グラントール市解放戦②
数時間かけ、森を歩き続け、遂に義勇軍は眼前にグラントール市を捉える事ができた。
「あれがグラントール市」
かつて人間界随一の商業都市は、建物は全て荒廃し、人が暮らしている感じは無くなっていた。
キリ達、義勇軍がグラントール市に足を踏み入れる。
すると不思議な事に、市内は魔物が一匹も見当たらない。あるのは廃墟となった建物ぐらい。
「どういう事だよ……」
従軍している義勇軍の彼らからは、疑問や困惑といった声があがる。
「本当にここが、前回の全滅した場所なのか?」
キリは隣を歩く総指揮官のルシフェルに問いかける。
「私にもわからん。報告にはこの市内で全滅したと伝えられているんだが」
とりあえず、ルシフェルは人数を班分けし、市内の調査を敢行する。
キリはアスカと義勇軍の面子、三人と西側調査にあたる。
「ねぇ、ここって本当に前回、義勇軍が全滅した場所なの?」
アスカは義勇軍と共に、積み上げられた瓦礫の片付けをしていたはずだが、途中で飽きたのか、キリの隣に駆け寄る。
「まあ、不思議に思うけど……。報告書にはそうあったって、ルシフェルが言ってからな」
キリは壊れた民家を覗き、僅かでも生き延びた者が居ないか探し回る。
「なんか拍子抜けだね。このまま解放旗を上げちゃえばいいのに」
「おいおい、安全確認も出来てないのに、そんな事出来る訳ないだろう」
キリ達は義勇軍メンバーと共に、外壁が著しく荒廃した建物に入る。かろうじて中は無事だったのか、巨大な十字架が中央にある祭壇の上に飾られていた。
「教会だったみたいだな」
「うん。でも、中は無事みたいだね。ほら、こんなに綺麗だよ」
キリはそこでアスカの言葉に疑問を持った。
ーーなぜ中だけ無事なんだ……。
「それは俺様が毎日、管理してるからな」
キリやアスカ、それに義勇軍メンバーとは違う声が上がる。
それは、キリ達とは全く関係の無い、第三者からだった。
「皆、今すぐここから出るんだ!」
「え? どうしたのよ急に?」
アスカや義勇軍メンバーには、さっきの声が聞こえなかったのか、キリから言われた事に驚いている。
「いいから! 早く脱出するんだ!」
キリはアスカを引っ張り、出口に向かおうとする。義勇軍メンバーも慌てて、それに続く。
しかし、出口の扉が急に閉まると、備え付けられていた黄金の鐘が鳴り響き、キリ達を囲むように全身が骨で出来ている魔物が現れた。
「悲しいな、俺様が声をかけた途端に、逃げようとするとはな」
声がする方角へ振り返ると、祭壇に銀色のさらりとした髪にすらっとした体つき。
歳はキリよりも上に見え銀色スーツがよく似合う顔立ちをした男がいた。
そして、なによりその外見はキリ達を驚かせた。
「なんで民間人がここに……?」
アスカや義勇軍メンバーは、魔族と人間のハーフが存在する事を知らない為、突如として現れた彼は、逃げ遅れた民間人に見えたのだろう。
「アスカ、あれは民間人じゃない。魔物が姿を変えただけだよ」
キリはこの場を取り繕うようなウソを彼女達につく。
「おいおい、俺様をあんな下等種族と一緒にするなよな」
男は指を鳴らすと一斉にがいこつの魔物がこちらを見つめる。
目が存在しないのに、顔に空いている空洞からは、じとりと、見られているような感じだ。
「俺様の名はラギン。この地を治める者だよ」
そう言い終わると、光の速さでキリの背後にいた義勇軍メンバーをなぎ払った。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
義勇軍メンバーの一人は勢いよく吹き飛ばされ、壁に激突する。
「アスカ! 今から土魔法で壁を作って、傷ついた義勇軍メンバーを診てやってくれ」
「えっ!? でもキリは……」
「あいつと戦う。大丈夫だよ、絶対に俺は負けないから」
アスカは心配そうに見つめるが、不安な顔で小さく頷き、魔法の詠唱を唱える。
壁が出現し、アスカ達の姿が隠れた。
「ほう。勇ましいな。味方の為に己を犠牲にするか」
ラギンは不敵な笑みを浮かべる。手には先ほど攻撃に使ったと思われるレイピアが握られていた。
「ちげぇよ。俺は犠牲になんかならねぇ……テメェをぶっ飛ばして、俺は勝つからな」
「人間風情が、調子に乗るなよ」
二人は勢いよく地面を蹴り飛ばし、激突する。




