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あるとき勇者でときどき魔王様!?  作者: 遊家
第一章 魔王勇者の金十字塔
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赤色フードの少女はろくでもない

 魔界に存在する自宅を出たはいいが、人間界まで歩いて行っても長くて一ヶ月はかかる。


 魔族としての力を使って走る速度を十倍に引き上げても最低、一週間はかかる。

 父親である魔王に見つかるが早いか人間界に着くのが先か。みたいな感じになってきた。


「捕まらず人間界まで行けるかこれ?」


 不安が心の割合を多く占めるようになる。


「せめて瞬間移動的な魔術があれば……」


 ――魔術。それは魔族のみ使える特殊な魔法で身体の精神エネルギーを元に魔力を精製し、発動することが出来る。

 勿論、使うための詠唱や式場も必要になってくるのだが。


「瞬間移動の魔術は式場と大量の魔力が必要になるから即席では出来ないよな」 


 足どりが自然と重くなる。このままでは人間界に着くまでに捕まえられる。

 仕方なくキリは、代わりと言ってはなんだが、高速移動の魔術を詠唱する。足には強力なバネが仕込まれる感覚が生まれる。

 キリは勢いよく地面を力強く蹴り出した。

 人体では到底でない速度が出る。これも、魔術による手助サポートけみたいな物。

 木々の間をすりぬけ、谷を飛び越え、赤色のフードを被った人物を乗り越える。


「えっ?」


 キリは戸惑った。今、何を乗り越えた?

 後ろを振り返ると赤色フードを被った『少年』が倒れているのが目に入る。


 行き倒れか――?

 急いでいるのだから放って置けば良いのだがキリはそういった事が出来かったりする。


「おい! あんた大丈夫かよ?」


 『少年』を抱き抱えカバンから飲み水を取りだし飲ませてやる。


「ゲホォ、ゲホォ」


 水がつかえたのか大きく咳き込む。


「ありがとう。もう大丈夫だよ」


 フードを被った『少年』はそう言ってキリの顔を見た瞬間、後ろにたじろぎ、フードに隠れた小さな顔をほんの少しだけ赤らめた。

 キリからは表情を見る事が出来ないので、その反応が不可思議に映る。


「どうしてこんな所で倒れていたんだよ?」

「さっきまで魔族と戦闘してて、仲間とはぐれたから町に戻ろうとしたら……」

「したら?」

「道に迷ってこの場に倒れこんじゃたの」

 

 アホだとキリは思う。

 こんな場所は魔界では最も開けた地域で迷子など聞いた事がなかったし、なおかつ倒れこむ奴なんて見たことがない。


「バカだなお前」

「なっ?」

「大体、魔族との戦闘中に迷子になるなんて……」


 キリはそこで気づいた。

 さっき、この『少年』はなんと言った?

 『魔族と戦闘していた』だと……じゃあこの人は人間界の住人か!?

 初めて会う別世界の住人。

 少しだけ驚くキリを尻目に『少年』は叫ぶ。


「バカってなによ! そもそも、あなたはどこの所属部隊なのよ!」


 フードの『少年』は、もの凄い剣幕といった表情を浮かべ、こちらに詰め寄ってくる。


「えーと……」


 答えられる訳が無い。キリは人間と魔族のハーフといえども、長らく住んでいたのは魔界だ。

 そのため魔界以外の世界を知らないので、別世界である人間界の情報など皆無なのだ。


「もしかしてあなた……」


 ばれたか? と、キリの身体が強ばり、二人の間に妙な緊張と沈黙が生まれる。


「逃げ遅れた民間人なの?」

「はあ?」


 予期せぬ問い。

 てっきり魔族である事がバレたのかと思った……。

 安堵するキリを不思議そうに『少年』は見る。


「えっ? 違った?」


 フードの『少年』は、違ったの? と首を傾げる。


「あっ! そうなんですよ。実は準備に手間取って逃げ遅れたんですよ~」


 キリは必死に話を合わせて、なんとか難を逃れようとする。


「あれ? でも避難勧告は一週間前に指示がとんだ筈じゃ……」


 『少年』はそう言ってフードの中から一枚の黄色の紙を取り出す。


「ほらぁ! 一週間前にちゃんと出てるじゃないの! あなた一体なにをやってたのよ」

「それは……そう! 勧告指示が届かない所に住んでいるんです俺は」


 あながち嘘でもない。キリは魔界の最奥地、しかも魔王の城に程近い場所で暮らしていたのだから。


「ふ~ん。まあ細かい事はいっか」


 赤いフードの裾を僅かに揺らし、『少年』は向こうに振り向き、周りを見渡す。


「今なら魔族の連中もいないし私と町まで一緒に飛びましょ」

「飛ぶってどうやって?」

「ふふーん。民間の人は知らないよね」

 

 得意気に胸を張り、『少年』は腰に着けていたポーチから青い十字架を取りだし、キリに見せてくる。


「これは転移魔法が使えるアイテムなの。通称『ウンディネー』まあ名前の意味は、微妙に的外れなんだけどね。これで町まで飛びましょ」

「ほんとか!」


 キリは、このながったらしい人間界へ繋がる道にうんざりしていたし、何より魔王である父親に発見される事が、無くなるのが嬉しくなって『少年』の手を握る。


「ひゃあ!?」

「いや~助かったよ。一刻も早く町に行きたいとこだったからさ! ……ってどうかした?」


 フードの下から見える顔が赤くなっているのに気がつき熱を計ろうと、『少年』のおでこに手を運ぶ。


「な、な、なにすんのよバカぁぁぁぁぁぁ!!」


 突如、打ち出された鉄拳にキリはのけ反る。


「うおっ!? なんだよ急にアブねーな……」


 勢い余って、キリは地面に転がり、赤いフードを被った『少年』を見上げる。


 だか、突如風が二人の間を吹き抜け、はらりと『少年』が被っていた赤いフードがとれる。森を抜けた日差しが少年の素顔を照らし、ようやく目の前にいる『少年』の表情があらわになる。


 整った顔立ちに潤んだ茶色の瞳。

 まるで透き通ったように美しい明るめ茶色の髪。再び吹き抜けた風が、腰まで伸びた『少年』の『ストレートヘア』を揺らす。


「ーーーーーはっ!!!?」


 男なら普通は髪を短くし、それか少しだけ長いのが一般的で、体つきは千差万別だが、大抵はゴツい。

 しかし、目の前にいる人物は見れば見るほど『世界の男の定理』から反対に位置する姿。


(……まさか、こいつって)


 姿が男でないなら、目の前にいる人物の性別は決まっているようなもの。


(お、お、おんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)


 驚愕するキリにかまうことなく、赤いフードを被った『少年』もとい『少女』の理由なき、理不尽な張り手がとんだ。

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