お姫様を攫ってきたが……
ノリで書いて公開している。
そして私は後悔する。
常に暗黒に覆われた魔王城。
そこの謁見の間で、魔王グルガゴルガに傅く、一匹の悪魔が居た。
「魔王様、このバインライン、王国で民草に人気の姫を攫ってまいりました」
豪奢で邪悪な椅子の肘掛けに、肘をついている魔王は口角を吊り上げる。
「でかした! ではその姫を連れてこい。血祭りにあげて、王国に送り返してやろう……クックックック」
さすれば、人間の国は絶望と悲しみに包まれ、悪魔たちに強い力を与えるだろう。
そう考えていた魔王だったが、バインラインと呼ばれる悪魔の声で、気勢をそがれる事になる。
「……えー、引くわ」
素のトーンで言われて、魔王はがっくりと項垂れた。
「引くわって、お前、それ魔王に言う事?」
「いえ、でも、流石にその発言はドン引きですわ」
「あ、いいの? キレちゃうよ? 吾輩キレたらこの城とか一瞬で更地にしちゃうよ? どうすんの、吾輩ホームレスになっちゃうよ?」
「威厳がなくなるので止めてください」
ぴしゃりと言い切られて、魔王は言葉を紡ぎ、溜まっていた怒りを発散させる。
そもそも、ホームレス魔王とか、涙ちょちょ切れる程みっともないので、城を吹き飛ばす事だけはやめておく。
「して、それはどう言う事か。お前ほどの者が、人間の姫に一目惚れなぞ、せんだろう」
「見て貰えればわかると思いますが……」
バインラインの提案を聞いて、魔王は嫌悪感を露わにする。
「ふん、人間等と言う下等な生物を目に入れたくはないんだがなぁ」
「あー、魔王様。最近、魔界でも人間保護団体とか、ベジタリアンが煩いので、発言には気を付けてくれると助かります」
そうだった。
最近は賢い人間を食べるなと、テロ行為を繰り返してむしろ人間を殺している保護団体とか、野菜とか、土からの養分しか食えない悪魔が肉を食うなと煩いのだった。
「あ、うん。裁判沙汰とか面倒臭いもんね」
司法の裁きは、例え王であっても逃れられる事が出来ないので、大人しくしたがっておく、魔王なのに。
「では、今から姫を連れてまいりますが……くれぐれも大声など、驚かせる行為はお控えください」
「ふん。人間どもを血祭りにあげるのが好きな貴様に言われとうないわ!」
声を荒げる魔王を見て、バインラインは知らないぞと言い残して謁見の間を出ていった。
残された魔王は不機嫌さを隠そうともせず、目を閉じて姫とやらの到着を待つことにする。
たっぷりと一時間程経っただろうか、ようやく謁見の間にある扉が開いて、バインラインが顔を出した。
「遅いっ! 貴様、魔王たる吾輩を待たせるとは……どういう了見であるかっ!!」
「ま、魔王様! シーッ! シーッ!」
唇に手を当てて、静かにしろとのジェスチャーをするバインライン。
しかし、それはあまりにも遅く、謁見の間に大きな泣き声が響き渡る事となった。
声の主は、バインラインの腕に包まれる白い布から聞こえてくる、魔王は耳を抑えながら白い布に近寄ると、それを覗きこんだ。
「……赤ちゃんじゃん」
「はい、赤子にてございます」
びゃーびゃー声を上げて泣きまくる、人間のメスの赤ん坊だろうか。
元気よく泣いている。
「……どうするんですか、魔王様」
「え? 何が?」
責めるような眼差しのバインラインに向かって、魔王が首を傾げた。
「このまま泣かせておいたら、虐待だとか叫ばれますよ?」
「うむ、そうだな。なんとかしろバインライン」
魔界には救われない子供に愛の手をと言って、大人から金を巻き上げて子供を国家に押し付ける人権団体が存在している。
たしか、リーダーの名前はアグネ・スグネスと言う名前だっただろうか。
「無理ですよ、私、顔怖いですから」
「吾輩の顔はもっと怖いのだが……」
「大丈夫です、見ようによっては滑稽です」
「お前、やっぱり吾輩に喧嘩売ってるよな」
「ハハハッ、喧嘩なんて売ってませんよ。負けますし、馬鹿にしているだけです」
「後で覚えておけよ……」
バインラインから赤ん坊を受け取って、とりあえず泣き止むように誘導してみせる。
「こ、怖くないでちゅよー、ベロベロバー」
「びゃあああああああああああああ!!」
余計に泣かしてしまう魔王。
そんな彼を見て、部下のバインラインは爆笑していた。
「こ、怖くないでちゅよー。だって!!」
「オマエ、コロス」
ピッと指を突き付けて、バインラインを消し飛ばす魔王。
どうせ二時間後には蘇ってくるし、とりあえず赤ん坊を泣き止まそうと創意工夫をし、彼の一日は終わりを告げるのだった。