第10話
――彩暦635年4月15日
於:草原の街ラフィン・冒険者ギルド
……――
水晶玉に透が手を載せたとき、何か、体の内側から力が引き抜かれて――引き出されていくような感覚を覚える。
例えて言うと、ダムの堰をはずした時のような――意志の伴わない力の流出を、手のひらから行わされる感覚だ。
瞬間、透は抵抗を考える。だが、その感覚は以前地球で、父にとある技を教えてもらった時の感覚に似ていることを思い出していた。
暁天神月流、『地剣八技』。
人の力を持って振るう絶技『人剣』とは違う、自然の力を剣に乗せて振るう極技。
世界を構成する八つの力を引き出す、その初手として父の手で行って貰った時と同じ感覚であることを思い出し……
眼に映ったのは、金色の光だった。
「と、トールちゃん……そ、その色は……!?」
「え、これ、【賢者の黄】、っていうのじゃないんですか?」
「違うのよ、これは――」
先ほどまであった余裕をなくしうろたえるラウラに、逆に冷静になった透は手を水晶から離して光を消す。
ためしに先ほどの感覚を右手の先に向けてみると、想像した通りに金色の光が手のひらの先に浮かび上がった。
「あ、あぁ、やっぱり【王権の金】……トールちゃんは、いえ、トール様は、本当に異世界の方なのですか……?」
「え。いや、その、様とか急に何ですか?」
「……ん、んっっ。こほん。ごめんなさい、うろたえ過ぎちゃったわ……あのね、トールちゃん。トールちゃんの色は【金】なの。【王権の金】という……六色の始原になる色。この世界では、王族しか持たない特殊な色になるわ……」
「へ、ぇ?」
真剣な表情で行われたラウラの説明を聞いて、透が信じられない事を聞いた、という顔になりつつ首をかしげる。
そして再びためしに色を出してみて……やはりそこにあった『金色の光』に視線を向ける。
「あ、でも、一応、確か2人くらい今まで村人から【金】が出た、って記録はあったはず、よ。……600年くらい前の、記録だけど」
「相当なレアじゃないですか……うわ、えぇっと、ラッキーなのかな、アンラッキーなのかな……」
「能力としてはおそらくラッキーよ。【金】は他の六色を生み出した神の色。他には追随できない力を持つと言われるわ。性質としては……アンラッキーじゃないかしら。目立つのよ、とても。基本、王様の血筋にしか出ない色だもの」
「それは個人的にはアンラッキーが強いなぁっ……!?」
狭い室内で透の『金色』を見ながら、ラウラが声の振るえを隠し切れずに説明をする。
それを聞いて、頭を抱えながらどうしようかと悩む様子を見せる透。
「色は、あなたの魂の色よ。染める事も、変えることも出来ないあなたそのもの。私は『導師』として六色に関してある程度知識はあるけれど、【金】に関してはごめんなさいね、アドバイスもできないわ……あえてアドバイスをするなら、冒険者になってパーティを組むなら、あなたの色を政治的権力と勘違いしない人にするべきね」
ラウラは申し訳なさそうに頭を下げて、書類にトールの名前とその色について記載した紙を渡す。
その眼には申し訳なさが強く浮かんでおり、透は何も言わずにその紙を受け取った。
「私は『導師』として、あなたとの相談内容や今回の結果について他者に話すことはしません。そこだけは安心してね。トールちゃんの力になれないのは残念だけれど、私はこの町にいるから何かあれば頼って頂戴。【金】に関すること以外なら、力になるからね」
「ありがとうございます……今は、パーティを組んでもらってる子が1人いるので、後でその子と相談します」
「それがいいわ。友達であれば仲良くするのよ。できればそうあることを、祈っているわ」
最後に握手をして、ラウラは頭を下げる。透も頭を下げて部屋から出ると、そこにはすでにセレスが待ち構えていた。
その眼はきらきらとしており、好奇心があふれでていて。
「さ、トール。色は何だったんです?わたしとしてはなんだか無駄に冷静なところがあるあたり【青】だったりするかな、って思っていますけど」
「……【金】」
「でなきゃ、【緑】かな?って。……ふふふ、ちょっと願望交じりなのです。わたしの【白】と相性がいいのはその2つくらいって今何っていいましたか」
「【金】、よ」
「嘘」
「本当だよ……」
楽しそうに期待するように声を上げるセレスに対して、少しばかり声のトーンを落としながら透が答える。
それに対して真顔になったセレスが周囲をきょろきょろと見回して人気が少ないことを確認してから、見せて、と言い……
透が素直にセレスにその手から【金】を出してみせると、うぐぅ、と呻く声を漏らすのだった。
「そ、それは予想外……というか予想できないです……えぇ、じゃあ……冒険者なるのはいいけれど、トールのは酷く目立ちますね」
「やっぱりそうなの?」
「えぇ、『ギルドカード』と『インベントリ』のペンダントトップは、自身の色と同じ色になりますから。つまりトールのカードは金色カード、『インベントリ』は金色宝石つきです」
「自己顕示欲無いとは言わないけどそれはちょっとやだなぁ……!!」
「諦めましょう、としかいえないです……とりあえず、ウェンリィの所に行きましょう」
混乱の残った様子を見せたまま、セレスは悩み何事かつぶやきつつ再び先ほどウェンリィの居たカウンターに向かう。
ウェンリィはセレスを見てまた手を振ろうとしたが……その表情を見て、身を小さくしてカウンターに顔だけ乗せるようなポーズになる。
「……どうしたのよセレス。ヤクネタ?あ、トールちゃんは『色』分かったんでしょ。ラウラばーちゃんの書いてくれた紙頂戴」
「ヤクネタといえばヤクネタです。……トールの色、【金】でした」
「うっそマジ……うわマジだラウラばーちゃんの書類にも【金】って書いてある……」
「でしょー……あ、とりあえずトールの冒険者登録おねがいします」
セレスの言葉とラウラの書いた書類をみてウェンリィが頭を抑える。
はたしてどうしようか、と話を振ろうとするものの……それはそれとして、とセレスが処理を進めるようにお願いをした。
透も色によってなるならないとか考えても居なかったので、視線をセレスからウェンリィに向け……ウェンリィと視線が重なる。
「とりあえず、じゃないでしょ。あー……一応トールちゃんにも聞いておかなきゃね。冒険者になる気は、あるんだよね?」
「あ、はい。あります」
「んー、じゃあギルド登録しつつ、『冒険者』についてお話、しておきましょっか」
意思の確認をとったウェンリィは、居住いを正して透に説明を始めるのだった。




