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あるとき勇者でときどき魔王様!?  作者: 遊家
第一章 魔王勇者の金十字塔
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蒼白の大剣使いと王朝軍

 広場の一角で剣先を突きつける黒髪ショートの少女と、突きつけられた金髪頭の少年。

 彼らは互いに睨み合い、広場には妙な緊張感が張りつめる。


「やだよ。なんでそうなるんだよ」

「だって、あなたは一人で参加するでしょ。なら、私に勝てないくらいじゃ単独ソロなんて無理だし、カッコ悪いし、すぐに死んじゃうわよ」


 少女は剣先をキリの顔へと、さらに近づける。


「それに私、あなたに負けるとか思ってないし、思わないから」

「なに!? 俺がこんなちっさいお子さまに負ける訳ないだろ!」

「なら、決まりね」


 冷静になれば安っぽい幼稚な挑発だと分かるのだろうが、キリは愚かにも乗ってしまった。

 少女はキリとの距離を取りながら剣を構えなおす。

 キリもベンチから立ち上がり、剣を引き抜き、黒い剣先を少女に向ける。

 直後。

 ーーゴバッ!! と、風の引き裂く音とともに、キリは少女に猛然と斬りかかった。

 ガッキィィィ。と金属が激しく擦り合う音が響き渡り、両者の間で火花が飛散する。

 少女はキリの持つ黒剣を上へと払いのけるが、その僅かな一瞬の隙をキリは見逃さない。

 少女のがら空きになった胴の部分に、右拳を打ち込み、少女の体がくの字に折れ曲がる。

 これで終わりだ。

 そう最後の攻撃と言わんばかりに、蒼白の鎧へと剣を降り下ろす。

 だか、少女はすんでの所で横にすっ飛び、キリの斬撃をかわす。地面に転がり、その場に立ち上がる。


「もういいだろ」


 キリは剣をトントンと肩にあてながら、少女に降参するように言葉を投げ掛ける。


「まだよ。それに私はまだ全力じゃないし」


(強がりだな……)


 少し腕のある剣士なら、数度の打ち合いで実力が大抵は分かる。明らかに少女はキリより格下だった。

 強がりと思うのは当然だ。キリはこれ以上戦うのは無益だと思いながら、少女を見据える。

 すると、少女は剣先を地面に向け、体と水平になるように構えると、ーーすぅ。と深呼吸をし、目をゆっくり閉じ何かを口ずさむ。


 ーー何をしている?

 怪訝な顔で眼前の少女を見つめる。

 すると、少女の周りに風が吹き荒れ蒼白の装甲が青く輝き出す。

 直後、カッと目を見開いた少女は、先程と全く比べものにならない速さで迫ってきた。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 少女の渾身の一撃がキリの体を貫こうとする。

 キリは真っ向からねじ伏せるように少女の突進を受け止めた。

 二人の斬撃による衝撃波が、広場一帯に広がり遠くから見ていた人でさえ衝撃に体が飛ばされそうになる。

 そこから二人は鍔迫り合いにまで距離を縮める。


「驚いたな。まさか君がここまで速いとは」

「ふん。私は強化魔法を重点的に磨いたのよ」

「ーー魔法? さっき口ずさんでいたのは魔法を発動させていたのかよ」


 お互いの剣が小刻みに震え、火花を散らす。


「ええ。でも私の魔法はそれだけじゃないのよ」


 少女は詠唱を素早く唱える。

 すると、少女の剣が一回りも二回りも巨大化する。

 その結果、鍔迫り合いから一転、キリの方に剣が傾けられ始めた。


「うぐぐぐぅ」


 重さに堪えきれず、キリは真横に回避する。

 石畳の床が一瞬にして粉々に粉砕されていく。


「くそ、急にでかくなりやがって」

「ふふーん。良いでしょコレ」


 粉塵が舞う中、少女は巨大化した剣を軽々と持ち上げ、重さなど感じさせない動きを見せる。


「で、どうする? 降参しちゃう?」


 少女は嬉しそうにたずねる。恐らく少女最大の武器に、キリが引いたことで勝利を確信しているのだろう。


「俺がこんぐらいでやられる訳ないだろ」

 

 そう言ってキリは再び、斬りかかり、二人は激しくぶつかり合う。

 あまりの速さに二人の姿は見物人からは見えず、剣と剣を合わせる音だけが、遅れて響き渡る。 

 キリは巨大化した少女の剣が、打ち込んでくる際に軽く打ち返す事で、自身の剣にかかる大剣の重量を受け流すよう当てていく。

 だか、そんな小細工など蹂躙するように、少女はキリを上回る速度で、巨大な剣を打ち込み続ける。


(くそ! ギリギリで避けても速度が違いすぎる)


 遂にキリの剣が弾かれ、黒剣が空中に舞い、キリの後ろに突き刺さる。


「終わりね」


 少女は大剣を上段に構え、そして少年に向かって降り下ろした。

 だが、

 ドゴォォ。と大剣が『少女の後ろ』に突き刺さり、その剣先がキリに届かない。


「なっ、なんで……」


 少女から驚きの声が漏れた。

 何故か少女が使っていた肉体強化の魔法が強制解除されていた。

 もちろんキリは解除方法なんて知らない。だが、好機チャンスとばかりに剣を取りに行く。

 しかし、思いがけない方角から声が聞こえ、キリの動きが制約された。


「双方ともに剣をおさめよ」


 キリは声がする方に意識をむける。

 そこには、輝く純白の鎧に、青い縦十字が彫られ巨大な盾を携えた男と、その取り巻きに数人の騎士らしき格好をした部下を連れていた。


「まったく。ここは神聖なる人間界の首都ぞ。互いに争いは収めよ」


 恐らく彼が少女の魔法を解除したのだろうか? 手にはそれらしきアイテムが持たれていた。


「あんた、一体誰だよ」


 キリは剣を鞘に納め問い出す。


「キサマ! 無礼であろうが! このかたはーー」


 後ろから声を荒げる部下を手で制す。


それがし、ランザーク王朝軍 第四大隊隊長を任されているログ=ランジールだ。以後お見知りおきを」


 ランザーク王朝軍? そう聞いてもリアクションが取れない。呆けているキリの横で、少女は驚愕の表情を浮かべている。


「なんで王朝軍がここに!?」

「ふむ。先刻、エリア1の偵察から帰ってきた所だ」

「エリア1の偵察……」

「隊長。そのお話は城にお戻りになってから」


 部下がそっと耳打ちをする。


「うむ。そうであるな。とりあえず双方、争いはやめるようにな」


 ランジールはキリ達がいた方角から向きを変えると背を見せ、立ち去っていった。


「なぁ、ランジールって誰だよ」


 キリはそう少女にたずねる。


「え、ランジール隊長を知らないの?」

「えっと、俺は首都から離れた所にすんでたから」

「ログ=ランジール第四大隊隊長。過去にエリア4まで攻略した事がある猛将よ」


 少女は大剣にかけた魔法を解除し、大きさを元に戻し剣を背中にある鞘に納める。


「さてと、みんなにも変な目をつけられてるし、私は帰るね」

「そうだな。俺もそろそろ帰らないと」


 二人は集まっていた連中から抜け出そうと広場をあとにする。途中、騒ぎを起こしたとして警備に捕まりそうだったが、構わず走って逃げた。


「帰るって難民キャンプに行くの?」

「ああ、家なんてもん俺にはないからな」


 広場から抜け出した二人は大通りを闊歩する。キリは少女から勝負に付き合ったお礼(ふっかけた謝礼ともとれる)としてもらった簡易ドリンクに差したストローに口をつけながら答える。


「そっか……じゃあ、私の泊まってる宿に来なよ。部屋は空いてたと思うし」

「でも、金がないしな」


 所持金ゼロのキリにしてみれば、無難に難民キャンプの方が良いのかもしれない。

 なんて考えていたら、隣を歩く少女がポケットから財布らしき小袋を取りだし。


「そんなの私が貸してあげるわよ。エリア解放戦に参加すればお金もらえるし、そのあとにでも返してくれればいいわ」


 なんだか申し訳なくなってきた。

 あれこれ思案するキリの腕を掴んで、少女は自分が利用している宿へと案内を開始する。


「そーいえば、あなたの名前聞いてなかったね。なんて名前なの?」

「えらく急に聞いてくるな」


 文脈を完全に無視した質問にキリはため息をつく。


「聞きそびれたから聞いてるんじゃない! あ、私はアスカ。よろしくね」

「俺はキリ。キリ=ロザリオ」


 アスカは俺の名前を聞くと、うん? と不思議そうな顔を浮かべる。


「へぇ、ミドルネームがあるんだ。確か特権階級や隊長クラスじゃないと名乗れないはずじゃ……」

「えっと……ほら昔にもあるじゃないか、落ちぶれ貴族みたいな感じの。そんな家なんだよ俺」


 突然出てきた人間界の情報に、キリは急いで繕った嘘をアスカに告げる。


「まぁ家柄なんてどうでもいっか」


 そうこうしている内に目的の宿に着き、部屋を適当に借りる。


「じゃあ、私は隣だから。何か困った事があったらいってね」


 宿舎の二階に上がった二人は各自、自分の部屋の前に並んで立つ。


「ありがとう。君って、意外と優しいな」

「別にそんなこと無いわよ。ほら、明日から本格的にエリア解放戦が始まるんだから部屋に入る」


 アスカは顔を僅かに赤く染め、顔が見られないようにキリの背中を押して部屋に入れる。


「じゃあね。お休み」


 彼女はそう言い残し自室に戻っていった。

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