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色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第1章 『湖国』
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第11話

――彩暦635年4月15日

於:草原の街ラフィン・冒険者ギルド


……――


「冒険者になるのには特に何が条件があるわけじゃないわ。まぁ、強いて言えば自分の『色』が分かってる、くらいかしらね?魔法も使えないのに一人で冒険とかできるはずもないし、最低条件みたいなものよ。で、冒険者になるとー……はい、トールちゃん。ここ、サインお願い。あ、文字かける?」

「はい大丈夫です、書けます」

「ん、よし。上につらつら書いてあるのは『責任は自分でとること』『他国で活動したい場合は他国のギルドに登録すること』みたいな事だし、最悪読み飛ばしてもいいわよ。セレスが教えてあげるでしょ?」

「それはもちろん教えますけど……仕事してくださいよ」


 ウェンリィが大雑把に解説しながら、テーブルの下から書類を出す。

 それは所謂『契約書』みたいなものであり、紙面のおよそ3/4くらいは細かい文字で埋められていた。

 その下にサインする場所があり、なるほどと思いつつ透は文章にざっと目を通す。


 大まかには、以下の事が書いてあった。

 1つ、『ギルド経由ではない仕事や探検も自由に行ってよく、その場合の報酬等も報告の必要はない。だが、失敗時のペナルティをギルドが負担する事もないので覚悟すること』。

 所謂フリーランスのように仕事もできるが、その場合は失敗したら自分でペナルティ払えという意味だろう。透も納得をして次に行く。

 1つ、『『湖国』内において第2級立ち入り制限箇所までの立ち入りを認める』。

 透は少し首をかしげて、あとでセレスに質問しようと考えたこの内容は、所謂『ダンジョン』やギルド奥の『資料室』といった、一般人としては立ち入り禁止にされている場所への入場許可のことになる。

 この世界には魔物が生み出した『ダンジョン』と呼ばれる場所があり、そこは魔物の領域であるため生命の危機に晒され続ける場所となる。

 ただし、その分冒険者としては実入りもいい。魔物の素材だけでなく、『ダンジョン』に濃く溜まった魔力が結晶化されて特殊な素材に変化することもよくあるからだ。そういう『ダンジョン』への立ち入り許可を出されるのも、また冒険者の特権の1つである。

 1つ、『他国にて活動する際はその国の冒険者ギルドに登録を行うこと。行うまでは一般旅人扱いであり、冒険者特権はない扱いになる』。

 透の頭に浮かんでいたのは自動車の運転免許だ。そういう事から、納得の頷きをする。

 たとえ『湖国』で冒険者として登録、活動をした所で別の国には特に実績として扱われない。だからこそ、国ごとに冒険者登録が必要なのだろう、と理解した。

 そして……


「特例依頼の受諾義務……?」

「あれ、トールちゃんもうそこまで読んだの?速いわね……まぁ解りやすくいうと国やギルドから来る特別な依頼は冒険者は特に理由がなければ受けてもらうって事よ。冒険者になると色々特約があるから、その分国やギルドが困ったときは助けてね、ってお話。簡単でしょ?」

「ウェンリィは雑な説明すぎです。トール、この世界に絶対な安全はありません。この草原の街であっても、崩壊の危機が無いとは言えないです。そしてその危機が発生する、ないし発生の予兆が出た場合に発令されるのが特例依頼です。達成できなかった場合、村や……最悪、国が滅ぶものですので、冒険者や貴族にはその依頼を受ける義務があるのです」


 説明文の最後の箇所で首をかしげた所で、ウェンリィが軽く説明し……セレスが重く解説を行った。

 その言い方に強い真剣さを感じて透は生唾を飲み込みつつ頷いてみせる。


「ま、ランク低いやつなら『建国記念日のパレード護衛募集』とか簡単なやつだから深く気にしないでね。セレスが言うようなヤツは、十年に1度あるかないか、ってヤツだから」

「なる、ほど」


 深刻そうな透の顔に気を遣ってウェンリィが再び軽く説明する。

 そして取り出した2年前の建国記念日のパレード護衛依頼書を見せて安心させた。

 内容は1週間の交代制パレードの警邏任務であり、確かにセレスが言うような危険性はなさそうに見える。

 ……日本で、地球で育った身としてはとある国の公妃が交通事故死という不慮の死に招かれたという知識がある。

 だからこそ、この依頼も字面ほど簡単ではないのだろうが……それでも、透はウェンリィににこり、と安心したように笑みを見せた。


「ま、それくらいよ。問題なければサインして。あとはこっちに血判もよろしく。終わったら『ギルドカード』と『インベントリ』とってくるわ」

「わかりました……これでいいですか?」


 ウェンリィの指示に従い、書面の下に『トール・タカヒ』と名前を記載する。そして渡されたナイフで軽く指先に傷を付けると書類の隅に血判を押した。

 ウェンリィはそれを見て満足そうに笑みを浮かべて書類を取り受付奥の部屋へと入っていく。

 ほんの数分で、ウェンリィはトレイに灰色のカードと小さなペンダントトップを持ち戻ってきた。

 差し出されたカードの表面には『トール・タカヒ』という文字と、『湖国』の紋章が刻まれている。


「さて後はこれにトールちゃんの色を注ぐと完成よ。手から色を出して、カードとペンダントトップに色を触れさせてあげて」

「ん……こう、ですか?」


 言われるままに透は右手に【金】の光を出してカードとペンダントトップに近づける。

 すると灰色だったそれらが色移りするかのようにじわぁっ、と金色に染まりあがった。

 完全に色が染まり切ると、何処にも灰色だった痕跡はなく、最初から金の素材で作られたものであるかに見える。


「おお……すごい……」

「アタシも受付やって10年くらい経つけど金色は初めてなんでついついまじまじと見ちゃったわ」

「わたしもです。金色、綺麗ですね」


 色の変化は透だけでなくセレスやウィンリィも注目しており、終わった後は3人そろって顔をあげて少し笑った。

 あとは、とウェンリィが『インベントリ』用のシルバーの細いチェーンを机の下から取り出して透に差し出す。

 透はそれを受け取り、『インベントリ』をチェーンにつけて首からぶら下げた。

 ぱちぱちぱち、とウェンリィとセレスが拍手し、透は照れくさそうに顔を赤くする。


「そうです。ついでに討伐報告と報奨金ももらっておきましょう」

「あぁ、リグル村の『ランブルビー』討伐のやつね」

「あー……そうですね、報告追加です。それ、『ランブリングボア』が出てきました。なので報酬上乗せをお願いします。それと、そこのトールが『凶骨の牙』を一人で全滅させました」

「――は?」


 透が『ギルドカード』の表面に浮かんだ自分の名前を見て楽しそうにしていた所でセレスが若干自慢げな顔をしつつ口を開く。

 その言葉の意味を最初理解できず、ウェンリィは珍しく間の抜けた顔を晒してしまった。


「えーっと、もう1回、いい?何を討伐した、って?」

「『凶骨の牙』です。トールは『ギルドカード』が無かったので、こちらに登録しています」


 信じられないという表情をするウェンリィに対して、セレスは胸元から白い『ギルドカード』を取出し、差し出す。

 ウェンリィは机の下からカードリーダーのような箱を取り出して『ギルドカード』に触れさせると、空中に半透明なウィンドウが浮かんだ。


「うわ、何これ」

「『ギルドカード』の機能の1つ、討伐証と依頼達成証の表示です。賞金首の討伐や依頼達成なんかは勝手に判定してもらえるので楽ですよ。登録している国のギルドでは内容の詳細や報奨の表示なんかも今見ている風にしてもらえます」

「へぇ……なるほど、それは便利だね」

「……ここで、謝っておきます。トールの『凶骨の牙』討伐、わたしの記録になっています。トールにカードがなかったから、ですが……安心してください、報奨金はちゃんと、トールに渡します」


 ウェンリィが空中のウィンドウを操作している所で、セレスは透に事情を説明して頭を下げた。

 だが、そこに関して透が思う事は何もない。

 村人が助けを欲し、セレスが求め、透は自身の力で切り抜けられると確信したからこそ行った行為なのだ。

 そこに報酬があった、なかったというのはそこまで気にしていなかった、というのが透の本心だ。


「気にしないで、っていうのが本音なんだけど……気にしちゃうなら、これからも色々冒険者のこととか教えてくれたらうれしいな?」

「それくらいお安い御用です」


 後ろでウェンリィが茫然とした顔をしている中、二人は仲良く握手をするのだった。

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