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一番奥の女たちなど消しとんでしまえばいいのに。
少なくとも、父を愚弄したあの女は許しませんことよ。
そう剣呑なことを考えつつ、私はバスの中でおくびにも出さず座ってましたの。
バスの一番奥はあの女とその取り巻きが座っていて、私は奥から2番目の右端。隣は奥の女とかしましく騒いでおりますわ。
私は騒音を誰よりも近くで聞くことを強いられていますの。
できることなら静かにして頂きたいけれど、あの猿たちが聞くかしら。
バスは一般道から高速道路へ入って行きましたわ。
今まで景色を見て気をまぎらわしてたのに……フェンスしか見えませんの。
「ねぇ、楽しい?」
突然奥から声を掛けられましたわ。
振り返ると、5人の「猿」がニヤニヤと笑っておりましたわ。
「修学旅行なんだから、そんな暗い顔しないでよ。はいスマイル〜」
長い前髪を束ねた女が唇を歪めて笑っておりますわ。
「あんたが暗いとこっちまで暗くなっちゃうわ」
つり目の女が憮然といいますの。「まあまあ、西園寺さんはいつもそうだもんね〜」
茶色がかったセミロングの女がお菓子を摘まんでおりますわ。
「よく修学旅行に来たね。」
「このお金もあの汚いお金からなの?」
童顔の双子がペットボトルからお茶を飲んでいますわ。
汚いお金というのは、私の父が汚職したことに由来することでしょうね。
その直後両親は失踪してしまい、私はこの学校に転入せざるを得なくなりましたの。
はじめは腫れ物に触るようでしたわ
それもそれで嫌だったのですけれど、同じクラスの男からの告白を振ってから、それが敵意に変わったようですの。
男?ニヤケ顔だったのは覚えてますことよ。
その直後に敵意を向けられるようになったのですわ。あの男に猿のうちの誰かが好意を向けていたことを後で知りましたの。
猿らにとって、私の父は汚職した上に失踪した議員であるという事実、私はその悪役令嬢というレッテルは嫌がらせをするのに都合の良いものだったのでしょう。
クラスでただ、居るだけの存在になるのに、あまり時間はかかりませんでしたわ。
猿どもは言葉をぶつけるだけぶつけて、違う話題に変えたようですわね
所詮私のことなどは話題の一つとしか思っていないのでしょう。
憎たらしい……
窓枠に雨粒が垂れてきましたわ。今日は曇ってた分予想はしておりましたが。
私は窓ばかり見ていて、だから異変にもすぐに気づかなかったんですの。
突然前から悲鳴が聞こえましたわ。
前を見ると大きなタイヤが跳ねながら、バスのフロントガラスに向かって来ているんですの。
すぐに前のトラックから外れたものだとわかりましたわ。
バスは辛くもかわしますが、雨で滑り、二車線を斜めに横切るようにして動かなくなりましたの。
「いやあぁぁぁあぁぁ」
次は後ろから悲鳴がして振り向くと、10tトラックが後ろから来ていましたわ。「止まってッ!止まってッ!」
なにやら猿が騒いでいますが、おそらくバスにいた皆さんがわかっていましたわ。
このままぶつかってしまうと。
予想通り、トラックはぶつかり私は座席に強かに頭をぶつけて、そのまま意識を失いました。