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豚と再会できたときは、驚きましたわ。
あれきり、町で会ったことが無かったのですから、どこか遠くに行ってそれきり二度と会えないと思っていましたわ。
「どうしてここにいるんですの!?もう二度と会えないとばかり思ってましたのに」
「心配してくれたのか〜茜ちゃんは健気だなぁ」
あなたに健気と言われると腹が立ちますわ。
「僕はね、ご飯を三回ずつ食べさせてくれる代わりに、囮役をする契約で、このチームにいるんだ。今はLV29になったんだよ、凄いでしょ」
「井上たちはLV30を越えているようですわよ」
健気と言われたことに苛ついていたので、胸を張っている豚に、つい口を滑らせてしまいましたわ。
そうしたら、豚は、動揺しましたの。
「えっ、嘘!?あんなプレイもしたこと無さそうな奴が!?……いやいや、茜ちゃん、攻撃系の≪異能≫を持っている奴らだからでしょ!?あ、奴らじゃない、『彼ら』だね。『か・れ・ら』だね。僕は囮になっているから倒したときの経験値ボーナスが無いし、むしろそれでLV29まで行ったって凄いでしょ、ね、ね!」
私に言っているのか、豚自身に言っているか分かりませんが、あまり深入りすると危険そうですわね。
緑の髪で、黒いローブに肘ほどの杖を片手に持った堕神官は、そんな豚の様子を無表情で見ていますわ。
見下している、というよりは、むしろ微生物を観察しているような、感情の無さを感じますの。
ふと、目が合いましたわ。「……ごきげんよう。西園寺茜と申しますわ。」
「ロキシーだ。よろしく頼む」
ロキシーは一言だけ言って、後は観察に戻っていきましたの。
きっと興味の無いことに関心を持たない方なのでしょうね。
「こっちには挨拶も無しかい?」
赤毛の女性から、刺のある言葉を口から出されましたわ。
バイオリンケースほどの大きさの銃を背負い、拳銃を複数ある腰の辺りのケースに入れた方ですの。
「ご挨拶が遅れましたわ。西園寺茜と申しますの」
「あっそう。あたいはメイベルだ。よろしく」
オズワルドとは違う、敵意を疑ってしまうような無愛想ですわね。
おまけにつり目で、あの女の死に顔を思いだしそうですわ……
「姉ちゃん、そう嫌そうな顔をするなよ」
ギズロフは、笑いながら私を諌めましたわ。
「ロキシーは、何考えているか分からねぇ奴だが、戦闘では頼りになる。メイベルは女だが、射撃の腕は見事だぜ。豚はとにかく目立つしな」
豚はその一言に食ってかかりましたの。
「ギズロフ!僕だけ目立つって何!?扱いが雑過ぎるよ!それに僕は『豚上』であって豚じゃない!」
「お、済まねぇな。豚」
「だからぁ、ったくこのNPCが!」
今のは、悪口に入るのかしら。
「茜ちゃんは、豚なんて呼ばないよねー」
どうして私の方に話を持っていくのかしら。
「いつも豚上さんと呼んでおりますわ」
「茜ちゃん!」
心の中では違うのですけれど、言う必要はないですわね。
ギズロフは、地図を取りだしましたわ。
「無駄話もここまでにしようや。俺たちは、リコリスから南のイズメリィへ向かう。そこで、南西のとある祠の『龍の魂』を得るのが目的だ」
少し聞いてみますわ。
「龍の魂って、素材なんですの?」
「そうだ。黄金級の中でも希少な鉱石だ。反リコリスのレミオル国が近い分、慎重にいかなきゃならねぇが、なに、俺たちがついてるから勝手なことをしなけりゃ大丈夫だ」
「足手まといがいるのに、そんな無理していいのか?」
メイベルが突っかかるのを、諌めたのは、ギズロフと、あの豚でしたの。
「メイベル、こっちから頼んだのに、足手まといはねぇだろ。」
「茜ちゃんは、僕が守ってあげるよー、ぐふふっ」
メイベルはフン、と鼻を鳴らして黙りましたわ。
性格でも、あの女を思いだしますわね。
ギズロフは私に笑いかけましたの。
「姉ちゃんには、道中の合成を頼む。罠で戦うことも頼むかもしれねぇが、できるだけ生き残ることだけを考えてくれ。戦闘は、主に俺たちがやる」
「分かりましたわ」
「そりゃあいい。じゃあ行くぞ。ぐずぐずしてると爺さんに怒鳴られちまうぜ」
こうして、私たちはリコリスの城下町から出て、メイビー草原に出ましたの。
その間豚と話してましたわ。
「井上たちの噂は聞いたことあるよ。良くない噂ばかりだけどね〜」
……
ほぼ、豚が話してましたけれど。
「翼竜大母を倒しかけたのは本当なの?」
「ええ。最後は、柴田……さんが倒しましたけどね」「ああ、あの柴田かー。よく言われたよ『オタク死ね』って。オタクに差別意識あるよね。どうかと思うよ。」
私の苦しみと一緒にしてほしくは無いのですけれど。どうやって倒したのか、やけに詳しく話を求められましたわ。
話した瞬間、顎を取り落とさんばかりに驚かれましたわ。
「ええー!?罠士が前衛に赴くってあり得ないよ。よく生き残ったね!」
「確かに危なかったですわ。もう少しで破綻しそうでしたもの」
「ダメダメ。罠士は後衛がセオリーだよ。ここはバグなのか、生き返らせるコストが高すぎるから、王宮の援助がなければデスゲームみたいなものなんだから、相当注意しないと」
「そうですわね」
「ここもさ、盗賊に、銃士に、堕神官って後衛が多い割りに攻撃を受けきるキャラがいないんだよ。だから僕みたいな囮が必要なんだけどね」
「そうなんですの?」
「そう。ところで行方不明になった勇者のことは知ってる?」
「噂だけは聞きましたわ。」気づかれてはなりませんの。少しでも気取られたら、私ばかりでなく、私を助けたオズワルドの為にもならないのですから。
「一人で何をしているんだろうね?意外と冒険者になっているのかな。僕みたいに」
「私とは、性格があまり合わないようでしたわ」
「え、あ、そうだったよね。ごめんね」
私が嫌がらせを受けたことを知っていたようですわね。
「別に構いませんわ」
一晩寝て、オズワルドという味方がいて、落ち着きましたの。
あの女が光となって消えたように、この噂も一刻も早く消えてほしいと、身勝手とも思いつつ、心の中で祈りましたの。