第12話
――彩暦635年4月15日
於:草原の街ラフィン・冒険者ギルド
……――
「えぇっと……本当に討伐記録残っているけど、セレス、さっきの話本当?」
「えぇ、本当です。トールが一人で全部やっつけちゃいました」
「いやセレス、それは大げさすぎない?最後は村人全員でやったようなものだし」
「でもその状況を作ったのはトールでしょう?」
「それはそうなんだけど……」
ようやく口を挟めたウェンリィが確認するも、目の前で行われる透とセレスの会話に嘘が混ざっている様子が一切無い事から眉根に皺を寄せたまま納得した顔をする。
だが、理解ができないという表情を浮かべたまま、机の下から1枚の紙を取り出し、差し出した。
それは『凶骨の牙』の討伐依頼書。危険度はDからA、その上のSとSSという6段階のうち『B』と、普段の依頼の中では危険度が高いものと分類されているものだった。
「……『凶骨の牙』って今この『湖国』で最悪の盗賊団だったのよ?それが、冒険者にもなってなかった子に討伐されたって……セレス、この子について何か隠し事してない?」
「隠し事……も何も、わたしがトールと出会ったのは村が初めてですし……」
「剣術は父さんに教わっていて、免許皆伝……までは行かなかったけど達人の領域かな、とは自負してますよ」
ウェンリィの疑念の視線にセレスも困ったような表情を見せ、透が実力に自信がある、と手を挙げてアピールする。
ちらりとウェンリィが透の腰に視線をうつしてそこに佩かれた刀を見るが、ウェンリィ自身は戦闘力があるわけでもなく……
刀自体もこの世界でいう『魔剣』の類ではない、という事しかわからないため溜息をついた。
「特にリグル村に剣術に優れた人がいるって話は聞いていないんだけど……まぁ、いいか……?アタシとしては有能な冒険者が増えると仕事が楽になるかもしれない、ってだけだし。これで性格最悪だったらアレだけど、セレスとも仲良さそうだし……」
今一納得が行っていない様子を見せつつも、ウェンリィはカードリーダーの箱についているコンソールのようなものを操作して、白いカードをセレスに返した。
「いいわ、とりあえずはい、セレス。カードに報奨金は入れておいたから後で二人で分配しておきなさい。ついでにカードの使い方なんかのレクチャーも任せるわ」
「ウェンリィ、それは手抜きじゃないですか?」
「アタシほかにも仕事あるし。『インベントリ』の使い方なんかも任せて頼むわ」
「はぁ……まぁいいです。トールにはわたしがちゃんと教えておきます」
それを受け取りながらカードに触れ、報奨金がきちんとカードに振り込まれているのを確認した。
普段であればそのままカードをしまう所だが、ウェンリィの言葉を聞いてそれをやめて透の顔を見た。
透は何を行っているのかあまり理解できていない様子で、自分の顔を見たセレスの顔を見つつ小首をかしげる。
「……よくわかってないけど、よろしく?」
「はい、よろしくされました。じゃあ、うーん……宿とってこっちにまた来るのも手間ですし、あそこで説明しますね」
ちら、っと窓の外を見てから少し奥まった場所のテーブルを指さし歩き出すセレスを追いかけながら透は腕時計を見てみる。
そろそろ11時過ぎるという時間帯であり、ギルドの入り口を通る人の数も増えてきている。
それで入り口から遠いテーブルを選ぶという事は、何かこそこそとした話になるのだろうか……と思いながら透はセレスと同じ小さなテーブルについた。
「『ギルドカード』の機能その2の説明です。簡潔に言って、このカードにお金を貯めておくことができます。こうすれば……見えますか?」
テーブルに置いたセレスの白いカードの上でセレスが指を滑らせると、先ほどウェンリィが出したような半透明なウィンドウが浮かび上がる。
そこにはセレスが最近討伐した魔物のリストなどが並んでおり、その最後には『凶骨の牙』の賞金首の名前が並んでいた。
そして一番下には数値の羅列がある、のだが……
「あ、うん、わかる……82万ゴルド……!?」
「そのうち75万ゴルドはトールのものですよ。『凶骨の牙』の賞金です」
「ひぇあっ」
日本円にして7500万円相当のお金が唐突に自分のものだといわれて透の喉から変な声がでる。
だが、それも仕方ないだろう。地球では学校帰りの買い食いに奮発して300円のアイスを食べよう、とか考えていた経済事情だったのだ。
とはいえ、必要以上に驚いたり声を上げたりはしない。そうして注目を浴びれば、わざわざこんな隅に席をとった意味がない、と理解しているからだ。
「で、トールもカードを出して同じように指でなぞりながら『でろー』って感じで何か考えてみてください。感覚的なもので、説明できないのがごめんなさいなのですけど……」
「ん、いや、わかった。やってみる……ってホントに出た。私のは……0、だね」
「よかったです。まぁ0なのは配布直後ですからね。ではここから、わたしのカードからトールのカードにお金をうつしてみますよ」
セレスに言われ、テーブルに置いた金色のカードを何も考えずに指先でなぞるが何も変化はない。
明日の晩御飯は何かな、という無関係な思考を乗せても同じ結果になった。
しかしセレスの言うとおりに、画面でろ、と思いながらなぞった場合はセレスのものと同じような半透明なウィンドウが浮かび上がった。
ただしそこには何の記載もない。最下段の数値も0のままである。
そこでセレスが自分のウィンドウにある数値を撫でてから透のウィンドウに触れると、セレスのウィンドウに表示されているお金がみるみる減っていき、代わりに透のウィンドウに表示されているお金が増えていく。
ほんの2秒ほどで数字の動きはとまり、セレスのウィンドウには「70000」、透のウィンドウには「750000」と表示された。
「こんな風に、お金を移動させることもできます。ギルドに登録している場合は、ギルドとつながる商店ではカードで支払いもできるので便利です。ただ屋台や村などの商店ではそうも行かないので、街のギルドでいくらかは現金化させておくのが常識、ですね」
ウィンドウの表示に驚いている様子を見せる透に、セレスは『インベントリ』から袋を出してそこから数枚の貨幣を見せる。
すでに透もリグル村で何度か見たこの世界の共通貨幣ゴルドの、1ゴルド鉄貨と100ゴルド小銀貨。あと10000ゴルド大銀貨も1枚だけ入っていた。
「んんー……ありがとう、だけど、なんかこんな大金落ち着かない……」
「わたし程度じゃまだですけど、功績をあげている冒険者はこれくらい稼ぐものです。ちょっとくらいは慣れるほうがいいですよ。それに、トールは冒険者用の装備が何もないじゃないですか。どうせだしちょっといいものを揃えましょう。そしたら目減りするはずですよ」
「そういうものなの……?んー、わかった、とりあえず装備とかその辺はセレスに任せちゃう……助けて神様セレス様……」
「またトールは変な事を言う……神様がこれくらいの事助けてくれるほど暇じゃないですよ。わたしだけで我慢してください」
落ち着かない様子を見せる透に、セレスがウィンドウを消して手を伸ばし頭をなでる。
すると透はどことなく嬉しそうな顔を見せながらぐずぐずと愚痴るのをやめた。
やれやれ、という雰囲気のポーズをとりながらセレスが席を立ち、続いて透も席を立つ。
「とりあえずは昼ごはんを食べてから、お店めぐりです。行きますよ、トール」
「はぁい」
窓から見えるこの街の西通り、食品を多く扱う店が並ぶ道を見ながらセレスが弾んだ声で透に呼びかけ。
透も少しだけ急ぎ足に彼女を追いかけていくのだった。




