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あるとき勇者でときどき魔王様!?  作者: 遊家
第一章 魔王勇者の金十字塔
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ダウンバースト

 アモンがとった行動はいたって簡単なように、キリには映った。なにしろ、アモンはその場で、一回転しただけなのだから。


 だが、その行動はとてつもない惨劇を巻き起こす。


 周りに集まっていた龍騎兵団、約三十人が一瞬にして切り刻まれ、血が吹き荒れる。

 いや、そんな優しいものじゃなく、単に吹き出すのではない。

 人間一人が、いくつものブロック状に切り分けされ、断面があらわになる。まるで、精肉工場で切り分けられたように。


 「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 震える体に鞭を打ち、黒剣を手にとり、突撃する。しかし、アモンはその攻撃ですら、意に介さない。

 なにしろ、アモンは全ての物理攻撃が効かない特殊な体をしているのだから……。


 横に一線を書くように、アモンはその極太な腕を振り回した。

 瞬時、キリは黒剣を引き戻し、降りかかるアモンの腕と己の体との隙間に入れる。

 せめてもの防御の為に。

 だが、そんな行動すら、意味の無いものにされる。

 アモンの腕が黒剣を砕き、そのまま、キリへとぶつかっていく。


 「  」


 声が出ない。

 勢いよく吹き飛び、地面を無様に転がる。

 人間は余りの痛みの前では、うめき声一つさえ上げる事は出来ないのだ。

 と僅かに残った無意味な思考だけが、キリの全身を駆け巡る。


 「しかし、この汚い小虫が私に変わって次の主だと? 笑わせてくれるな」


 アモンは、そばに倒れていた騎士団長の背中を踏みにじる。

 そばにいたドルグは、既に最初の攻撃で、はるか離れた場所に吹き飛ばされ、横たわっていた。


 「テメら、無能なトカゲ使いを使ってやった恩を忘れやがって……、このクソが」


 その言葉は平坦で、邪気だけが含まれている。

 不意にアモンは吹き飛ばした先に、意識を注ぐ。


 「そうか。その力があったか」


 両手を広げ、愉快なように歩を進める。

 視線の先には、ドス黒い魔力が全身からにじみ出す一人の少年。

 

 「………………………………………………………………………殺す」


 疾風のような速さで距離を詰め、アモンへと拳を突き刺す。本当に、アモンの体を突き破り勢いで。

 これまで効かなかった攻撃が通る。アモンの脇腹からは血が滴る。


 「やるな。だが、コントロールが出来てないな」


 ーーゴキッ。と数十倍の重みがある拳がアモンから放たれた。

 口からは液体が飛び散り、肺の空気が押し出される。

 だが、意に介さない。いや、痛覚がぶっ飛んでいるのか、痛みといった情報感覚がない。


 拳を受けたまま、アモンの顔面に三発ほど殴り込む。

 よろめいたところへ、砕けた黒剣の破片を手に取り、アモンの太ももの裏へ回って破片を刺し、回し蹴りで叩きのめす。

 アモンはそこで、動きが鈍くなった。

 疲れや、蓄積されたダメージといったような類いではなく、黒剣が太ももの裏に刺さったのが原因だ。

 そこは血が止まらず人体の弱点とされる内の一つだ。


 「魔界三将軍なめるなよ!! お前ごときにやられる私では無い!!」


 だが、最早動けない事は事実だろう。魔族といえども急所は大して変わらないのだから。

 だが、妙な事にアモンの表現からは怒りから笑みに変わっていた。


 「何故、私が龍騎兵団という役に立たない下等種族を下に付けたと思う?」


 アモンは地面に、己の血で何かを書いていた。円が刻まれ、中心には何かの呪符を書き込む。


 ーー魔術。

 なにが発動するか、キリには推測出来ない。ただ、注がれる魔力が尋常ではない量に気づく。


 「ダウンバースト。この魔術は、ここにいる全ての物を吹き飛ばす大規模爆破魔術だよ」


 アモンがそう呟く。

 直後、世界は白く輝き、激しい爆音に包まれた。


 


 

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