転ばす階段
小学生の時、T君という友人がいた。
彼の家に、初めて遊びに行った時のこと。
T君の部屋は、二階にあった。
「階段の四段目は踏まないでね」
彼はそう言うと、
トッ、トッ、トッ――トッ
慣れた様子で階段の四段目を飛ばし、上って行った。
トッ、トッ、トッ――トッ
一緒に来ていた――何度かここに来たことのあるもう一人の友人Jも、同じように上って行く。
トッ、トッ、トッ――トッ
それに倣って、私も上った。(そこの段だけ、木が弱くなっているのかな……?)。T君には聞かなかったが、そういうことなのだろうと勝手に解釈した。
――その帰り。
「……イッ! ……たぁ~……」
私は階段を踏み外してしまい、転んでしまったのだ。
「だから言ったじゃん」
T君は上から言った。Jは降りる時も、四段目を踏まずに降りた。
*
数日後。再びT君の家に行く機会があった。
その日は、友人四人が集まる予定だった。
「なぁなぁ、Tんちの階段さ、四段目踏んじゃいけないの、知ってる?」
T君の家に向かう途中、友人のKが言った。
「うん。知ってる。転んじゃうんだよね」
「今日さぁ。俺あえて四段目踏んでみるから、なんで転んじゃうのか後ろから見ててくれよ」
Kの提案に、私は頷いた。
着くと、T君が迎えてくれた。「Jはもう来てるよ」。そう言って、
トッ、トッ、トッ――トッ
階段を上った。
私とKは目を合わせて頷き合う。
Kが、階段を上った。
トッ、トッ、トッ
トッ。
(――!)
――ドタタタッ
Kは後ろに倒れるように、転び落ちてしまった。
――私は、見た。
階段の四段目にKが足をついた瞬間――。
階段の中から白い手が現れて、Kの足を引っ張ったのを。
「いってぇぇ……」
Kは階段の下で、頭を押さえている。
――見上げれば、T君が私を見ていた。
そして、言った。
「見た?」