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目を覚ますと、まだ空がすみれ色をしていましたの。朝日が上るには、まだ時間がかかりそうですわね。

いやに早く目が覚めたせいで、私以外はまだ寝ているようですわ。

工房に居た時は、朝日が昇った頃に起きられたのですけれど。

あの一回だけを除いて。


殺したことが、影響しているのかしら。

私を苦しめ、あまつさえ殺そうとした、あの女。


殺さざるを得なかったのですわ。

あの女は殺されても、当然のことをしましたわ。


でも、罪悪感は薄まらずに残っていますの。

この冒険が終わって、オズワルドとまた過ごして、そして――時が過ぎたら、また何も無かったように過ごせるのかしら。


それは、私にとって喜ばしいことなのかしら。

父にとって、母にとって。西園寺家にふさわしいと思えるかしら。



私が物思いにふけっていると、日が昇って皆が起き出しましたわ。


豚は、皆が起き出してもなお、眠っていましたの。

ギズロフが揺り動かしてやっと起き出しましたわ。

「皆って朝早いよね、びっくりするよ」

豚があくびまじりに言ったのを見ましたわ。呑気ですわね。


朝食は部屋に届けられましたわ。

朝食はパンとスープですわ。味は工房にいた時と全く変わりませんの。

前の食堂ではもっと美味しかったのですが、食事を出す店とは、やはり違うのかしら。

「宿屋のご飯はいつも同じ味なんだよね〜、面白くないなあ。帰れたら苦情言ってやる」

豚はそう言いつつ、誰よりも先に食べ終えてましたわ。

「元の世界に帰りたいかしら?」

そう豚に聞いてみると、首を横に振りましたわ。

「もう他のゲームはやれなくなったことは辛いし、注文していたゲームはできないし、親にネットの履歴を見られたりコレクションを処分されたりすることを考えると辛い。とっても辛い。うあああああ」

本当は帰りたいのではなくって。

「でも、今の方が楽しいよ。頑張りが成果として返ってくるし、目に見えるし。前は、年を取っていく度にしなきゃならないことがたくさんあったけど、今は一生旅をする冒険者でいい。年を取って冒険者でなくなる前にお金を貯めていこうと思うけど、それは自分で決めたことだし、年を取るのかすら分からないから、目標とかは無いんだけどね」

「お金を貯めるのは、老後の生活のためですの?」

「違うよ。ネコミミナースカフェのため」


えっ。


「カフェっていう概念が無いし、ネコミミナースすら奇特な冒険者の格好としか思われてないけど、これがかわいいことに気がついたら火がつくと思うなあ。軽食はこの朝食よりも美味しくしてさ。ゲームの世界だから厄介な客も少ないだろうし、イケると思うなあ」「そんな下らないことを考えていましたのね」

「こういう目標がないと、こういうゲームは楽しくないよ」

私の目標は、この世界に来てから一つもありませんわ。

前にはありましたの、学校を不登校にならずに卒業するという目標が。

そこから先はないですわ。

私は誰も信用できないなかで、卒業後の将来というものを考えないようにしていたのかもしれませんわね。



朝食が終わった後、ギズロフは皆に言いましたわ。

「これからイズメリィに行く。用意をしたら宿屋の前で待ってろ」


宿屋の前で待っていると、やけにじろじろ見られますわね。

制服が珍しいのかしら。

制服といったら、普通は勇者と思うでしょうね。

豚も、視線に気が付いたようですわ。

「じろじろ見られてるよ、ねぇ、茜ちゃん」

「そうですわね、制服が珍しいのかしら」

突然メイベルが口を挟みましたの。

「イズメリィに行くのに、呑気そうでいいな」

「どういうことですの?」皮肉で苛ついたのを隠しつつ、聞きましたわ。

「イズメリィはリコリスとレミオルの緩衝地帯だ。竜人になにされるかわからねぇのに、気楽でいいよな」

早速豚に聞いてみましたわ。

「竜人ってなんですの?」「竜人は、僕らとは違う人種で、竜と人の中間みたいな感じ。ゲームだと魔王を倒すのに、良くて中立か、悪くて敵対的だね。」

「魔王の仲間なんですの?」

「うーん、どちらかというと魔王とも敵対しているから、三つ巴って感じかな」もっと話を聞きたかったんですけれど、ギズロフがやって来て、そこで会話は途切れましたわ。


一団は、そのままイズメリィに向かうことになりましたの。

もっと聞きたいことがあったのですけれど、豚とギズロフは前ですし、後ろは話せる人が居ないので、聞くことはできなかったのですの。



歩いているうちに、小さな緑色の小人たちが出てきましたわ。

背は私の腰ほどありますの。

皆武器と防具を持っていますわ。

「ゴブリンだ!」

ギズロフは一声叫ぶと、ナイフを構えましたわ。

豚は、まっすぐに敵に向かっていきますの。

私も何かしなければ、なりませんわね。

自動人形を起こして、粘着魔方陣を出させましたの。粘着魔方陣は勢いよく飛び出て、ちょうどゴブリンの顔に当たりましたわ。

「これは踏まないでくださいまし!」

ギズロフは振り向いて頷くと、一気に後退しましたわ。

すると、ゴブリンが空いた間合いを詰めるため前進してきましたの。

その時、一匹のゴブリンが魔方陣を踏みましたわ。

「はつどうしまーす」

自動人形がその時を逃しませんでしたの。

この魔物は片足を粘着されて動けないようですわ。

ギズロフが止めをさしましたわ。

ゴブリンは2手に別れたようですわ。

逃げる側と、時間を稼ぐ側ですの。

次は自動人形に投石魔方陣を発動させましたわ。

逃げていくゴブリンに照準を定めて攻撃させましたの。

石が空を切ってゴブリンの頭の上へ。

その時、ゴブリンが振り向きましたの。

目が合いましたわ。

魔物は口を開こうとした時に、石が頭を砕きましたの。

顔が痛みに歪んで――その時の顔は、あの女の死に顔と一緒でしたわ。

そんなことを思い出してはなりませんのに。

相手は殺してもいい魔物ですのよ。


相反する感情を持ちつつ、早くこの時間が終わって欲しいと思いながら、投げ続けましたの。



戦闘が終わった後で、ギズロフは私に声をかけてきましたわ。

「姉ちゃん、別に逃がしても構わなかったんだぜ、全滅が目的じゃねぇんだから」

「次からはそうしますわ」「そうか」


それきり、ギズロフは何も言いませんでしたわ。

ただ、メイベルだけは冷たい目で私を見ていましたの。

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