あまり苛めないでもらっていいですか?」


 満足そうに笑みをうかべるクリスに対し、透は不機嫌そうにセレスの肩に手を置いて自分の後ろに下がらせる。それだけで、セレスはクリスから透に向けて放たれていた殺気の余波から免れることができ、息苦しさから解放される。

 圧から解放されて深く呼吸をするセレスを見ながらクリスはその威圧を止めて、腕を組みつつ透の顔をじろりと見る。


「苛めているつもりはないぞ。ただ、使えるという話を聞いている貴様に殺意をあてて、反応を見ただけだ。巻き込まれたそっちの娘……セレスには気の毒だったが、その程度を自分で気づいて受け流せない程度であるならば力量不足としか言い切れんな」

「対象以外に殺気を感じさせる自分の力量不足を感じてはどうですか?」

「なんだと?」


 挑発する物言いをしていたクリスの方が、逆に透に挑発されて不機嫌に顔を歪ませる。腰につけた剣を抜く、という事はしないまでもその右拳がぎりぃ、と握りこまれて殴るだけの力を貯め始めているのは明らかだった。

 セレスもそれに気づいて透の腕を掴んで喧嘩を売ったりしないように制止させようとする。クリス・クランドールという女史は戦闘能力だけでいうなら湖国首都である『湖都ルーベリア』を守護する湖の乙女騎士団の団長にも匹敵する、と言われているのだ。カリスマも高く、だからこそ冒険者ギルドの支部長などというある意味荒くれどもを纏める役になっている、とも言える。

 だからこそ、喧嘩にならないように止めようとセレスは動いたのだが……


「っ!?」

「どうしましたか?何かいましたか?」


 唐突にクリスが振り向きざまに腕を振るう。が、セレスから見てもそこにはもともと何もおらず、何もなく、唐突にクリスが何もいない空間に手をふったように見えてきょとんとする。しかし、透は若干嘲るような声をクリスにかけて、それでクリスは何事だったかを理解した様子だった。


「貴様ぁ……」

「これが本来の殺気の感じさせ方ですよ、クリス様」


 セレスからすると珍しく透が不機嫌な様子をあらわにしており、今にも火花を散らしそうな二人の様子におろおろとし出した。それからほんの10秒程のにらみ合いののち、ふん、とクリスが透から視線を外す。


「チッ。イラつかせて底でも見させてもらおうかとしたのにこっちが見られるハメになるとはな。新米って話じゃあ、なかったのか?……さっきのは、貴様の【金】の力か?」

「いや……さっきのはただの技術です。【金】は、使い方は正直わかってない、ですね」


 機嫌が悪そうに、狙い通りにいかなかった事に対する悪態をつくクリス。透も特に気を悪くしていない様子で、問われた事には素直に返事を返していた。一方でセレスは先ほどまで一触即発の空気をかもしていた2人が落ち着いて会話をしている所に、眼を白黒させてどうすればいいかうろたえる様子を見せている。


「すまんな、セレス。トールがどれだけ使えるのか分からなかったので試してみた。巻き添えにしてすまん」

「私もついつい、ノっちゃってごめんね」


 二人して謝る様子に、セレスもようやく先ほどまでのが悪く言えば芝居だったのだという事に気づいて溜息をつきながら椅子に崩れ落ちる。透は申し訳なさそうにしながらカップに柑橘系の果物がういた水を注いでセレスに渡す。セレスはそれを一気に飲み干し、はぁ、と息を吐いた。


「よくわかりませんが、クリス様がトールを試して、トールが合格されたという意味でしょうか?」

「端的に言えばそうだな。足手まといではなくちゃんとした戦士のようで安心した」


 じと、っとした視線をクリスに向け、座った声で質問するも、クリスは何も悪い事はしていないという様子で堂々と頷く。続いて視線を透に向けるも、透も特に機嫌が悪そうな顔をしていないために再び両手で顔を覆った。


「……まぁ、はい、いいです。で、クリス様。二人とも出発準備はもうできています」

「ほう?そうか、準備を怠らないのはいい冒険者の証だぞセレス。トール、終わったらさっきの技を教えてくれ。色々と使ってみたい相手がいる」

「遊びの技じゃないですよ……?んまぁ、いいですけど。じゃあ、セレス行こっか。また馬のっけてね」


 はいはい、と肩を落としながらセレスが立ち上がり階下に向けて歩き出す。透もそれに従うようについていきつつ、ぺこりとクリスに頭を下げた。クリスは軽くうなずいてから、肩を少し回し……


「【金】故の素質か?それとも――」


 透に向けて呟く声は、返事もなく。ただ少しずつ喧騒が収まっていくギルド内に消えていった。

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