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※作中に出てくる自動人形の作り方ですが、あれはファンタジーです。

現実に作ると、動かないわ針金が切れるわで惨劇が起こります。

くれぐれもお試しにならないよう、お願い申し上げます。

自動人形製作は明日に持ち越しになりましたの。

私は楽しみだったのですけれど、オズワルドには何やら思うところがあったようですわ。



翌日の朝食後、ようやく作成に取りかかる前に、オズワルドはこう忠告しましたの。

「嬢ちゃん、まずは部品を先に作れるか見てみな。一気に作ろうとするんじゃねぇぞ」

実際に見てみると、確かに自動人形だけ部品ごとに作れるようですわ。製作時間は、合わせると4日を越えてますの。

「自動人形は機能にもよるが、粘土を乾かす時間や針金を繋げる時間だけで、それぞれ半日が潰れちまう。いっぺんにやらずに済んで良かったな。こいつは罠の応用として職人の力量が問われるもんだ。丁寧に作れよ」

「なぜ力量が問われるのかしら?」

「罠は、導力点(スイッチ)、動力、導線、作用の4要素が全てなんだが、自動人形も4要素がしっかりしてねぇと正常に動かねぇからだ。魔物の血で描くだけの魔方陣とは違って、4要素を別々に作らなきゃならねぇ分、腕の誤魔化しが効かねぇ。自動人形が作れる罠士はどこでも食うに困らねぇと言われるくれぇには、罠士泣かせだな」

普通は製図して、どこに仕掛けが入るか考えるものですけれど、そこは≪異能≫、欲しい機能を押すだけで勝手に作れるようですわ。便利ですこと。

ちなみに入れる機能は、まきびし、粘着魔方陣、煙幕ですわ。

これはクラスメイトの要望から、オズワルドが選びましたの。「敵の足止めがしたいようだったからな」だそうですわ。

まずは材料の一つ、針金で個々のパーツの骨組みを作りますの。手、腕、足、脚、頭を別々に作りますわ。

頭以外に粘土をつけますわ。乾いたらやすりで滑らかにしますの。乾かしている間に、頭を作りますわ。木枠にトプレ樹脂を薄く流し込み、顔側と後頭部側のふたつのマスクを作りますの。


次に顔側のマスクを、針金で作った頭に張り付けますわ。

その次に、一部を割り、丸く小さく削ったベテルギウス水晶2つに針金を接着剤でつけますの。

残りの水晶に魔導記号を刻み込み、この針金の先につけますわ。そうそう、水晶に別の針金をつけておきましょう。

オズワルドが言うには、これが両目と脳の代わりだそうですの。相手を判別して、持ち主の意思に答えるには、小さくても脳は必要らしいですわ。

後頭部から両目と脳を入れ、マスクをくり貫いて目を入れましたわ。

後は後頭部側のマスクを接着剤でつけ、粘土をつけて乾かし、削れば頭の完成ですの。

頭に粘土をつけた間に、手足が乾いてきたようですわ。やすりで削りますわ。滑らかに仕上げなくては……乾く時間を合わせて、もう2日経っていますわ。目が回るようとはこのことですわね。

食事や睡眠は取っていますわ。でも、食事中に、夢の中に、作っている様子が浮かんで来ますの。辛いのではなくってよ。楽しいんですの。材料でしかなかったものが、勝手に見ている間に人形に形づくられていくのですもの。いずれ完成するときを思うと、どこか残念な心持ちがしますわ。

導力点は、魔導記号を掘りこんだミスリル銀を埋め込んで作ったカードですわ。銀の部分を押して動かしますの。最後の難関、胴体ですわ。胴体の輪郭は木で作りますの。どうしても魔方陣等を胴体に収納する以上、粘土で作ると突き破るので使用後が汚く見えるそうですわ。胴体が左右に開くように、なおかつ人形の胴体に見えるように作りますわ。≪異能≫が無ければ途方にくれてますわね。胴体に首、手足をつけるための穴を開けておきますわ。関節にスライムの核を使い、全てを人形に見えるように取り付けますの。

頭、手足を胴体につけ、頭から伸びている針金と、手足の針金を胴体の中で接着しますわ。後はまきびしと煙幕玉を箱に入れ、粘着魔方陣にワイヤーを仕込み、箱とワイヤーを頭の針金に接着し、胴体に薄く粘土をつけ、乾いたら磨き、左右に開く扉が埋もれないように掘りましたの。動力は頭の水晶、導線は針金、作用物は煙幕など、導力点はカードに埋め込まれていますわ。確かに、罠の4要素が入ってますわね。

出来たのは、5日目のことでしたの。完成した虚脱感で、残念とも嬉しいとも思わなかったですわ。

オズワルドに言うと、「動くかどうか確かめてみるか、不良品じゃあ店の面子に関わるからな」と言われたので、一緒にリコリスの南にあるメイビー草原に行くことになりましたわ。

途中で、城下町の南側を通るのですけれど、なんと言うか、店のある中心部よりも寂れていますわね。人通りも少ないですし、活気が全く感じられませんの。

「人と目線を合わすんじゃねぇぞ」とオズワルドが言っていたように、治安も悪いのかしら。

恐る恐る歩く私に、複数から目線が刺さった気がするのですけど、おそらく気のせいではなかったと思いますの。やっと抜けたときは、思わずため息をついていましたわ。

でも、メイビー草原に着いて気を取り直しましたの。見渡す限り緑の草が生い茂り、青空とコントラストを成していますわ。胸のすく光景だこと。オズワルドはスーツケースくらいの大きさの鞄から、小さく折り畳んだ白いシートを取り出すと、草原に広げましたの。シートは、二メートル四方くらいかしら。

「何をしているんですの?」

「今回はまきびしを使うからな、後で回収出来るようにしておく」

シートの隅に人形をおきましたわ。人形の後ろに移動して、彼が導力点を埋め込んだカードを渡しましたの。

「嬢ちゃんが作ったんだ、確かめな」

これで、5日間の結果が出ますの。心臓の音が聞こえるくらい緊張しましたわ。ゆっくりと、確実に、押しましたの。



「だれもいない、へんだ」人形から声が聞こえてきましたの。喉など作っておりませんのに……自分で作ったとはいえ、不気味ですわ……

「分かるか」

「オズワルドさま、声が聞こえますの」

「声じゃねぇ、導力点を押した相手との精神感応だ。嬢ちゃんの頭の中で喋ってんだよ」そんなことが現実にあるなんて、でもここはそもそも私の居た現実ではなかったですし……混乱してきましたわ。

「ねぇ、へんじして」

とにかく、答えなければ……

「嬢ちゃん、絶対に『ご主人様』だと思わせちゃならんぞ。『ご主人様』はお前さんの知り合いだ。ここでヘマすると水晶を頭から取り出さんとならなくなっちまう。『作り主』、『テスト』と言え。それなら主人でなくとも動く」「分かりましたわ」

「ねぇ、だれもいないの?」

意を決して、人形に話ましたわ。

「私が居ますわ」

「もしかして『ごしゅじんさま』?」

「いいえ、『作り主』ですわ、これは『テスト』ですの」

「わかったー、なにすればいいの?」

「オズワルドさま、何からさせましょうか?」

「煙幕、まきびし、魔方陣の順番だ。」

「まずは煙幕から撃ちなさい」

「りょーかいでーす」

何か丸いものが人形の胴から放たれ、シートの端に落ちた瞬間、ぼわわっと白い粉が舞い上がりましたわ。これが目の前に落ちたら、視界が真っ白になりますわね。

煙幕がおさまってから、まきびし、粘着魔方陣を試しましたわ。全て成功しましたの。「嬢ちゃん、よくやったな。成功だ」

オズワルドはめったに笑いませんわ。でもこの時に、嬉しそうに笑いましたの。その顔を見て、達成感からか目頭が熱くなりましたわ。それを隠すように、あわてて後片付けに入りましたの。




7日目、店に井上が来ましたわ。

「よう坊主、50万ベルッサは用意できたかい」オズワルドの言葉に、井上は首を振りましたわ。

「その代わりに良いものを渡します。それでもいいですか」

「ものによるな。見せてみろ」

井上が見せたものは――あの、べテルギウス水晶でしたわ。

「こりゃ七桁はいくだろう。これを売りゃいいじゃねぇか」

「僕らは駆け出しですから、信用が無くて、ものを買ってくれるところが無いんです。あっても買い叩かれるだけで、質屋さんを探したんですけど、どこにもありませんでした」

「質屋って何だ?……それはともかくそうかもしれねぇな。ここらの商人は安定して手に入ることを重視するから、でかい冒険者ギルドにパイプを作ることはあっても、ぽっと出の冒険者なんぞ相手にせんだろうな。ギルドに頼めば、水晶ぐらい手に入れる冒険者の一人や二人くれぇいるだろうしな。当然、近寄ってくるのは、足元を見た奴らだけだろう」

「これで引き取りは出来ませんか」

「そうさな、どうする嬢ちゃん」

「えっ」


「嬢ちゃんが作ったんだろうが。嬢ちゃんが決めるこったな」

それきり、オズワルドは口をつぐみましたの。


分かりましたわ、その言葉に甘えさせていただきますわ。



「分かりましたわ。井上さまがよろしいのなら、それでも構いませんわ」

井上の顔がぱっと明るくなりましたわ。

あなたの為ではありませんわ。黄金級がこの店に無いのなら、一つ位あってもいいと思いましたの。

「じゃあ、『名付け』をしねぇとな。こいつを持て」オズワルドが導力点カードを井上に渡しましたの。

「押してみろ」井上は押した瞬間、「人形が喋った!」と叫んでいましたわ。

私もあの草原でこんな風になっていたのかしら。

「坊主、『ご主人様』だと言え。これ以降『ご主人様』以外の命令はきかん。分かったな」

「はい、僕が『ご主人様』だよ、よろしくね」

「次は補給方法だな。」

「そのことなんですけど、西園寺さんを同行させてもらえませんか」

私は目が点になりましたわ。顔を見てませんがオズワルドもきっとそうなっているでしょう。

「僕バカなんで、補給方法とか覚えきれないと思います」

えへへ、と全く悪びれずに井上は話し続けますわ。

「ですから、作り主の西園寺さんがいれば、補給方法や壊れた時まで大丈夫だと思うんです、西園寺さんもいい勉強になりますよ」

しばらく、何から否定していいやら考えて黙ってしまいましたわ。

一方聞いた瞬間、オズワルドは激昂しましたの。

「坊主、その話はとっくに終わってるじゃあねぇか!それ以前に、聞きもしねぇで『わかりません』だぁ!?嬢ちゃんに押し付ける気か!大体引き受ける前に、『こいつは置いときゃ良いもんじゃねぇ』と言ったはずだろう!警告した以上は分不相応だろうが引き取ってもらうぞ!さっさと水晶置いて帰れ!」

「西園寺さんもそれを望んでいますし、ね」

「望んでないですわ!」

「僕らと一緒の時に言ってたじゃないか、こんなところ出て自由になりたいって、ね?」

同じクラスにいたとき、あまり話してなかったので気づきませんでしたわ。

こんな男だったとは……

「坊主、ここは貧乏でな、カーテンは坊主が思っているほど厚くねぇぞ。お前らの騒がしい声なんぞ聞こえない訳なかろう。嬢ちゃんはここに居たいと言ったこともわしの耳にはっきり残っとるわ」

「盗み聞きしてたなんて!」

「捏造するお前が言うことじゃあねぇな。わしはな、嬢ちゃんを縛りつけたい訳じゃねぇ。だが人の誠意を踏みつけ、嘘で操る奴においそれと弟子を預ける訳にはいかん。それくれぇの良識はある。補給方法聞いてさっさと帰れ」

「今だって西園寺さんの意見を聞いてないじゃないですか!西園寺さん、僕がついてるよ、一緒に……」

「もう帰っていただけませんこと!」

自分の出せる最大の声で叫びましたわ。しばらく出していないくらいの。井上はおろか、オズワルドも黙りましたの。

「あなたのやり方は不潔ですわ!嘘で私の意見をねじ曲げるなんて許せません!そんなところに行きたくなる訳がなくってよ!私はここに居たいのですわ!放っといて下さいまし!」

「坊主よ、本人の意見を聞けって言うなら、坊主も聞かねぇとな。最後の情けで説明はしてやるから、人形持って帰んな」

井上は、オズワルドの言葉に苦い顔をしながら頷きましたわ。

「まず、こいつは『補給』と言えば、自分で胴体を開ける。無理矢理開こうとすんじゃねぇぞ。そして、ここを開けてまきびしを補給する。


こっちは煙幕、向こうは粘着魔方陣だ。どれも市販のもので足りるからな。一回使ったら消費するからそのつもりで使えよ。ストックはそれぞれ3回分だ。『補給終了』、こう言えば勝手に閉まるからな。使う時はここの導力点を押して、命令すりゃ良い。使わねぇ時は『眠れ』と言えば良い。動かす時は『歩け』、『走れ』だ。分かったな、さっさと帰れ」

「……はい」

井上は、人形を持って、出ていく寸前に、振り返りましたの。

「ごめんね、皆で決めたことなんだよ。西園寺さんがいて欲しいって、皆が言ってたんだ。いつかもっと強くなって迎えに行くから。それまで待っててね、西園寺さん」

「塩まきますわよ!」

塩がどこにあるかなんて、わからないのですけれども。

何も言い返さず、井上は出ていきましたわ。




「あんな狡い男だとは思いませんでしたわ」

「全くだ。ありゃあ、嬢ちゃんが狙われてたな」

「どういうことですの?」オズワルドは「分かってねぇのか」とため息をつきましたわ。

「いいか、魔物を倒して行けば、素材は貯まっていく。でも売るところが無ぇ、加工を頼もうにも金が掛かる、財布に大打撃だときたら、自分等で加工するしかねぇじゃねぇか。」

「あっ!」

「でも技術がねぇなら誰かにやらせるしかねぇな。それで嬢ちゃんを引っ張ってこようとした訳だ。」

そうなったら大変だぞ、と彼は呟きましたわ。

「まず、どれだけ素材が集まってんだか知らねぇが、状態の悪い奴は魔力が散って使えなくなる。水晶や金属だとそうはならねぇが、生体の素材ははっきり良し悪しが分かるぞ。熟練の冒険者はそこをちゃんと分かって状態の良いまま採る。だから商人も分かってる奴に近づく。駆け出しに多いが、それを分かってねぇと職人のせいにするやつがいるんだ。お前の腕が悪いんだ、必死で取ったのにとな。あと、傲慢な冒険者もいるな。自分等が守ってやってんのに、楽で良いなってよ。こっちは戦力でもねぇのに引っ張り出された挙げ句、奴らが休んでいるときはひたすら制作してるんだがな。熟練の奴なら、職人に抜けられると困るから、きちんと対話して分かり合うんだがな」

あいつらはできそうにねぇ、そう彼は続けましたわ。「まず、冒険者ギルドに入ってねぇから状態の良し悪しが見分けられねぇ、助言も貰えねぇ。まぁ、王宮に睨まれてるだろうから入りにくいだろうが、要するに右も左も分からねぇならず者だ。その上嘘をついて引っ張ろうとするくれぇだ、あんな悪質な奴らが嬢ちゃんを丁重に扱うとは思えねぇな。馬車馬の如く働かされるのが落ちだ。そんな中にわざわざ行くこたぁねぇよ」

「優しいんですのね」

「弟子に取った以上は、その将来に責任を持たんといかんだろう。義務感というやつだ。それより」

彼は、置かれたままの水晶を渡しましたわ。

「お前が作ったんだから、もう一体、作ってみろ。」

「えっ……!」

「粘土や針金はあるやつを使え。ただし、夕食後に作れよ」


「えっ!?」

「明日には接客に戻ってもらう。作れる時間は夕食後しか無いだろう。」

「朝から晩まで費やしても5日間かかるんですのよ!」

「何日かかっても構わん。いいぞ、自動人形は。機能は攻撃から見張り、罠の遠隔操作までできるからな」

……出来るだけ早く、寝る間も惜しんで作ったのですけれど、二倍以上かかりましたわ……

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