転生先はくじ引きで決めました
「168番の番号札でお待ちの方、21番窓口にお願いします~」
手元を見ると、168と書かれた番号札。
よく分からないけども、呼ばれたからには行かねばならないのだろう。
「えっ~と、あなたの場合は……」
手元の資料をぱらぱらと確認するのは、そこはかなく軽い雰囲気のお兄さん。
そしてどすんと、目の前置かれるガラポン。
ガラポン。
うん、商店街などの抽選会で使用される、八角形の木箱に取っ手がついているアレである。
「こちらのガラポンを一回、まわしてくださいね~」
いわれるままに、ガラポンに手をかける。
「ところで、これって何のくじ引き?」
からからと中で玉がぶつかり合う音がする。
たいがい白色がハズレで、赤色や金色が大当たりだったりするのだろう。
自慢じゃないが、くじ運はよい方ではなかった気がする。
「ん? あなたの次の転生先を決めるんですよ」
はい? 転生先??
からんと、出てきた玉は赤色。
「おぉっ、大当たり~♪ 特賞ですね」
カランカラーンと鐘を鳴り響かせる音と、
「なんじゃそりゃああぁぁっ!」
と、担当者を殴り飛ばした鈍い音が、わたしの新しい人生のはじまりの合図だった。
「で?」
色々と説明があるからと、通された別室で出されたお茶をすする。
お。美味しい。
「茶菓子もありますよ、はい」
「もらいまーす」
うん。お茶菓子も美味し。本当に美味しい。どこの饅頭だろう。
「普通、ガラポンで人を殴り付けますか?」
赤くはれ上がった頬を、濡れタオルで冷やしながらジト目で睨む男に、にっこりと笑いかける。
「普通、転生先をガラポンで決めないよね?」
しかも、なかなかに年季のはいったガラポンでしたよ。
長年使い込んでるんだぜぃっ☆ て感じでしたね。
「何言ってるんですか、有名な方法でしょう。あなたも今まで、何度か転生の際にガラポン引いてますよ」
「はあ?」
「まあ、赤玉引いたのは今回が初めてですけどね。んじゃ、説明にはいりますね」
「いや、まって、くじびきで来世決めるとかおかしいでしょ!?」
「えーと、特賞を引かれたので貴方という魂には、今回の転生ではいくつかの選択肢があります」
な、流しやがった。もっと、ちゃんと説明してほしいんですけど!
・王の子供 ※性別は選べません
・王弟の子供 ※性別は選べません
・先王の孫 ※性別は選べません ※両親が現王とはかぎりません
「以上、どの生まれになりたいですか?」
「却下!! ※ってなんだ、※って!!?」
どれもいらねえ! つか、全部王族の関係者じゃないか。
物語の登場人物としてなら憧れもするが、自分の人生の選択肢としては嫌だ。
「もっと普通のお願いします。商人とか、町人とか、村人とか」
人生、平凡が一番です。
一般家庭希望、超希望。
「それは、白や水色の玉出した方の選択肢ですね。なんで嫌がるかな、人気なのに。たまには別の生き方してみましょうよ。例え妾腹だったとしても、絶対に誰かに身分を利用されて表舞台に引っ張り出されますから」
それ、いわゆる苦労するパターンですよね。
身分の高い人は、それ相応の責任を果たさなきゃいけないとか、知ってますから!
王族ラッキー、贅沢できるもんねーとか楽観はできませんから。
「無理。だって、こんだけ拒否反応示すってことは、今まで、一般人にしか転生したことないってことだよね?」
「確かに。あなたは今まで平凡な人生ばかり歩んでますね」
平凡っていうな、平凡て。もっと、オブラートに包んだ言い方してください。
「でも、たまに善行したり人助けしてるので、今回のくじ引きでは、赤玉の出現率が大幅に上がったみたいですね」
誰だ、そんな余計なサービスはじめやがったの。
「あら、まだ揉めてるの?」
涼やかな声が室内に響く。かつんと足音をさせながら、個室に入室してきたのは、グレイのパンツスーツの女性だった。
「ボス~。この人、赤玉出たのにちっとも喜ばないんですよ~」
「男の子が情けない声出さないの。うざい」
ダメな部下をたしなめる、できる女上司。
やばい、恰好いい。
「我儘言っちゃダメよ。あなたそろそろ違う人生経験しとかないと、魂の質が落ちるわよ」
「え?」
「刺激を受けないと、幅が広がらなくて鮮度が落ちるのよ」
それは、きっとよろしくないことなんだろう。女の人は、本当に心配そうに視線を送ってくる。
「で、でも、そこまで煌びやかな所に生まれるとか……」
「ちっ、下手に赤玉引かずに青玉だったら、有無を言わさず王子か王女に生まれ変わらせたのに」
……あれ、今、何か黒い囁きが聴こえたような。
「ん? どうしたの?」
「え、いや、なんでもない、です」
聴こえなかったことにしよう。心の平穏のために。
「そ~ね~。なら、私の手伝いしてくれる?」
「手伝い?」
「転生先の身分としては、一般家庭でなく、いわゆる冒険者がお世話になるギルドの関係者なんだけど、どうする?」
ギルド。
なんか、RPGとかでよく聞くアレだよね。
関係者ってことは、実際に冒険する側ではないだろうし、事務作業的なお仕事とかが待ってるのならやれそうな気がする。
よし、王族関係よりは心の平穏が望めるであろう。
「……やってみます」
私の返事をきいた瞬間、女の人が浮かべた微笑みと、その部下の浮かべたなんともいえない表情が対象的だった。
「では、お手伝いの内容を説明するわね」
目の前に出されたのはファイルが二つ。
見てみてと言われて、それぞれの中身を確認する。
「伝説の剣を抜き、誰もが勝てなかった古の魔獣を退治。遺跡の奥に眠る古代神器を目覚めさせ、暗黒大陸の邪悪竜を討伐。古代書を紐解き、四大元素の大精霊の加護を得て、闇に堕ちていた守護巨人を封印。……え、どこの主人公の話?」
「どこで生まれようと、必ず何か世界をゆるがす力を手にして、人々や国を救ってきた魂の履歴ね」
「うわぁ、カッコいい」
本当にそんな人いるんだ。すごーい。
「自分の命を犠牲にしてね」
え?
「この魂は、必ず大きな何かを手にし、何かを救い、必ず死ぬ。だから、短命なの」
「短命って、何回かは長生きしたりとか」
「結婚して、子供ができて、孫ができて……みたいな愛する人となんでもない日々をおくる普通の幸せなんて、一度も経験したことないわね」
言葉に詰まり、もう一冊のファイルを手にする。
「……貴族制を廃止し、一般の国民も政治に参加できるような選挙制度の確立。奴隷制度の廃止。王政の廃止。こちらは色んなことと戦って、自由を手にしてきた魂、ですね」
「そうね。古いものを壊し、新しいものを築く魂よ。悪しき慣習と戦い、たくさんの人を救うけども、たくさんの人を敵に回し、恨みを買い必ず暗殺される運命」
「それって……」
「志半ばで必ず命を落とし、自分が成し遂げた自由を確認することなく、仲間と喜びを分かち合うこともなく消える魂ね」
煌びやかな人生の中に潜む影の部分をこれ以上見ていたくなくて、ファイルを閉じる。
「この二つの魂をどう思う?」
「なんか、切なくなります」
こんなに頑張ってるなら、少しでもいいから幸せになってほしいと思う。
「うんうん。思わず幸せにしたくなっちゃうよね! さあそこで、あなたの出番よ」
「は?」
「このほっといたら、誰も何も言ってないのに、世界を救っちゃったり、革命しちゃおうとして勇者や英雄になって命を散らすのを邪魔をしてほしいの」
「はあっ?」
「うん、だから、勇者や英雄になるのを邪魔してほしいの、意図的に」
「いや、邪魔って、わたしに魔王にでもなれって言ってるんですか! それ、ギルド関係者じゃなくて、ギルド関係者に命狙われる立場ですよね!?」
「大丈夫、大丈夫。魔王なんかにならなくても邪魔はできるって。そんな環境をちゃんと用意するから安心して」
安心なんて、できませんから!?
勇者とか英雄になっちゃうような特別な人となんて、渡り合えませんって!
「あ。なら、自分、魔王ポジションとして一緒に行きます」
今まで黙っていた、受付担当が口を挟んできた。
「あら、それいいアイデアね」
「ちょうど、溜まりに溜まってた有給を消化しろって言われてるんで、有給ついでに付いていきますよ」
「待て待て!!」
なんか、本人置いて話が転がり出してるんですけど?
「あー。でも、情操教育上よろしくないと思うんで、この手伝いの話とかは10歳くらいまで思い出さない方向のがいいと思います」
「そうね。じゃあ、10歳の誕生日に全部思い出すように手筈は整えとくから、アンタは先に行って準備しといてあげて」
「はーい、りょーかいー」
どろんと、消える受付担当。
な、なんだ、展開が早すぎてついていけないんですけど?
「じゃあ、再確認ね」
にこっと、素敵な笑顔で女ボスが、最終通告をした。
「お手伝いの内容は、勇者や英雄の邪魔。魔王役とは現地で出会えるから、うまいことやってね~」
ぱちんと音がして、テレビの電源が消えるみたいに、視界がブラックアウトした。
そして、10年後。
「はっ!?」
10歳の誕生日を迎えた朝。
夢から覚めるのと同時に、前世と現世の間で交わされていた、とある約束を思い出した。
「…………うわぁ、番号札のくだりから一気に思い出したし」
今の身分は、ギルドの元締めの子供。うん、ギルド関係者であってる。
あと、なんだ、魔王とかっていってたのは、どうなった。
こんこんとノックの音がした。いつものように兄が起こしに来てくれたのだろう。
「どうぞ」
「あれ、珍しく起きてる。……ま、さすがに今日は起きちゃうかな」
と、笑顔で部屋に入ってきたのは、見慣れた兄の顏でもあるのだが、転生先を決めるくじ引きの時の受付担当者の顏でもあった。
「おっはよー。さあ、今日から頑張って、例の邪魔しよっか」
「兄貴が魔王とか意味分からんわあああああああぁぁっ!!!!!!!!!!」
枕元にあった昨夜読みかけのそこそこ厚い本で、いつぞやのように殴りとばした音が、わたしの今までとは少し違うバタバタな日々の開幕を告げた。
転生ものとか楽しそうと思いつき、勢いで書いた短編です。
道筋が思いついたら、続編があるかもしれません。