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すぐに行こうとしたんですけれど、あることに気が付きましたわ。

オズワルドは気づいていたかしら。

あの、治安の悪い城下町南側。

あそこを、一人で通らなければならないことを分かってまして?

幸いにも、まだ明るい時間ですから、目を合わせなければ普通に通れるのかしら。

伏し目がちにして通り抜けようとしましたわ。

ちょうど中ほどに差し掛かったところですの。

そのとき――――

「そこの女、待てよ」

家々から人々がわらわらと出てきて、メイビー平原に行く道を塞ぎましたの。

振り返れば、同じように人々が戻り道を塞いでいますわ……




不安が的中しましたわね。通してといっても黙ったまま通してくれず、しばらく経ちましたわ。

冒険者は私が接客中にあらかた行ってしまったのか、全く人通りがないですの。持っているバッグは体積無効の魔法が掛かっているので、バッグは小さいとはいえ、自動人形が入ってますわ。

自動人形を囮にして逃げようかと思った時ですの。

突然囲みが崩れて、あるお婆様が現れましたわ。

伸ばしっぱなしの白髪に、杖をついた方でしたの。

「そこの子、すまないねぇ」

しわがれた声でしたわ。

「どちら様ですの?」

「ここの長老をさせてもらってるよ」

何も言わずとも人々が場所を譲るあたり、偉い側の方であることは間違い無さそうですわね。

「どういったご用件ですの?」

「大したことじゃない」

長老はバッグを指差しましたの。

「中にあるのは、オズワルドの作った罠だろう。ちょうだいな」


さて、どうしようかしら。下手すれば命すら危ういのですけれど、元々はオズワルドのものを、易々とあげて良いのかしら。

あくまでも、魔物から身を守るための罠ですのに、こんなことで迷うなんて、皮肉を感じますわね。

「この罠を何に使うんですの?人間に使わせる訳にいきませんわ」

これはオズワルドが常日頃言ってることですわ。

「もちろん、魔物に使うんだよ。心配は要らんよ」

「初対面で、口約束では心もとないですわ」

回りの方の目が鋭くなっていますわね。ここで落としどころを作りたいのは山々ですけれど、人数からいってこちらが不利ですわね。

「あんたは疑り深いねぇ。私らはなにもあんたにどうこうしたい訳じゃない。ただ、罠をくれたら通してあげるって言ってるだけさ。オズワルドのはものはいいんだが、私らには高くてね。これも神の采配。諦めて渡しておくれよ」

「どうしてそんなに罠が欲しいんですの?王宮はともかく、冒険者たちは今も戦っているのですわ。身を守る必要なんてあるのかしら」

「お前は誤解しているようだが、冒険者が依頼なしに誰かを守る訳がないじゃないか。奴らは欲で戦っているだけさ。それに、奴らが全滅することだけが南側の危機じゃない。危険なのは、空さ」空といっても、いつもと変わらない青空ですわ。

「魔物の侵攻なんぞ何回あったか数える暇もない。だが、オーガどもだけが侵攻してきたことなんぞは少ないねぇ。大体が空を飛ぶ魔物を伴っていたよ。陸と空同時に攻める訳だ。今回もきっとそうだねぇ。そうすれば、陸にいる冒険者どもの上を易々と飛んで、城下町に着くだろうねぇ。そうなったら、分かるだろう?中心部は商業の拠点だからまだしも、糞の役にも立たない南側は捨て置かれる。そんなのは目に見えてるのさ……

だから、私らの身を守るため罠をおくれよ。そしたら中心部に帰んな。あぁ、それがいい。あんたは無事に帰れる。

私らは身を守れるどちらも得だ。なぁ?」

「状況はよく分かりましたわ。では一つ条件がありますの」

条件、といった時点で、長老の眉はピクピクと動いていましたわ。周りは「ふざけるな」「調子に乗りやがって」と罵声を浴びせてましたの。

聞かない振りをしましたわ。

「使っているところを見せて下さいまし。もとからそれを見ることが私の目的ですの」

目的が達成されれば、手段はどうでもいいですわ。

私の一言で辺りは静まりかえりましたの。

「あんたは分からないねぇ」

長老は呆れたようにいいましたわ。



私は長老と一時的に行動を共にする代わりに、罠を提供することに同意しましたわ。相手方もそれで良いそうですの。その代わり、自己責任だと言われましたわ。

今はある家の中の窓から、こっそりと外を覗いてますの。


バッグの中に入っていた中で提供するのは、粘着魔方陣、投石魔方陣、そして毒餌召還魔方陣ですの。それ以外は必要ないそうですわ。毒餌を中央の道に複数置いて、弱ったところを道の両端、家々の屋根に置いた投石魔方陣で追い詰めていき、脅威を知らしめるそうですわ。

案外単純なやり方ですのね。

そう思っていると、長老が囁きましたわ。

「かすかに魔物の臭いがしてきた。オーガのじゃない……来るぞ」




確かにそれから5分もせずに見つけることができましたわ。規則的にバサバサと音をたてて、音から近づいてきているのが分かりますの。

体の色は茶色で、半分が翼で、顔はトカゲに似ていますわ。体長は私より少し小さい位ですわね。私?160㎝台ですわ。それが群れでこちらに来ていますの。


長老から、あれは翼竜だと教えてもらいましたわ。

火を吹くことはないそうで、ここで火に巻かれることはないようですわね。一安心ですわ。


翼竜たちも順調に毒餌にかぶりついているようですし、これならすぐ倒れそうですわね。



先に気づいたのは長老でしたわ。

「何か近づいて来ておるな」

それは翼竜たちよりも速く飛び、毒餌が撒かれた道の空中で羽ばたいていますわ。翼竜たちと色や形は同じですが、わたしの背の2倍はありましたわ。

「あれはなんですの?」

「翼竜大母さね。翼竜の母親だ。これは参ったねぇ。あの翼竜はきっと子どもだ……翼竜大母は子どもに輪をかけて狂暴だ。もし毒餌に気づいたら、とんでもないことになる」

ちょうど間の悪いことに、毒餌を食べた一匹が苦しみだしましたの。

翼竜大母は、一鳴きして、子どもの側に行こうとすると、罠の発動のため近くにいた人間に気づいて、耳をつんざくような声を上げて威嚇しましたわ。




こうして、私たちは、翼竜と翼竜大母を相手にして、戦わなくてはならなくなったのですわ。

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