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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
13/30

第13話

――彩暦635年4月15日

於:草原の街ラフィン


……――


「ああー、さっきの美味しかったぁ……」

「そうですね、羊肉の香草焼きという単純なものでしたが……肉の状態が最高でした」


 昼食を食べ終えた二人は、くちくなった腹を軽くさすりながら今度は東通りを目指して歩く。

 西通りでは屋台やレストランが多く並んでいるのに対し、東通りには道具屋や武具屋といった冒険者向けの店がそろっているのだ。

 満足しながら歩いていたところで唐突に透がセレスの肩を抱き、ぐい、っと自分に引き寄せる。


「え、っぁ」

「ちっ」


 唐突な動きに顔を赤くしたセレスだが、透の視線は背後から来て追い越し進んでいった男に向けられていた。

 最後に残された舌打ちに不敵な笑みを浮かべ、セレスの肩から手を放す。


「な、なんです、か、急に」

「え?いや、背後からスリが来てたっぽいから……何かまずかった?」


 透の答えにぽかーんとした顔を見せ、腰に下げたポーチに手を伸ばす。

 そこにはちゃんと、先ほどレストランで使ったお金の残りが入っている。

 つまりスリの被害から透が守ったのだが……


「まずくはない、ですが、やり方を考えてください」

「え?うーん……うん?」


 多少憮然とした表情を浮かべ、セレスは額を抑えながらとりあえずそれだけを透に告げる。

 透の方は何が問題だったか理解できない様子で、首をかしげながら頷いた。

 それから先はセレスも油断せずに歩いたせいか、スリなどもやってこないで平穏に東通りへ抜ける事ができた。


「というか、ご飯食べた後のセレスって割と隙だらけなんだよね」

「ここまで来てそう言いますかっ!?」


 微妙に緊迫にも似た空気だったために口を噤んでいた透も、東通りに入ってセレスが一瞬気を抜いたタイミングに合わせて口を開く。

 一方のセレスは顔を赤くして透の肩をぺちんと叩くが、透はさして気にした様子も見せずににこっと笑みを見せた。


「うん、でもいいんじゃない?ご飯を美味しく食べるのはご飯になったものと、ご飯をつくってくれた人への礼儀だって思うし。私の友達ともご飯食べたりはしたけど、セレスほど表情に出るくらい喜ぶ子は居なかったなー……って。個人的にはとてもいいと思うよ」

「う、ぇっ、も、ぅ……!トールは何で急にそんな事言いんだすんですか……!」


 ううう、と唸りながら先ほどより弱い力で透の肩を何度も叩くセレス。

 その刺激に、日本でも友人に似た事をされていたなぁ、と透は懐かしさを浮かべていた。

 叩いても謝るでもなく、視線を遠くにする透にセレスの手も止まって訝しげな視線を向けるが、透は顔を振り。


「ん、ごめんね。地球の友人に似た事して似た事された事思い出してた」

「そうですか。……帰りたいです?」

「んー、できればね。ただ、あっちには未練ってそんなに無いから、気にしないでいいよ」


 その言葉で透が自分がいた世界の事に思いを馳せている事に気づき、セレスは少しだけ寂しさを覚えつつ聞いてみた。

 今までタイミングもなかったせいでもあるが……なんとなく聞きづらかった元の世界へ帰りたい度合いについて。

 ただ、透が軽く首をふると、なぜかセレスはほっとして気持ちが軽くなる。


「わかりました。……さ、トール。早く行きましょう。前衛になるトールは防具を買わないといけませんからね」

「はーい」


 にこ、っと笑みを浮かべてセレスはトールの前を歩く。先ほどのように油断もないが、少し浮かれたような様子を見せながら通りを進む。

 やがて東通りを1/3ほど進んだ所でセレスが路地に入り進み始めた。

 石造りの左右の建物は高く、大きな通りに比べて狭い通路に少し透は警戒度を上げるが、セレスは表通りと同じような様子で進み。


「はい、つきました。女性用防具店クティーラです。さ、入りましょう」


 やがて唐突に表れた少しファンシーな店構えの扉を開けてセレスが入っていく。

 えっと、と透は少しばかり躊躇うような様子を見せるが、意を決して中に入り。


「いらっしゃいませ~♪クティーラにようこそ~♪」

「は、はいどうもっっ……!?」


 緑髪をツインテールにした幼児並みに小さな女性が笑顔で迎えて透の手を取り奥へと進む。

 見た目に比べて力強く、透が一瞬抵抗しようとしたがそれも気にしなかったようにどんどん奥へと引きずり込まれるのだ。


「クティーラさんはドワーフですから。力はトールよりも上だと思いますよ」


 敵意も害意も殺意も全くないため抗うにもどうすればいいか悩んでいた所でセレスの声が聞こえる。

 そちらに透が顔を向けると、セレスはセレスで旅装用のマントなどを選んでいるのが見えた。


「セレスちゃんのお友達で綺麗な人が来るって聞いたけど、ほんとに綺麗さんでびっくりよ~♪うんうん、装備品は何もない感じだしウチで装備を揃えてくれたら割引させてもらうわ~♪」


 どうやら透が躊躇していた短い間で簡潔に紹介されていたようで、店主であるドワーフ族のクティーラはにこにこ笑みを浮かべてひょいひょいとカゴに透用であろう装備を積み上げる。

 さらには下着までぽい、と乗せられ。


「ぅえ、し、下着まで」

「そりゃそうよ~?インナーに合わせて装備しなきゃ、トールさんはおっぱい大きいから揺れて痛いでしょ~?セレスちゃんくらいならこだわらなくていいんだけどね~♪」


 なぜか透のサイズにぴったりそうなブラを乗せられ顔を赤くする反面、続く言葉にセレスの笑顔がびしりと固まる。

 しかし透はそれにフォローの言葉をかけることもできないまま試着室に放り込まれて。


「さ、いろいろ試していくわよ~♪」


 クティーラの楽しそうな声が、店内に響くのだった。

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