承章7 ただハンカチを返したいだけなんだ!!
「おぉ~飛んだ飛んだ。・・・・さて、お前・・・はどうする?」
「・・・・・・はい?」
レオンはだるそうに首に手を当てながらこちらを向き近づいてきた。
「はい?じゃねぇよ。俺は二組って言っただろう。・・・・・まぁちょっと情報の間違いは有るみたいだがあいつらとお前のことだ。んでどうする?逃げるならそれでかまわねぇぞ。」
「おい、なんか面倒なことになりそうだぞダニエ・・・・・・・・」
友人に確認しようと首を曲げるとそこには誰もいない。ふと足元をみると一枚の紙が置いてあった。
『面倒になりそうなので帰るであります候』
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「候じゃないわ!何なんだよあいつは!」
拾い上げた紙を見た俺は少しの硬直の後に紙ビリビリに引き裂いた。
「・・・・・・お前何だか愉快なやつだな。まぁ一人でこのアイドル塔に来るだけでも結構面白いやつか。」
「いや、俺はさっきまで二人組みでってか俺はただ知り合いにハンカチを返しに来ただけで・・・」
「あのなぁ~そんな言い訳が通じると思ってるのか?このアイドル科に入るのは許可制だって知ってるだろ?」
「許可制・・・・・?」
「・・・・・本当に何も知らないのかよ・・・・・」
呆ける俺を見たレオンははぁ~と溜息をつきながら教えてくれた。このアイドル科に入る為に許可、つまりは事前にアイドル科の人間から招待状的な物をもらわないと入れないことを。
「アイドル科の人間は同時に事前に招待する人間を登録しておく。だからお前みたいな登録されていない人間はすぐにわかる。判ったか?」
「それは分かったが・・・・」
レオンの説明で仕組みは理解したが、彼女に招待状なんかもらえるか分かんないし、万が一にもらえたとしてここまでの道を登ってくる時間がそんなにあるかもわからない。そうなるとハンカチ一枚返すのにいつになるか分からないのでこれだけは何とか渡したい。
「何か方法は・・・ないか?ただ、ハンカチを返したいだけなんだが。」
「だから無理だっての。・・・・悪いが、力尽くで追い返させてもらうぜ。」
そう言うとレオンとの間合いを詰めた。それもすごい速さの踏込で。レオンが出した掌底をぎりぎりで回避し再び少しの距離を取った。
「少しぐらい話を聞いてくれてもいいじゃないか!」
たまたま足元に転がっていた腰の丈位の棒を拾い上げ構えた。
「へぇ~戦士関係の奴か!」
再度レオンは俺との間合いを詰め今度は殴りに・・・・いや、これは
「(足払い!)」
レオンのフェイントに気付いた俺はその場で跳ねて足払いをかわす。同時に持っている棒を振りかぶり割唐竹。
「!」
俺の動作に気付いたレオンはすぐさま後方へ飛び退く。
「流石は戦闘学科だな。」
「(あのタイミングでもかわすのかよ。こいつマジで強い・・・・自分から攻めていったらだめだ。まずは相手の動きを見ることに全神経を集中)」
相手の出方を見て攻撃、俗に言うカウンターなんて慣れていないが今の目の前の相手は下手な攻撃をして隙を見せれば一瞬で沈められる。
再び力強い踏み込みと共にレオンの攻撃のラッシュが始まった。殴りに来るかと思えば蹴りが、蹴りが来たと思えば間髪入れずに裏拳だったりレオンの動きは俺が今まで見てきた中でも一番トリッキーな動きでなんとか間一髪でかわすのがやっとだった。何度かカウンターを叩き込む隙は見つけたが防御だけで手一杯だ。
「ふぅ、なかなか良い目を持ってるな。しかもカウンター攻撃を仕掛けようとするタイミングも悪く無い。」
どうやら防御の中で少し攻撃に転じようと動いていたことがバレているようだ。だが思惑がバレからといって俺が出来る事が増えるわけじゃない。ここはこれで行くしかない。
「・・・・・ちょっとばっかし本気で行くか」
レオンの雰囲気が一気に変わった。そして次の瞬間俺はレオンを見失う事になる。油断など一瞬たりともしていないのに・・・・・・
「(まずい、あの構えは・・・さっきの肘打ち!)」
気付いた時には俺の懐に潜り込み先程遠目で見ていた時と同じ構えをしていた。なんとか自分とレオンの間に持っていた棒を入れたが、レオンの肘が一度当たったと思うとその刹那にとんでもない衝撃が俺を襲った。
「グフッ」
持っていた棒は真っ二つに折れ体は宙へと上げられ少しの後に地面へと墜落した。鉛の球でもぶつかったのでは思う様なずしりとした痛みを腹に覚えながら、俺の意識は遠のいた。
「お前、なかなか良かったぜ。ただ、今のままじゃ・・勝てない・・・・お前には・・・・・・・向いてる。」
意識を失いながらレオンが俺に何かを話しかけていた。
「ここは・・・・・?」
目を覚ました俺は目の前に天使を見て再び卒倒しそうになる。