初めてだから・・・優しく・・・
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走り出した、と言ったが。
「ぶっ!」
開幕壁にぶつかってしまった。仰向けで倒れて天を仰いでしまう。
その場を見ていた人達から可愛そうな物を見る目で見られる。
「だ、大丈夫ですか広さん!」
聖ちゃんが慌てて駆け寄って来てくれるがそれを手で制して立ち上がる。鼻を壁にぶつけた事は痛いが別段気にする事では無い。
どうしてこの様な結果になってしまったのかと考える。
俺が思っていたよりも動けてしまった事が原因なのだが、何故そんな事が起きたのか。
「成程、これが光君と聖ちゃんが言っていた身体能力が高くなるって事か」
初めて顔を合わせた時に言ってたことを思い出した。だけどこれは身体能力高くなりすぎではないか?
「ちょっとタイム」
光君にタイムを掛けてその場で体を動かして見る。近くに会った石を拾って全力で壁にぶつけてみる、爆散した。
手に持った木剣を、今度は手放さないように強く握り振り下ろす。つもりだったのだが強く握った結果木剣が砕け散った。
砕け散った木剣を見て冷や汗を流す。ちびっ子に視線を向けて見るが笑っていた。多分許されたと思う!
「あの、広さん木剣壊れてしまいましたけどどうします?」
気が付けば光君が直ぐ傍に来ていた。どうやら木剣を壊してしまい何も武器を持たない俺を心配してくれたようだ。
大丈夫と声を掛けて、光君が持って来てくれた木剣をありがたく受け取る。
「僕も慣れないうちは何度か壊してしまったので大丈夫です。分かったかもしれませんが、思いのほか力が強くなっているので気を付けないと木であれば簡単に壊れてしまいますよ」
うん、だから今度は壊さないように、それでいて手から木剣が飛んでいかないように気を付ける。大体これぐらいなら壊れないと言った基準を見つけ、その力で振ってみる。
何度か振り回して気が付いたが風切り音が凄まじい。どんだけ力が強くなっているのやら。
「よっし、お待たせ。取り合えず何とかなりそうだ」
感覚は掴めたので、先程の様に顔から壁にぶち当たるなんて事にはならないだろう。ならないと良いな・・・。
剣を構えて此方の動きを窺っている光君。そんな彼に対して木剣で小石を弾き飛ばす。
「っ!」
行き成り遠距離から何かしてくるとは思っていなかったのだろう。少しだけ大きく回避行動を取った。その間に一気に彼の足元に走り寄る。距離がそれ程離れていなかったのが幸いした。木剣を彼の足元に刈る様に動かす。が
「おっと」
光君が木剣を地面に突き刺して脚を庇う。望んでいた結果が訪れない事に舌打ちを溢し距離を取る。
「行き成り足を狙うとか結構えげつないですね」
「だって足を狙ったら動けなくなってくれるだろうし、もうそれで終わりになるかなって」
その言葉を受けて光君は苦笑と共に冷や汗を流す。
と言うか、俺結構全力で攻撃しに行ったんだけどあっさり防がれるとは思わなかった。まぁ俺の身体能力が上がってるなら光君も同じだよな。
「では、今度はこちらから行きます」
今度はこちらが受ける番。少しも見逃さないように、しっかりと見ていた筈なのだが気が付けば光君は目の前に現れた。
彼は手に持った木剣を引き絞り、突き出してくる。
以前のままの身体能力であれば、木剣では無く真剣であれば確実に腹に穴が開いてしまうような一撃。だけど今の俺なら避けれないでも木剣を逸らすくらいなら出来る。
突き出された木剣の切っ先に自分の持つ木剣を軽く合わせて体の右を通すように受け流す。
「凄いです広さん、当てるつもりで動かしたのに簡単に避けるなんて!」
「簡単じゃなかったけどなぁ!」
完全に受け流すことが出来ずに、脇腹を掠ってしまう。それを気にする余裕も無く光君は突き出してきた木剣をそのまま横薙ぎに振るってくる。避けるのは難しいと判断し、地面を蹴って宙に舞い迫る彼の木剣の間に自分の木剣を差し入れわざと受け距離を取る。
「いったぁ!?」
予想以上の衝撃に手が痺れ痛みが体に響く。だけど本来の目的である彼との距離を取る事には成功したので十分だろう。
勢いそのまま地面を滑る様に着地し、次を試す。
思い出すのは崖から落ちるときに俺を助けてくれる事になった『矢』。鋭く早く貫くために打ち出されたそれを思い出す。体内から何かが抜けていく感覚を覚え眼前に思い浮かんだソレが浮いていた。と、思ったらポトリと落ちた。
「アカン」
ポトリと落ちたソレは消えゆくように霧散した。
再び周囲に何も言えない様な空気に満ちてしまう。ちびっ子は腹を抱えて大爆笑していた。後で隙を見てぶん殴ってやりたい。
「えっと、もう少しイメージを簡単に浮かべた方が魔法は発動しやすいかなと・・・」
「ありがと」
見かねたのか聖ちゃんがアドバイスをくれたのでそれに習ってもっと簡単にイメージする。矢とか俺撃った事無いしね。
思い浮かべるのは・・・パチンコで良いだろう。小さな鉄球を想像し周囲に浮かべる。先程も多い量の何かが体から抜け落ちたが構わずそれを撃つ。ポトリと落ちた矢とは違い、今度は真っ直ぐと飛んで行った。本当に真っ直ぐ飛んで行った。
「ふっ!」
あまりにも綺麗に真っ直ぐ飛んで行ったものだから、光君が木剣に何かを纏わせて縦に一閃。それだけで鉄球は左右に別れ弾かれていった。
「うっそぉん」
あまりの結果に呆然としていたが考えても意味が無いと受け入れる事に。何度も鉄球を作り出し撃ち続けながら走り出した光君に向かってこちらも接近していく。
木剣と木剣がぶつかり合い、再び木剣が砕け散った。
「よーしそこまで。凡その力の内容は理解出来た、これ以上は木剣が無駄になるだけだろうしここで止めておこう」
そういって止めと言ってきたちびっ子に従い、首に延ばしかけていた手を戻す。
「咄嗟の事とは言え、よく動いたもんだ」
「その咄嗟の事で首を狙われた僕としてはかなり怖かったですけどね」
アハハと笑って誤魔化して、一先ず今回の手合わせは終わりとなった。