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器用貧乏

面白味の無い話だと思われますが、読んでくださっている方がいて感無量です。

「器用と言われてもなぁ・・・」


 春に自身の力を教えて貰い、俺達は春の部屋を後にした。

 次に向かう先は王様がいる筈の王室らしいが、正直今は自分の力の事を考えるだけで一杯一杯。

 器用って何が器用何だろうか。手先が器用とか?何だろう、服飾系の仕事で一儲けしろと言うことなのだろうか。この世界にミシンなんてものがあるとは思わない、そもそも機械が存在しないだろう。

 となると、裁縫針片手にちまちまと縫い続けるしかないのだが・・・。いかん、そんな長時間同じ事をするのは似合っていない気がする。


「俺も出来れば光君みたいに分かりやすい力が良かったなぁ」


 思わず隣を歩く光君に愚痴を溢してしまう。話しかけられた光君は苦笑を返して来た。


「でも、僕みたいな戦闘向きな力は前線に駆り出されることが多いので、僕としては後方支援の聖の力が羨ましいんですよ」


「隣の芝生は青く見えるってやつか」


 自分の持ってないものが羨ましく思えるのは、何処に行っても同じもんなのね。

 と言うか、普通に聞き流すところだったけど前線って何。魔王でもいるの?


「お察しの通り、いますよ魔王。他にも戦争が起こる場合もあります。ここベリストリアには僕と聖春の三人の迷い人がいますので、他国が攻めてくることは少ないですがゼロではありません」


 他国との戦争となると命の取り合いか、正直自分には実感が湧かない。でも光君は離れ離れになった妹の為にその手を血に染める事を決めたらしい。確かに他国に戦争吹っ掛けられて何もしないで落とされましたじゃ妹を探すどころの話じゃなくなる。


「光君は強いなぁ、俺はどうしよう」


「自分はまだまだです。広さんは自分のやりたい事をやるのが一番だと思います、誰かに敷かれたレールの上を歩いてばかりだと人生詰まらないですしね」


 うん、その言葉が出るだけでも十分大人であり、強いよ君は。

 そのまま互いに無言になり、廊下を歩く音だけが響く。暫く歩き進み、先ほどの春の部屋とは違う豪華な門の前に辿り着いた。


「さて、この扉と開けた先に王がいる筈だ。先程も言ったが礼儀も作法も気にする必要は無い」


「割と自由な人ですからね、王様は」


「自由過ぎるのも困りものですが・・・」


 エルリアがノックし、扉を開ける。光君と聖ちゃんもそれに続き部屋に入っていき、最後に俺も部屋に入り扉を閉める。

 部屋の中は扉と違い質素だった。唯一目を惹くのは天井に吊り下げられているシャンデリアくらいだろうか。それ以外は王様が座るであろう椅子があるのみで、その椅子には誰もいなかった。


「当てが外れたな。どうやら王は外にいるらしい」


「どうせまた鍛錬でも見に行ってるんでしょう」


「となると、広さん少し気を付けた方が良いかも知れませんね。王様が鍛錬を観戦しているのなら巻き込まれても可笑しくはありません」


 聖ちゃんがそういうと後の二人も困ったように笑っていた。巻き込むって何にだ、鍛錬にか。

 そうして今度は鍛錬を行っているという中央の訓練場に向かう。とは言っても王室からはそこまで離れていないらしく、左程時間を掛けずに辿り着いた。

 訓練場は人に溢れていた。とは言っても皆が鍛錬に身を投じている訳では無かった。会話に興じている人や指示をしている人、皆それぞれ過ごしている。そんな中に一人だけ、やけに小さな子供が大声で叫んでいた。


「やれぃバートン!切り刻めぇ!」


「殿下、これは鍛錬ですので切り刻むなどの物騒な事は起きません」


「血だ!血を見せろぉ!」


「殿下、血が出る鍛錬など今まで行ったことはありません」


「えぇい、生温い!血が出てこその鍛錬だろ!」


「殿下、煩いです」


 どうやらあのちびっ子が王様らしい。そういえばどう呼べば良いのだろうか。王様なのか殿下なのかちびっ子なのか、流石にちびっ子は無いか。まぁ声に出さなければ問題は無いだろう。

 ちびっ子はこちらを見つけて、何故か獰猛と呼べるほどの笑顔を浮かべた。確実に嫌な予感がする。思わず踵を返してどこかに逃げようかと思ったがエルリアに腕を掴まれてしまった。


「ほうほうほう、君が新たな稀人か。春には会ったか?まだなら今すぐ会ってくると良い。まぁエルリアがいるなら既に会ったのであろう。それで、君の力は何だい?光も聖も中々に強い力が備わってたが、春の様に何かにしら別の方向に優れているのか?」


 開口一番早口で巻きたてられた、うんこのちびっ子既に面倒くさそうである。

 一先ず話の中で力の事が出てきていたので自分も力を教える事に。


「器用らしいです」


「器用?手先がか?」


「分かりません、春からは器用とだけ伝えられましたから」


 エルリアに台詞を取られてしまったので口を閉じる。

 器用と伝えられたちびっ子はぽかんと口を開いて、笑った。

 中々に失礼な奴である。人の力を聞いて笑うとは・・・。笑われても仕方が無いのかも知れない、器用って何なのか俺も分からないし。

 そう考えていたらちびっ子が傍に仕えていた従者らしき人に何かしらを耳打ちし、その人物が俺に木剣を手渡してきた。

 何をしろと・・・?


「まぁ器用とだけでは分からない事も多い。故に、一つ光と剣を交えて見てくれ。一応は王命であるから拒否権は無いからな」


 拒否権が無いなら、一先ずそれに従おう。手渡された木剣掴み適当に振ってみる。


「あっ」


 冗談から思い切り振ってみたら手からすっぽ抜けて飛んで行ってしまった。慌ててそれを走って取りに行く。ちびっ子は爆笑し、光君と聖ちゃんは目を逸らしていた。


「死ぬことは無いだろうが、怪我はすると思っていてくれ。なぁに、命さえあれば私と聖が治してみせるさ」


 つまり怪我をして来いと言うことだろうか。

 一先ずこれも経験だと割り切り、人が掃けていった中央に向かい光君と対峙する。


「流石に僕も全力では行きませんので、遠慮せずにかかって来てください」


 そう年下に言われてしまっては・・・年下だよね?まぁそう言われてしまい少しだけムカッとしてしまうのは仕方が無い事だと思う。だから、今自分にもてる全力で光君にぶつかってやる。


「それでは、始めろ!」


 ちびっ子のその言葉が引き金となり、俺は走り出した。 


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