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気がつくと、私は布の上に倒れていましたわ。

布?外にそんなものが敷いているはずがありませんのに。

バスから投げ出された……はずはありませんわね、体が痛くない。

ゆっくり起き上がるとそこは、

室内でしたわ。


部屋の中央に絨毯と、その上に一回り小さな白い布が敷いてありましたの。

そこに、私と同じ学校の制服をきた人たちが倒れていましたわ。

倒れていた人でところどころ見えませんが、布には大きな円と、その内側には文字のような何かと図形が描かれておりますわ。

まるで魔方陣のような……

見渡してみると、絨毯以外に調度品はありませんわ。窓すらありませんの。

強いていえば、隅にドアがあるくらいですわ。

なぜ、バスの中にいた私が、こんな殺風景な部屋にいるのかしら。


無駄だと思いつつ考えていると、不意にドアが開きましたわ。

フード付きローブで全身を隠した怪しい人でしたの。

私たちを見た途端、フードを脱ぎましたわ。

青い髪。緑の目。青年。

口角が上がるのを必死に耐えているようでしたわ。


彼は私と目が合うと、にっこりと笑いかけましたの。私は混乱するばかりでした。

「やあ、具合はどう?」

「まずまず、というところでしょうか、あなたどなたなんですの?」

「俺の力で本当に成功するとは思わなかったな〜……あぁ、ここの人眠ってるだけだから安心してね」話を聞かない人ですわね。よくわからない状況で、混乱させられ、一人言を聞かされ、苛々してきましたわ。

父なら一喝するところですわね。

「あなたは、どなた、なんですの?」

大きく、はっきり、ゆっくりと。祖父が生きていた頃はこう話してましたわ。

「ああ、俺は宮廷魔導士のマイケルだよ。みんなが目を覚ましたら、説明するね」

マイケルはこう付け加えましたわ。

「ガイアへようこそ、異世界の方」




「やあやあ、ようこそ!俺は宮廷魔導士のマイケルでーす!はじめまして!」

あれから数分も経たないうちに、倒れていた方々は起き上がりましたわ。

よくみると同じクラスでしたの。あのバスにいた生徒たち、25人全員。

そう、あの猿どもも一緒にここに来ていたようですわ。


「皆さんにとって、ここは異世界です!異世界というのは、まあ、言葉の通じる外国みたいなものですね!ガイアといいます!その中でも一番栄えている国がここのリコリスです!はい、そこ。説明がアバウトとか言わないで下さいよ!説明って大嫌いなんです!」

この人、騒がしすぎて好きになれませんわ。

「あなた方がいたのは、いたのは……そう、ニホンというところですね!」

「ここはあなた方といた地域とは違い、魔法があります」

その時点で外国ではありませんわ。

「で、あなた方を呼んだ理由なのですが……」

彼は一拍おいて、こう続けましたの。

「このリコリス、いやガイア世界を救って頂きたいのです。魔王を倒して、ね」

どよめきが起こり、なかなか静まりませんでした。

それもそのはず、私たちは一介の中学三年生に過ぎませんわ。

救える力など、宮廷魔導士さんにできないなら、私たちにあろうはずがありません。当然ですわ。

「まあ、まあ、落ち着いて。確かにあなた方は私たちとは違って魔力はありません!当然ですね。魔力のある世界で産まれてないのですから」

「でもご安心下さい!魔力の代わりに私たちが持ち得ない、素晴らしい力をお持ちなんです!」

「それは≪異能≫といい、私たちの魔法とは異なる能力です。使えば使うほど強くなり、最終的には魔法を越える!そんな力です」

「待てよ!」

彼の話を遮ったのは、あの猿の一匹、つり目でしたわ。

「そこのお嬢さん、えっと、誰?」

「誰でもいいだろ!何の冗談か知らないけど、魔王を倒せって、要は命懸けで戦えってことだろ」

「まあ、そうなりますね」「あんたらの為に命懸ける必要ないだろ!さっさと帰らせろよ!」

そうだ、そうだと野次が聞こえましたわ。

「いいんですかぁ、それで」

急に彼の口調が、ねっとりとしたものに変わりましたわ。それに怖じ気づいたのか、つり目を含む全員が黙りました。

「いいですか、私たちではあなたたちが命に危険がある状態でしか転移できません。何があったかはあなた方がよくご存知かと思いますが。今送り返せば、十中八九、死ぬでしょうね。火のついた、箱?から逃げるのは大変そうですねー」

全員、ざわざわと騒ぐ余裕すら無くなっていましたわ。14、15歳の私たちが、死ぬ危険を目の前にしていては、黙るしかありませんもの。

「あと、皆さんが魔王討伐に参加しない、もしくは出来ない場合は、援助を止めさせて頂きます。そのくらい当然ですね。その分討伐に使った方が有意義ですから」

何も分からない世界で一人生き抜く、これがどれ程大変か、私たちには想像がつかない程の広大な恐怖でしたわ。

あの猿も分かったようでしたの。

「……汚い」

「当然のことです。庶民から得た、限りある税金で援助しますからね。何、裏を返せば、討伐に参加していただけたら数々の特権を欲しいままにできるという訳ですよ、で、どうなさいます?」

誰も、口を開きませんでしたわ。

「異議のある方はいらっしゃいませんね。よろしい!では今を持ちまして、あなた方は魔王を倒す勇者です!では一人一人お呼びして別の部屋に通しますので、しばらくお待ち下さい」

そういうと、彼は私たちに背を向けて、手を掲げると指で宙に四角を切りましたわ。

すると、ドアが1つ現れましたの。

彼はドアをあけると、私たちに向き直りました。


「ではそこの眼鏡を掛けた男の方、中にどうぞ」




待っているなか、部屋の中は驚きと恐怖で満ちていましたわ。

帰りたいと嘆くもの、命を懸けるなんて嫌だと泣くものは少数派で、どうしてこうなったか分からないと呆然としている者が圧倒的に多数派でしたわ。

私も、その一人でしたの。でも、呆然とするのも長くは続きませんでしたわ。

定期的に呼ばれて行くのですが、帰ってくる生徒がいないのです。

生徒の一人が恐る恐る聞くと、彼は笑って答えました。

「大丈夫です。訓練のため別の部屋に集めているんですよ」

私たちの命運はこの男が握っていらっしゃる。そう思えば思うほど、詳しく聞く気力が失せていきました。

人もまばらになった時に、私はようやく呼ばれました。

怖いのをおくびにも見せないように、ドアの中に入りましたわ。

そこは、書斎のようでした。両端に天井まで届くような本棚が並び、中央奥に机と椅子、ドアの向かい側の壁には大きな窓がはめ込まれていましたわ。

前に住んでいた家にも、こんな書斎がありましたっけ……

私と彼は部屋に入りましたの。彼は椅子に座ると、机から手のひらに乗るくらいの石を出しましたわ。

「これを握って下さい」

言われた通り握ると、文字が浮かび上がりましたわ。知らない文字なのに、意味が伝わってきましたの。


≪鎚と眼鏡≫


私は石を渡すと、彼は渋い顔をしましたわ。






「これは、また、とんでもないものを当てましたね」「いいものなんですの?」「いいえ、その逆です」

彼は顔をしかめたまま、答えましたの。

「これは≪鎚と眼鏡≫です。要するに、鑑定と作成が得意になるだけで、戦闘には全く向きませんね。これでは城の一兵卒の方がまだ魔王を倒す可能性がある。一言でいえば、あなたは戦力外です。我が国に要りません」

おっしゃっていることがわかるような、わからないような……ただただ、動揺いたしましたわ。

「というわけで、あなたはここから消えていただきます。大丈夫ですよ、城下町は栄えてますから仕事くらいありますし、ね」

「そんな、せめて職を探して……」

「そんな時間もったいないです。ではごきげんよう」


急に私の足元が明るくなり、そして……



気づいたら、城の前でしたわ。

血の味がにじみ出てきて、それで私は唇を噛み締めていることに気づいたんですの。

私が、この私が、訳の分からない理由で、訳の分からない世界でも、必要とされないだなんて。

これから、どうしたら良いのでしょうか。

迷子であることに気づいた子どものように、うつむいたまま、しばらく動けませんでしたわ。


「ぇ……ねぇ……ぃてる?」

はっと前を向いた時、目の前に巨漢の男が立っていましたわ。

声を掛けたのは、同じクラスの豚上司(ぶたがみ つかさ)でしたの。

休み時間、誰にも言葉を掛けられなくとも平気で携帯をいじり、裏で「キモオタのテンプレ」、「まさに豚」と散々な呼び方をされていましたの。

同じクラスでも、話し掛けたことも、話し掛けられたこともありませんでしたわ。

「さ、さ、さ、西園寺、さん」

「……はい」

「ここにいるってことは、ひ、ひょっとして、戦力外通告されちゃった?」

無神経な。

答えないでいると、猫なで声でこう言ってきましたわ。

「あぁ、だいっ、だいっ大丈夫!僕もそうだから。≪異能≫は何だった?」

答えてどうするのですか。そう思いつつ、素直に答えましたわ。

「≪鎚と眼鏡≫、ですわ」「えーっ、≪鎚と眼鏡≫!うわ、僕よりひどいね」

答えなければ良かったですの。

豚上は私の表情が固くなったことに、気づいたらようでしたわ。

「あー、ごめんね。そうかーそれだと大変だね。戦闘用じゃないもんね」

何目線でしょうか、この豚は。

「で、でも大丈夫!僕なら、君でもこの世界で生き残れる方法、知ってるよ」

「えっ」

なぜ、そんなことが、この豚に分かるのかしら。

「えっ、じゃなくて」

心持ちか、豚がニヤニヤしていますわ。

「その前に、僕が知ってること、教えてあげないといけないねーしょうがないなあ、西園寺は」

いつから名字を呼び捨てにしていい間柄だとおもったのかしら。

出来ることなら、借りを作らずに出て行きたかったのは山々なんですけれど、行くところすら、無いのだから、今はすがるしかありませんわ。

「どんなことを教えてくださるのかしら」

「デュフフ、素直だねー西園寺は。あのね」

話す直前、豚の鼻の穴が膨らみましたわ。

「この世界は、なんと、ゲームの世界、VRMMO『ガイア戦記』の世界なんだ!そして西園寺は、この世界初のダンジョンミストレスになるべき人間なんだよ!」

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