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あるとき勇者でときどき魔王様!?  作者: 遊家
第二章 氷結界と誇り高き白狼
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暗闇の逃走劇

 辺りは月明かりが一つとして射し込まない真っ暗な森林。いや、雑木林ぞうきばやしと言うべきか?

 道と言う概念が存在しないのか、整備されておらず、仕方なく既存する獣道けものみちを紺に近い青色のフードコートを羽織った少女が疾走する。


 「まてや! この野郎がぁ!」


 背後から追走するような格好で男が叫ぶ。

 声には憤怒といった感情が込めらているのが分かるほど猛々しい。


 (待てといわれて待つ奴がいますか?)


 心の中で、追撃者の叫びにツッコむ。

 向こうは長い時間、こちらを自身の視界から逃さないように追走しているが、僅かばかり余裕が無いように見える。

 一気に引き離す事も可能だが、それでは追撃者は仲間を呼び、こちらとしては追撃者の数が増えるだけ無駄と言うものだ。


 (そもそも、私の目的は逃げ切る事では無いのですからね♪ 追撃者が増えようと関係ないのですよ)


 獣道に横たわっていた古木こぼくを軽やかに飛び越え、さらに速度を上げていく。

 追ってくる輩は、倒れた古木によって足止めを喰らってしまったのか、ガクンとスピードが落ちた。

 

 (これなら余裕でたどり着けちゃいますよーー!?)


 その時、暗闇に紛れて道の脇にでも待ち伏せていたのか、敵の刺客によって左足を狙撃されてしまった。


 「ーーーーっ!!」


 その場から転がるように転倒する。

 すぐに起き上がり、その澄みきった翡翠エメラルドの瞳を凝らして傷口を観察すると、どうやら矢が刺さっているのが分かる。


 (毒とか仕込まれてなきゃいいんですけど……)


 激痛で舌を噛み切らぬように泥で汚れた袖を噛み、一気に引き抜く。


 「~~~~!」


 出来れば消毒などの応急手当を施したいが、追手が障害物こぼくを乗り越えて来たらしく、再び走り始める。


 (どうやら狙撃者はこの先にいるようですね。この暗闇からの狙撃は大した腕前ですけど、狙撃そげき現場ポイントから直ぐに逃げないのは落第ですね)


 走る道先ルートに狙撃者の魔力を感知すると懐刀を取りだし標的ターゲットの首を切り裂く。

 飛び散る鮮血は少女の長い水色アクアブルーの髪をより一層、艶やかに引き立てる。

 鮮やかすぎるその手口に、狙撃者は声を漏らすことなく倒れた。


 (このペースで行けば、あと二、三日で着く!)


 胸の辺りに手を伸ばし、コートから小さな金色のロケットを取り出す。

 中には一枚の写真。

 少し大きめな少年と、寄り添うように立つ幼い女の子が仲良く並んでいた。


 (…………ってて)


 ロケットを握りしめ、心の中で呟く。


 (待っててね。今、行くからね)


 写真に写った少年に向かって確かに叫ぶ。


 「お兄ちゃん!」


 少女と追撃者による真夜中の逃走劇はまだ続く。

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