竜の息吹
騎士団長の体に、キリが放った渾身の一撃が騎士団長を切り裂く。
ドバッ。と血が吹き、騎士団長の服が、赤く染まる。
ーーどうだ!?
確かな手応えを感じる。僅かな隙を突いた攻撃だ。
騎士団長はよろけ、剣を地面に突き刺して自らの体を支える。その姿にキリは、勝利を確かに感じる。
ーー今しかない!
騎士団長との距離を詰めるべく、走り出す。手にある黒剣を脇腹辺りにぶちこむ。
だが、それは出来なかった。騎士団長が赤剣で受け止めていた。
ーーくそ。
急いで、後方へと飛び下がる。騎士団長は傷がよほど深いのか、その場からピクリとも動かない。
いや、厳密には右手だけが動いていた。騎士団長は、その二本の指を傷口へと押し込んでいく。
指は赤く染まり、滴るように血が地面へと落ちる。
「これを使うとはな。まさか、これ程とはな」
騎士団長は血がついた指を赤剣へと押しつけながら、刀身に血を塗り込んでいく。
顔の隣に剣を水平に構える。
すると、赤剣は赤く、そして燃え上がるように輝く。
まるで、騎士団長の血液に反応したようにーー。
ーー轟。と唸りをあげ、剣先から赤く極太い線が放たれる。
それが、赤剣から放たれた火柱だと言う事に、キリは気づかなかった。
直後、キリの視界は赤一色に染まった。
「ーーっ!!」
キリは転がるように避ける。半ば反射的に。
眼前には激しく燃え上がる炎が見えた。先ほど放たれたのは炎。それは分かるが、尋常ではない火力に身が凍る思いになる。
「竜の息吹」
騎士団長が炎の先から姿を現す。口からは血がこぼれ落ちているのが、ハッキリと確認できる。
「この赤剣に、己が持つ魔力と血を与える事で、発動可能なる。昔から龍騎兵団に伝わる秘伝魔法だよ」
石造りの広場だからだろうか。広場全体が極度に熱くなり、まるで電子レンジの中みたいな錯覚に陥る。
「これには、さらに使える副産物も発生する」
すると、騎士団長の体がグニャリとあり得ないぐらいにねじ曲がる。
「まさか熱蜃気楼ーー!?」
地表と、周りの空気との極端な温度差による自然現象を、この男は再現したと言う事か?
「終わりだ」
騎士団長の赤剣が、再び赤く輝き出す。
直後に広場は業火に包まれた。




