銀の魔族と金の魔王
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
キリは黒剣を握りしめ、ラギンに向かって剣を降り下ろす。
ラギンはレイピアを黒剣にあて、軌道を変えて黒剣を回避する。
「ふん、これでは時間稼ぎにもならんぞ」
ゴバッーー。
ラギンが勢いよく踏み込み、突きを連続して放つ。
一撃、一撃はたいした事はないが、ラギンの手数が思ったより多く、ダメージがキリの体に蓄積されていく。
「くそったれがぁ!」
柄をレイピアを握るラギンの手に降り下ろし、連撃を止め、黒剣を力一杯に振り回す。
肩が激しく上下し、呼吸が乱れる。
再び突撃を繰り出し、今度は下から上と相手の剣をかちあげる。
ラギンの手から、遂にレイピアがこぼれ落ちる。
「貴様、俺様の剣舞に付いてくるだけでなく、レイピアをも弾き飛ばすとはな」
「どうするよ? このまま降参するか?」
ラギンは喉元に剣先を突きつけられているのにも関わらず、首を横に振る。
「俺様がそんな事をしないのは、貴様が一番分かっているだろう」
ラギンは体から爆風を放ち、目の前にいたキリを吹き飛ばす。
「くそっ!」
キリは体制を立て直す。が、それよりも早くラギンが近づく。
ガキィーー。と、甲高い金属音が響く。
鍔迫り合いからキリは力を込め、ラギンを勢いよく弾き飛ばす。
「今日は楽しかったぞ人間。冥土の土産に俺様がとっておきの魔術を見せてやろう」
ラギンは背後にある祭壇に飛びうつると、レイピアを祭壇に突き立てる。
「知ってるか? その昔には死者の魂を使った魔術があるのを」
キリはその言葉に驚愕する。
「まさか黒魔術を……!?」
だが、そのような大規模魔術は式場がどうしても必要なはずだ。今からでは遅い。
「気づかんか。なぜ貴様は俺様と集中して戦えたのかを」
ラギンの言葉が、キリが感じた疑問を吹き飛ばす。
何故、今の今まで、がいこつ達は戦闘に参加していなかったのか……。そして、ここが元々は、教会だったとすればーー。
「最初から……儀式は終わっていたのか……!?」
「さらばだ。楽しかったぞ」
がいこつ達が全て膨張し、真っ赤に色付く。
直後に轟音が鳴り響き、教会を中心とした激しい爆発が起きた。
「ふむ。やはり人間だと、これが限界か」
ラギンはレイピアを鞘へと戻し、その場を離れようとする。
その時、ラギンは背中に強烈な痛みを感じた。
振り返ると血だらけになった体。手には血の付いた黒剣を携えた、金髪頭の少年、キリがいた。
「何故だ! 何故、生きているのだ! 俺様の最大魔術だぞ!?」
ラギンは苦痛と困惑。といった表情をしている。
だが、キリは構う事なく蹴りをラギンに叩き込む。
「タネが……分かれば……術式の妨害も出来るさ」
ボロボロの声でキリは告げる。喋っている間も、キリの口から血が滴る。
「タネ……だと……!?」
ラギンはへたりこんだまま、キリを見上げる。
「ああ、お前が作った術式で出来る黒魔術は、たった一つしか無い。新約聖書に記載されている町を元にしたんだろ?」
ラギンはビクリと肩を震わせる。
何故お前が、それを知っている!? といった表情で。
「それは、建国と破壊が同時にあった『スカル』という町をモチーフにした、大爆発魔術だろう?」
「貴様……何故、そこまで知っている?」
「俺はそっちも詳しいからな。ただ、後ろにいる仲間にかかる爆風だけを狙った妨害魔法だから、俺もダメージはかなりデカイけど……」
キリは背後にある土の壁を指さす。
アスカが魔法で築いた壁には、傷一つとして、付いていなかった。
さて。
キリは黒剣を構え直し、ラギンを見据える。
「そろそろ終わろうかラギン。お互いに瀕死なんだ、最後は剣でケリをつけようぜ」
「馬鹿にするなよ人間風情が! お前ごときに俺様は殺せんよ」
ラギンはレイピアを手に戻すと、キリに剣先を向け、風の速さで突きを繰り出す。
しかし、レイピアはキリに当たると、同時に剣の真ん中で折れてしまった。
「何故だ! 何故レイピアまでもが破壊される! 魔術によるコーティングは十分に施してあるのに」
キリはラギンの肩に力一杯に剣を突き刺す。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
鮮血が吹き出し、ラギンのスーツは真っ赤に染まる。キリは再び剣を構える。今度はとどめを指すために。
「ふ、まさか人間風情がここまでとはな」
ラギンは真っ直ぐにキリを見つめ、微笑む。
「俺は人間じゃないよ」
キリはラギンに真実をつげる。
話終わると、ラギンは再び微笑みながら小さく呟く。
そうですか……と。
キリはラギンの心臓を貫き、銀の魔族は息絶えた。その顔にはほんのり笑顔が灯っていた。
同じ魔族に殺されたとは思えない顔で。




