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落ちて来て森の中

あまりこう言った小説は書いたことがありませんが、皆様に面白可笑しく読んでもらえたら幸いです。

 代わり映えのしない毎日でも、友と触れ合い、家族と触れ合い、仕事をして日々を過ごすことを悪いとは思わなかった。

 それでも、何か日常に変化・刺激と言うスパイスが欲しいと思うのは誰しもが一度は思う事だと思う。

 かくいう俺も、その一人。何時ものように目覚ましに起こされ、朝食を食べ仕事に向かうために身支度をし、遅刻をしないように早めに家を出て駅に向かう。

 駅に近づくにつれて増す喧噪に辟易しながら、今日も一日が始まると思っていた。

 信号機が赤に変化し遮られ、横断歩道の手前で待っていた時にそれは起こった。


「何だこれ!?」


 それは誰が叫んだのか、突然足元に眩い光が発生し困惑している学生か。それともそれを見ていた何某か。兎も角、そんな異常な光景を目の当たりにして俺は不思議な事もあるもんだなと何処か見当違いの考えを浮かべていた。

 何が起こるのか、誰しもがそう思い身体を硬直させていた時、学生達が叫んだ。


「う、動けない!誰か引っ張ってくれ!」


「何、何なのよこれ!」


 その言葉を受けて、周囲の人達は動き出し彼らを引っ張ろうと手を伸ばす。俺も同じく動き出し、学生の手を掴み光の中から解放しようとした。だが、それは少しばかり遅かったみたいだ。

 足元の光が範囲を広げ、何処までも何処までも広がる様に光量を増してゆく。その光景を見て誰しもが再び動きを止め、伸ばしていた手が宙を掴んだ事に気づかないまま。

 広がり続けると思われた光が、学生の足元に集束するように集まり弾けた。弾けた瞬間の眩さは人々が視線を逸らす程眩しく、そして手に掴んでいた筈の学生の腕の感覚が消えた事に気が付いた。

 誰しもがいんな非日常な光景を目の当たりにし困惑していたが、少しした後に何事も無かったかのように動き出し日常に戻っていく。

 そんな光景を俺は唖然として見ていた。

 謎の光源に包まれて消えた学生達を誰も不思議に思わない。周囲を探すわけでも無く、警察に連絡を取るわけでも無く。誰もが何も覚えていなかったかのように行動する。

 異常だ、非日常的だ。もしかしたらそう考えているのも自分一人だけなのかも知れない。そう考えると怖気が奔った。もしかしたら可笑しいのは自分なのかも知れない、実は白昼夢を見ていただけで誰も消えていないのかもしれない。

 考えが纏まらないまま、周囲と同じように自分も歩き出そうとした時


「え」


 何かに足を掴まれ、倒れこむ。倒れこんだ先に見えたのは先程と同じような光。


(よく見ると、何処かの文字が書かれてる・・・)


 そんな考えを抱きながら、意識が沈んでいった。

 焼けつくような日差しが降り注ぐ真夏のある一日の事。消えた人の事は誰の記憶からも消え去り、その人達がいた痕跡も、世界から消えていった。



















 意識を取り戻したのは、日が天に上り切った頃だった。未だ重い状態である瞼を開き、周囲を見回す。


「何だこれ・・・」


 見渡して見えたのは人混み塗れた都会の喧騒では無く、崖の上。眼下に見えるのは何処までも広がる様に見える森。光に包まれた後に辿り着いたのは崖だった。

 鳥の鳴き声に混ざって変な声も耳に入る。聞きなれない声に何の声かと見上げてみれば、口を大きく開きこちらに襲い掛かる様に飛んできた何かの存在だった。それは巨大な怪鳥であった、大きく開いた口から零れ出す唾液が滴り落ち、その口で今にも自分を食べようと迫ってくる。


「へ、はぁあああ!?」


 慌てて体を地面に伏せるようにし、襲い掛かる牙を回避する。牙が先程まで頭があった場所を通り過ぎ、もしもあのまま立ち竦んでいたらと思うと冷や汗がドッと流れ出す。

 自分と言う獲物を仕留め損ねた事に怒ったのか、その怪鳥は再び上空に舞い戻りまたこちらに襲い掛かる!

 それを見て、伏せた体勢から横に転がり避けようとするが


「っ!」


 先程よりも早く飛び掛かって来た怪鳥の羽根か何かにぶつかったのか、転がるのではなく弾き飛ばされてしまう。

 そこまで広いわけでは無い崖の上で弾き飛ばされてしまえば、ふわりと襲い掛かる浮遊感。後に襲い掛かって来た落下する感覚に声を荒げながら手を伸ばし崖にしがみ付こうともがく。

 だが、弾き飛ばされた故に崖から遠のいた状態では何かを掴むことなど出来ず、重力に従いどんどん落下する勢いは増して行く。

 脳裏に死が過る。行き成り訳も分からないままにここに立ち、訳も分からず死んでゆく。その現実を、何処か諦めを含みながら受け入れつつそっと目を閉じた。


---タァン!


 風切り音が耳に響くと同時に、行き成り体が引っ張られる感覚に襲われる。先程弾き飛ばされた時とは逆に、引き戻されるように崖に縫い付けられる。何が起きているのか?それを理解する直前に落下が急に止まり、重力に従ってい落ちていた体が勢い良く止まり内臓が揺さぶられる感覚に襲われる。


「光!」


「分かってる!」


 そんなに時間が経った訳でも無いのに、久しく聞こえてきた様に感じた日本語に思わず安堵してしまう。


「解き放て!」


 光と呼ばれた青年が手に携えた剣が風を巻き起こす。


「お、おぉ?」


 崖に縫い付けられた体が再び宙に浮く。先程と違うのは落下する勢いを感じずに、ゆっくりと地面に近づいて行くのが分かる。


「助けるのが遅くなってしまい申し訳ありません・・・」


「いや、助けてが来るとは思ってなかったので、こうして命があるだけ十分です。ありがとうございます」


 ふわりふわりと綿毛が空中を漂う様に地面に降り立つ。降り立った地面には、先ほど光と言った青年に声を掛けていた女性が立っていた。助けて貰ったお礼を述べて、先ほど自分を襲ってきた怪鳥に視線を移す。


「光なら心配しなくても大丈夫です。落ちて来てから鍛錬を欠かすことなく今に至りますから」


 心配している様に見えたのだろうか。申し訳ないが心配よりも彼がどうやって飛んでいるのかが気になって仕方が無い。目で追うのがやっとの速度で飛び回る怪鳥に容易く追い付き、容赦なく羽根を切り刻む。

 怪鳥は片羽根を失い、バランスを崩し真っ直ぐ飛ぶことが出来なくなり、やがて落ちていった。

 光君はそれを見届けてから、こちらに降り立つ。


「怪我は無いですか?すいません助けるのが遅くなってしまって」


 同じことを言われてしまい、思わず吹き出してしまう。助けて貰った手前こうして笑ってしまうのは失礼だろうけど、心配してこちらを見る顔も、声音も似ていて笑ってしまった。

 突然吹き出した自分を不思議に思ったのか、二人とも首を傾げて顔を見合わせている。まるで家族の様な光景に微笑ましく思いつつ。一先ずは現状を把握する事にした。



















「落ちて来たってのは、そういうことか・・・」


 先程彼女、天乃聖あまのひじりが言った落ちて来たという発言。頭上には青く光る星が見える。彼女達が言うには、あれが地球であるらしい。最初こそ何を言われてるのか分からなかったし、もしかしたら自分をからかっているのかと思った。だけど、先ほど襲ってきた怪鳥の死骸を見て、触れて、牙を見て先程の恐怖を思い出す。あれが現実だと受け入れつつ、地球に戻れるのかと聞いてみたが、揃って顔を俯かせてしまい察してしまう。地球にはもう戻れない。


「まぁ、そんなもんだよな」


 だけど、自分はそこまでショックを受けたわけでは無かった。逆に新たな刺激を受け入れつつある自分がいた。

 そんな自分を見て二人はまたしても顔を合わせて不思議そうにこちらを見ていた。聞けば、彼らは自分とは違い最初は取り乱して地球に戻してと泣いて、叫んで、絶望していたらしい。だけど、光君は落ちて来た妹を探すために立ち上がった。そんな光君を見て聖ちゃんも心を決めて探すことを手伝うと決めて、力を付けていたとのこと。

 今は落ちて来たところを保護してくれたという『ベリストリア国』にてお世話になっているらしく、そこの神官であり聖ちゃんの師匠でもある人が、地球から誰かが落ちて来る時に出来る魔力の流れを感じた事を教えてくれてここに来たようだ。


「それで、お兄さんはどうしますか?」


「どうする、とは?」


「僕たちは目的があってベリストリアにいます。事情が事情なのでベリストリアの国王も受け入れてくれて保護してくれると思います」


「地球から落ちて来た人達って、この世界にいる人よりも身体能力が高かったり、何か特別な力を持っていたりと強力な存在らしいんです。だから可能なら国王は自国で保護するのが望ましいと言っていました」


 保護されるのも良いかも知れない。何せ自分はこの世界の事を何も知らないし右も左も分からない。何処に何があるのか?文字は読めるのか?言葉は通じるのか?分からない事だらけの現状を考えるに、二人について行きベリストリアに向かうのが現状で最善だと思える。

 聖ちゃんが言っていた特別な力とやらも分かるかも知れない。そう考えたら答えは一つだった。


「一先ず、俺も二人について行くよ。折角の縁だし、二人と仲良くなっておきたいしね」


 打算抜きで、二人とは仲良くなっておきたい。そして多少知識を付けたら旅に出るのも良いかもしれない、自分達以外にも落ちて来た人がいる可能性だってある。そのためにも自分の事を詳しく理解し、力を付けよう。


「それじゃあお兄さん、私の肩に手を置いてもらえますか?これからベリストリアに戻りますので」


「ん?そういえば不思議だったんだけど、二人ともどうやってここに来たの?」


 今更ながら、二人はどうやって助けに現れたのか気になった。崖の上から見渡してみたが周囲には人が住んでいるような場所は無かった。森の中に国があったとも考えられないし、そう考えると不思議で仕方が無い。


「あぁ、それは私の力です。それについての答えも戻ってからゆっくりと教えますね」


 ありがたいと思い、指示された通りに肩に手を置く。


「ありがとうございます。じゃあ行きます『開け、旅の扉』」


 彼女がそう告げると足元に見覚えのある光が浮かび、俺達は森から消えていった。

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