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いきなり何を言っているのか分かりませんでした。
なんですの?ゲームなんて禁止されていましたわ。それは昔も、今も変わりません。VR……なんとかって何の略ですの?
答えない私を見て、豚の得意満面な表情はしぼんでいきました。
「あの、ひょっとして、意味、分かってない……?」「ええ、全く」
「どこから話せばいいのかな、えーと、VRはバーチャルリアリティーの略で」
ずらずらと説明が続きますが、要するに、仮想現実内でアバターを作り動かすゲームですのね。2、3年前に開発されたという話は聞いておりますわ。それが分かったところで、荒唐無稽なことを言っているのが分かっているのかしら。
「ゲームに似ているというのは、あなたの主観に過ぎないのじゃなくて?」
「ぐふっ、証拠ならあるよ。手をかざしてみて」
言われた通り、かざしてみると、視界の隅に文字が浮かび上がりましたわ。
・ステータス
・スキル
・アイテム
・装備
・現在位置
ただ、驚きましたわ。
「一体これは何ですの!?」「メニュー画面だよ、こっち見てみて」
豚に目を向けると、今までになかった枠が隣に浮かんでいましたわ。
枠の中に、豚上司という名前、その下にLV23という暗号のようなもの、暗号の下に、緑の棒と赤い棒が書かれていましたわ。
「これが≪鎚と眼鏡≫の力の一部だよ。他人のステータスが一目瞭然なんだ。ね、ゲームの世界でしょ」
「ステータス?名誉になるのかしら」
「いや、だからぁ」
また長々と説明されましたが、ここでいうステータスというのは、要するに強さを、LVは戦闘の習熟度を表すものだそうですわ。
緑の棒は体力を、赤い棒は魔力を、あら?
「魔力はないって話じゃなくて?」
「ぐふふ、普通ならね」
豚は誇らしげでしたわ。
「実は僕はね、この『ガイア戦記』、プレイしたことあるんだぁ。テストプレイの公募に受かって、それで何回か遊んでたんだよ。そのときのステータスと今のはまっったく一緒!きっと来るときに引き継ぎが出来たんだろうね。つまり、僕は異世界人でありながら魔力を持てる唯一の人間なんだよ」
自慢をされていることは分かりましたわ。
「ね、メニュー画面があって、レベルアップが出来て、ステータスが数値化されているんだよ、ここはゲームの世界。分かるでしょ」豚は汗を垂らして説得しておりますわ。ここで否定しようものなら何をされるかわかりませんわね。
「えっ、ああ、そうですわね」
「やっぱり、西園寺なら分かってくれると思ってたよ!」
「ところで、ダンジョンミストレスって何ですの?」まだ聞くべきことの半分しか聞いてませんでしたわ。「ダンジョンミストレスっていうのは、まあいろいろ作品によって定義は違うんだけど、僕が言いたいのは、ダンジョンの女主人として、罠を作って嵌めたり奪ったりする女性のことさ」「ダンジョン?」
「洞窟やお城のことだよ」「私がどうしてそんな卑しいことをしなければならないのかしら」
出来るだけ冷めた声で言って、背を向けると、豚は慌てはじめましたわ。
「待って待って待って。この世界は魔物が出るんだ。西園寺は魔法を使えないだろ、スキルだって役立たずだ。それでも罠を作れば魔物を倒せるよ、身を守れるよ。」
「この城から出なければ良いだけでしょう」
「お金はどうするの。ここは空腹度があるんだ。100になれば死んじゃうよ。パンを買うお金はないでしょ?それに皆を見返せるよ」
その言葉に、私は振り向きざるをえませんでした。
あれだけ冷遇された私が、見返せる?
この西園寺の名を嘲笑った猿どもを、見返せる……!
それは、なんとも魅力的な話でしたわ。
「ね、死にたくないでしょ」
理由を誤解されましたが、まあ、別に構いませんわ。西園寺たるもの、復讐心を気取られずに完遂する。決して醜い心をさらけだしてはならない。
それが、父の教えですもの。
「それになるには、どうしたらよろしいの?この世界で先人はいないのでしょう?」
「!良い質問だね、茜ちゃん」
名前で呼べなんて言っておりませんわ。
「確かにここにはダンジョンマスターの概念はない。でもね、罠の概念はちゃんとあるよ。ここにダンジョンを作るっていう概念を持ち込みさえすれば、世界初のマスターになれるってことさ。システムの限界を越える!すごいロマンを感じるよね」
「はぁ、そうですわね」
「そのためには、まずは罠作りから覚えなきゃね。そのスキルがあれば楽勝だよじゃあついてきてね」
不意に豚は歩きだしました。今度は私が慌ててついて行きます。
「どこに行くんですの!?」「罠を作ってる工房だよ」この豚、私の世話を焼いたり一生懸命説明したりと、性格は悪くはないのかもしれませんわね。
「ところで、どうして戦力外になったんですの?」
「僕のスキルは≪絶対回避≫で、攻撃も魔法も透過しちゃうけど攻撃はできない上に姿は消せないから、盾にも諜報にも使えないって言われた」