グラントール市解放戦 終結
「アスカ……」
キリは壁の中にいる少女に呼びかける。
魔法が解除されたのか、壁は音をたてて崩れ落ちる。
「キ、キリ……そのケガ……」
アスカはキリの体を見て驚いた。火傷が酷く、所々には深い刀傷がある。
「待ってて、すぐに救護班を連れてくるから」
アスカは急いで、救護班が待機するポイントまで走っていった。
キリはそこらにある中でも、一際、大きな瓦礫に腰を落とす。血が出過ぎたのか、視界はぼやけ、火傷を負っているのだが、体は芯から冷たい。
(……くそ、意識が)
必死に意識を保とうとするが、瞼が重く視界がさらに狭くなる。
直後にキリの視界は暗転した。
◇◆◇◆◇◆
天候が荒れているのか、薄暗い部屋には時折、雷の光が強く射し込む。
閃光が男のシルエットを照らし、顔と体の輪郭が露になる。
金色の髪が雨に濡れているのを無視して、抱えている子供を部屋にある台座へと寝かせる。
「ロザリオの血が遂に手に入ったな」
男は近くに寄り添う、シルクハットをかぶった家来らしき男に呟く。
「しかし、本当にロザリオの血は機能しますか?」
「構わんよ。機能せねば殺すだけだ」
金髪頭の男は台座に、己の指先に切り込みを入れ、血で滴る指を筆に見立て、綺麗な円を書き、続けて中に六亡星を刻み込む。
「始めるぞ」
男がそう呟くと、台座は光輝き、まるで生きているようにうねり、子供に向かって襲いかかった。
◇◆◇◆◇◆
(……俺はどうなった)
重い瞼をゆっくりと開け、視界に光をとらえる。
「あ! 起きた!!」
目を開けると、アスカやサラ、ルシフェルといったメンバーが揃って見えた。
「みんな……どうしてここに?」
キリはゆっくりと唇を開き、言葉をつなぐ。
「どうしてじゃないわよ!!」
顔を覗き込むようにしていたサラが大声を上げる。
「あなたが重傷だからって、アスカちゃんが教えに来たから、急いで治療しに来たんじゃない」
よく体を見てみると、淡い黄緑色のベールに包まれている。
キリの体にある傷口や火傷から、白煙が出ていた。
恐らく、サラの回復魔法が作用しているのだろう。
「あれ? そういえば、あんた回復魔法って使えたっけ?」
「使えるわよ。これでも後方支援の副団長なのよ」
サラはふんといった感じで胸を張る。
キリはルシフェルに、この場所で起きた戦闘を一部だけ隠して、報告する。
「なるほどな。まあ、お前さんが頑張ったお陰でグラントールは解放されたよ」
ルシフェルは解放された印となる解放旗の準備をさせる。
「あと二日は滞在するからな。お前さんもゆっくり休んでくれや」
「ああ、そうさせてもらうよ」
ルシフェルは振り返り、事後処理の為、市街の中に入っていった。
「じゃあ、私達もキャンプに戻りましょ」
アスカがそういって動けないキリを担ぎ、サラは荷物をまとめる。
「わりーな二人とも」
キリはアスカとサラにそう呟く。
「まったく。帰ったらケーキでもおごってよね」
「またケーキですか?」
「『また』って言ったけど、いつの間にか約束を破ったのはあなたなんだけど……」
他愛な話をしながら、三人はキャンプに向かって歩き出した。
後ろから三人を見据える、赤い目には気づくことはなかった。




