騎士団長との決闘
三人を乗せたドラゴンは疾風の如く走る。
龍騎兵団の本拠はサハラ村から西に五十キロ、現在地からは八十キロも離れているが、この速さなら向こうに着くのは二時間で済む。
「ねぇ、そういえば龍騎兵団って、従った人物への忠誠心が強みなのに、簡単に変えちゃていいの?」
キリの背中にしがみつきながら、サラはドルグへ問いかける。
「確かに我々、龍騎兵団は忠誠心もあるがらそれは従った人物がふさわしい場合のみだ」
「どういう事だよ?」
キリは怪訝な表情で見つめる。
「今の主は、災厄に対する危機感もなければ、解決をしようとする動きすらない。それで、騎士団長は鞍替えをしようと考えた」
ドラゴンは更に速度を加速させ、周りの景色はめまぐるしく変わっていく。
「それで俺達を……」
「ああ、お前達ならきっと騎士団長も納得してくれるだろうな」
「一ついいか? そこに長老って、今回の預言をした奴もいるんだよな」
キリはドルグの隣に移って、ドルグを見据える。
ドルグも不思議な表情といった顔で、キリの質問に答えてやる。
「いるさ。だが、どうして長老を気にする? あれは予言だけが取り柄の老人だぞ」
「……聞きたいんだよ」
ボソッと呟く。
キリは長老に会って聞かねばならない。自分が本当に『核』なのかを……そして、それの解決策を……。
「どうした? 急に怖い顔して?」
「いや、何でもないよ」
そうしている間に龍騎兵団の本拠へと着実に近づいてゆく。
ーー龍騎兵団本拠。ドネー市
町は簡素な住宅がところどころに建ち並んでいるだけで、特に目立った建物は無い。
唯一、あると言えば、町の中心にある巨大な石造りで出来た広場ぐらいだろう。
ドルグと共に広場に入っていく。
広場の奥には数人の人影が見えた。
「あれが騎士団長だ」
すると、中でも一番背丈が高い、赤髪の男が近づいてくる。
幾千もの戦いを生き抜いたような、そんな面持ちをしている。その凄みは、近づいてくるたびに増してゆく。
「お前達が、次の主になる候補か?」
騎士団長はキリを見下ろす形で、こちらを見つめる。
「ああ、そうみたいだぜ」
「ふん。では、始めようか」
騎士団長が手をかざすと部下であろう人達が、四方に散らばる。
一人は騎士団長が使う剣を持ってくる。刀身が赤く、柄には竜の蹄が彫られている。
直後に騎士団長は信じられない速度で、キリとの距離をゼロにする。
「なっーー」
キリは、目の前にまで迫ってきた騎士団長に対して、反応が出来ない。
黒剣を引き抜こうとするが、それすら出来なかった。腹に騎士団長の拳が突き刺さり、体が九の字に折れ曲がる。
「がはぁ」
そのまま吹き飛ばされ地面を転がる。
「この程度か」
騎士団長は呆れたように呟く。
すると、土煙から黒剣を構えたキリが剣先を騎士団長に向けて突撃してくる。
「おい。いきなり過ぎやしないか?」
鍔迫り合いに持ち込む。互いの顔が近づく。
「それは申し訳なかったな」
騎士団長はキリを弾き返す。その力が凄まじく横合いに飛ばされる。
体勢を立て直そうとするが、騎士団長の膝げりがこめかみにヒットし、強烈な痛みが走る。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
視界がぼやけ、遠近がまったく捉えられない。
さらに、追い討ちをかけるように赤い剣が振るわれ、キリの右肩が縦に裂かれる。
傷口からは鮮血が吹き出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
痛みに耐えながら、黒剣を左手だけで振り上げ、渾身の一撃を叩き込もうとする。
だが、騎士団長は赤剣で防ぎながら、空きになったキリの胴へと、再び拳を振る。
「ぐふぅ」
しかし、そこで騎士団長は異変に気付く。
放った拳がキリに捕まれているーー!?
「つかまえた」
口から血が滴っているのも構わず、キリは嘲笑う。
直後、キリの黒剣が騎士団長を切り裂いた。




