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あれからメイビー草原を抜けて、ポセニアという町の宿屋にいますの。一団につき1部屋を貸してくれるようですわね。1人1部屋とはなりませんが、贅沢は言えませんわ。
部屋は暗いですわ。
今私は窓からポセニアの町を見ていますの。
ポセニアはリコリス城下町よりは寂れていますが、城下町が派手な町だっただけかも知れませんわね。でも夜は静かになるのは一緒ですわ。ポセニアの夜は城下町と同じ月夜ですわね。
歩き続けてくたくたですわ。でも歩きに加えて、戦っている方は大変ですわね。道中アプグルンしか出ず、動かない私やロキシーはともかく、囮役の豚はことあるごとに、回復薬を飲んでましたわ。
確かに、メニュー画面で体力を確認してみると、一度の戦闘で豚の体力が4割ほどになっていましたから、仕方ないといえば仕方ないのですが、こんなに減りが早いのは≪異能≫のせいなのかしら。
聞いてみましょう。
今部屋にいるのは、私と豚とロキシーのみですわ。
ロキシーは壁にもたれて寝ているようですの。
豚は、私に背を向けて座っていますわ。
「豚上さん、失礼しますわ」
豚の背に向かって言うと、彼の背がビクリと震えましたの。
「な、な、何?茜ちゃん」
「なんだ、そんなことか……もちろん≪絶対防御≫のせいだよ」
豚は、どこかがっかりしたような顔をしてましたわ。「僕は、前の世界じゃ体力なんて無かったけど、もうLV29だよ?ステータスだって体力に極振りしているし、今までと同じと思わないで欲しいなあ」
「極振り……聞いたことありませんわね」
「極振りは、あるステータスに全部ポイントを振ることで……ひょっとして、ステータスを開いたことないんじゃない?」
豚の言う通り開いてみると、ポイントという項目がありましたわ。
LVはいつのまにか3に上がっていて、6ポイント残っていますの。
「ポイントをいくらか使って、ステータスを上げることを振るって言うんだ」
「なるほど、では私はどこに振ったら良いのかしら」そう言うと、豚は悩み始めましたわ。
「普通は器用とかに振るんだけど、茜ちゃんはそこに振れる?」
ステータスから器用と書かれているところをなぞり……
[もう器用は上限です]
「振れませんわね」
「そんな気がしたんだよねー。僕も回避に振ろうとしたら出来なかったし」
これは異能の影響のようですわね。
「とりあえず、速度とかに振っとくのはどうかな?攻撃はダメだよ、直接攻撃出来ないでしょ」
言われた通りに、振ってみましたが、あまり変わったところはなさそうですわね。
ふと、最初にアプグルンを見つけたときのことを思いだしましたわ。
「どうして、戦闘中に人差し指を回していましたの?」
「ひょっとして、ショートカットも知らないの……」どうやらスキルから設定すれば、人差し指を回すだけで≪異能≫を発現できるらしいですわ。
「でも茜ちゃんには、ショートカットできる≪異能≫はないよね。戦闘に使えるやつじゃないならそのままでも大丈夫だと思う」
いいえ、ありますの。
あの女から奪った≪人形使い≫が。
「そうですわね。そのままにいたしますわ。どうもありがとう」
でもそんなものに頼りたくはないですわ。
あの女の力を使うなんて、不名誉ですもの。
酒場から帰ってきたギズロフとメイベルを部屋で迎えて、そのまま就寝、という訳にはいきませんの。
このまま役立たずというわけにはいきませんわ。
自動人形の内蔵している罠を付け替えなければなりませんの。
バッグから、発光魔方陣を取り出して、光の玉を出して、それを光源に作業しますわ。
「光、あたいにも貸してくれないかい」
メイベルも起きているようですわね。
メイベルは銃の手入れをするようですわ。
しばらく寝息といびきを聞きながら作業をしていましたの。
先に話しかけたのは、メイベルの方でしたの。
「あんた、前に何をしてきたんだい」
意図が分からず、黙っていると、さらにこう言われましたわ。
「あんたの目、濁ってんだよ」
人を殺すと、目は濁るのかしら。それとも、いままでの生き方のせいなのかしら。
メイベルは、言葉を失う私を睨んで、こう言いましたわ。
「あんたが何をやってきたのかはあたいには分からない。でもこの一団に何かやらかしたら、そのときは、あんたを殺すからね」
それから、作業が終わるまで、静寂が続きましたの。