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リコリスとイズメリィの国境には何もないですわ。
関所もないんですの。
後で豚に聞いてみたら、「関所があったらゲームとしてストレスたまるでしょ?」と言われましたわ。
そういうものなのかしら。
足は痛いのですけど、それよりメイベルの目線が辛いですわ。
最初から信用されてない上に意味のない魔物への殺しで、私はさしずめ危険人物のように思われたようですわ。
私が空回りしていたことは否めませんの。
だから苛つくことは無いのですけれど、圧迫感がずっと残っているのは疲れますわね。
宿に泊まることになれば、豚と話せるので、その時は解放されますわね。
どうしてあの豚が癒しになっているのかしら。
手間がかかる上に責任があるギズロフを無駄話に付き合わせる訳にはいきませんし、まともに話が出来る人が豚以外にいないのが大きいだけですわね。
オズワルドは話相手にはなりませんけれど、いるだけで安心できて、必要以上に会話する必要はなかったのですけれど。
ひたすら草が生い茂っているところを歩いていますわ。
メニュー画面から現在位置を見てみると、イズメリィの中のパルスネという町に向かって歩いていますの。ギズロフは迷いなくパルスネ方面に向かって歩いているようですわ。
何度か来たことがあるのかしら。
パルスネに着いた時は、少しほっとしましたわ。
朝から歩きつづけて、今は昼間ですの。
これで宿屋が見つかれば、メイベルは酒場にいきますわね。
その打算は外れてしまいましたわ。
宿屋が見つかり、ギズロフが酒場に行くのに、メイベルは部屋で弾を作っているんですもの。
豚はギズロフに連れて行かれましたわ。
「私がお作りしましょうか?」と聞いても、
「あたいのことは気にするな」と言ったきり、何も話してくれませんの。
重苦しい沈黙が部屋の中を包みましたの。
先ほどのゴブリンから奪った素材だけでは何も作れませんし、製作に逃げることはできませんわね。
窓がある2階の部屋で助かりましたわ。
景色を眺めて時間を潰すことは好きですもの。
パルスネはポセニアよりも賑わっていますわ。ポセニアは行き交う人は少ないのですけれど、パルスネはそんなことはないようですわ。
あまり遠くないのに、大きな違いですわね。
ふと、ある一行に目を奪われましたわ。先頭の人間が、後方の方を縄で縛って引きずっていますの。
後方の方は、なんというか、普通の方ではないように感じましたの。
肌が群青という位青く、耳が頭に付きそうな位長く尖っていますの。
ここの人間とは、全く姿形が違うようですわ。
見ていると、あの縛られた方が、私を見ましたの。
目が合ったことにぎょっとして、目線を逸らしてしまいましたわ。
次に目をやった時には、すでに一行はいなくなっていたんですの。
縛られていたあの方は、もしかして竜人だったのかしら。
それから、ギズロフがベロベロになった豚を連れて帰って来るまで、青い肌の方を見ることは無かったのですわ。
豚はろれつの回らない口でVRを甘く見ていただの、テストプレイにこんなものは無かっただの言っていて、聞く処ではなかったですの。
でもなんとなく、あれが竜人であることは分かっていましたわ。
これから竜人と深く関わることになるとは、全く思いもよらず、豚を介抱していましたわ。