表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるとき勇者でときどき魔王様!?  作者: 遊家
第一章 魔王勇者の金十字塔
7/72

赤色フードと大剣使いの少女

 宿には食堂が完備されているのか、朝からいい匂いがキリの泊まっている部屋に入ってくる。

 キリは備え付けられているクローゼットから昨日、着ていた服を取りだし、宿があらかじめ用意してあったパジャマを脱ぎ、着替えを済ませる。

 キリは部屋を出ると、アスカが泊まる部屋の前に立ち止まる。

 少し前に宿の支配人が現れて、朝食の用意が出来たことを伝えられていた為、アスカにも教えてあげる為だ。


 「アスカ……キリだけど、朝ご飯出来たらしいから起きてこいよ」

 「まってよ。今行くから」


 ドアの向こう側でドタバタと、アスカが急いで準備する音が聞こえてくる。

 これは、もう少し時間を喰うなと思い、ドア越しに声をかける。


 「先に行ってるからな」

 「まってよって、言ってるじゃないの~」


 すると、強い風がアスカの部屋に吹き込んだのか、不意にドアが開きアスカの驚愕した目が合う。

 要約すると、装甲の下に着るスパッツに手をかけ、片足を入れている途中のアスカと、それを不幸にも正面で見てしまった金髪頭の少年。


 朝の宿に少女の悲鳴と少年が殴られる音が響いた。


 「俺が悪いか! 俺が悪いってか!」


 朝からいい感じの張り手をもらった不幸少年キリは、冤罪を晴らすべく。目下、被告である大剣使いの少女を問い詰める。


 「だって、急にドアが開くから、見られると思ってなかったのよ」

 「じゃあ、なんで俺が殴られるんですか?」

 「それはあれよ。目をそらしてくれれば、いいのに見てくるから」

 「納得いかねぇ……まったくもって納得いかねぇ」


 アスカは嘆くキリ構わず、宿の従業員が持って来た朝食セットを見る。綺麗に焼けたトーストにスクランブルエッグと基本的オーソドックスな感じだ。

 アスカはトーストにイチゴジャムを大量にぬり、それを旨そうに頬張る。


 「それより、今日は広場に行って解放戦の戦列に加わるわよ」

 「単独ソロでいいよ俺は」


 冤罪が立証される事が無いのを悟ったキリは、テーブルの上にあるカップに目覚ましがわりの冷たい紅茶を注ぎ、角砂糖を1つだけ入れる。


 「単独ソロなんて認めてもらえる訳ないじゃない。それに昨日の広場での騒動で、あなたの名前って意外と皆に広まってるかもよ?」


 アスカはトーストをいつの間にか食べ終えていた。そして、追加注文したコーンスープに手をつける。


 「それはいきなりアスカが勝負をふっかけてくるから悪いんだろ!」

 「とにかく単独なんて無理だし、許可が降りないからこの話は終わりね」


 アスカは支配人に宿代を支払う。もちろん昨日言った通りにキリの分も負担してくれた。

 そこは正直に感謝しておく。


 「ちょっと早いけど広場に行きましょ」


 朝焼けが広がる町並みへと、キリはアスカと供に広場へと向かった。




  ◇◆◇◆◇




 朝の日差しが、ランザーク城下の町並みを縫うように射し込み、町は夜の冷えきった空気から朝の暖かい空気へと変わっていく。

 赤色のフードをかぶった少女は、朝早くから開いている市場に向かう。いわゆる朝市だ。


 「やあ、サラちゃん。今日も買い出しかい?」

 「はい、今日は団長からの頼まれごとで煙草を買いに来たんですよ」


 少女はそう微笑みながら、声をかけてくれた店の前を立ち去っていく。

 あいにく、今日は寄る必要がなかった。


 (それにしても、昨日、出会った金髪の少年はどこに行ったのかしら?)


 少女は昨日、敵地の真ん中で出会った少年を難民キャンプに送って行った後に、団長からの呼び出しがあったので別れた。

 夕方は、暇が出来たのでキャンプに立ち寄ると、そんな少年は来ていないと、警備員から聞かされた。


 (まったく。難民キャンプに行きなさいって言ったのにフラフラして)


 彼女は頼まれた煙草を露店商人から買い付け、城に戻ろうとする。

 すると、遠方から男女の言い合う声が聞こえる。


 (朝から痴話喧嘩かしら?)


 少女は現場に急行する。

 一応、軍に所属する彼女としては治安維持も一つの任務だ。

 おせっかいだとしても仲裁に入る為、少女は走る。


 「あなた達! 喧嘩はやめなさーー」


 そこで少女は言葉を失う。目に入ってきたのは、黒髪ショートの少女が、昨日知り会った金髪頭の少年の襟首をつかんで引っ張っている。


 「誰よあなた? 私はこれからこのバカを連れて広場に向かうから邪魔しないで」


 少女は、突然現れたサラに向かって怪訝な表情を浮かべて、怒気を含んだ声でいい放つ。

 一方、少年はこちらに向かって『そこの見知らぬお嬢さん助けて』と涙目で訴えてくる。

 

 「あんたは……私の事を……簡単に……忘れてくれやがってクソ野郎がぁぁぁぁ!!」


 


 本日、二度目の理不尽極まりない張り手が、キリを襲った。



 近くの喫茶店に入った一行はキリを窓際に押し込め拘束する。


 「で、あんたはどうして昨日、難民キャンプにいなかった訳?」

 「えーと……あの後に義勇軍に参加したら、隣に座っている彼女にですね勝負をふっかけられまして……」


 キリは隣に座るアスカを指差しながら答える。


 「ねぇ、キリ。この人誰?」


 アスカはアスカで、突如現れた少女に不信な目を向けている。


 「えっと、この人は俺を首都に連れてきてくれた人で、えっと……確か迷子だったような……」

 「迷子じゃないわよ!」


 少女は大きな声で否定すると、アスカに自分の名前を教える。


 「私の名前はサラ。サラ=ラーゼフォン」

 「ミドルネームってことは貴族関係の方ですか?」


 アスカは注文した冷たいカフェオレに口をつけながら聞き返す。


 「えっと……、貴族と言うか一応、王朝軍です。第一大隊後方支援部隊で副団長をしてます」


 サラはにこやかに微笑む。どうやら彼女は同性に対しては優しくなるようだ。


 「ところで、あなた達って義勇軍なのよね?」

 「はい。今から広場に行って戦列に加わるつもりですから」


 アスカは相手が上位階級だと知ると敬語で話す。


 「ふふ。そんなかしこまらなくていいから」

 「あっ……はい! じゃなかった。えっと、これから広場に行こうかと思ってるの」


 そっか。っとサラはうなずく。


 「で、さっきの話なんだけど義勇軍って昨夜遅くにエリア1のグラントール市の解放に向かった筈だけど……」


 アスカとキリは目を合わせ一緒に驚く。


 「まじかよ……なんで俺達おいてけぼり?」

 「多分、所属チームを決めずに広場を出たから連絡が回って来なかったんだわ」


 アスカは机にたおれこむ。サラがなだめるように背中をなでる。


 「まあ今日は情報収集にでも時間をあてたらどう?」

 「情報収集って町中じゃそんなに無いだろ」


 キリはサラに向かって仏頂面で反抗する。


 「はぁ~~。あなたって何も知らないのね」


 サラはポケットから地図をとりだす。

 どうやら、ランザーク城下の見取り図のようだ。


 「いい? この喫茶店から少し離れた所にランザーク国立図書館があるから、そこに行けば過去の解放戦からのデータがあるのよ」

 「へぇ~~。相手の特徴とかもあるのかな?」


 アスカは身をのりだしサラを見る。


 「まあ過去のデータだけど」

 「ううん!わたし見てみたいかも」


 アスカは目を輝かせながら答える。


 「キリも行くだろ?  このままじゃ暇だしさ」

 「いや、俺はパス」

 「なんでよ? 暇でしょあんた」

 「そうじゃなくてだな……」


 キリは半分が魔族であり人生のほとんどを魔界で過ごしたのだ。それは自分の家を分厚い解説付きの参考書を読む感覚に近い。つまりは無駄だと言う事。


 「行きなさいよ。おのぼりド田舎者のくせに……」

 「なんだと!?」


 サラの悪態にキリは逆上する。


 「いいから行きなさいよ。私は団長に煙草を届けてから合流するから」


 赤色フードの少女は喫茶店から出ていった。


 「ほら、行くわよ」


 アスカに引っ張られて国立図書館に向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ