承章6 ビックフォー現る
「やっぱりこれ、いくらなんでも遠すぎないか・・・・」
俺は再びアイドル科のクラス棟を目指している。理由は至って単純だ。
一つは今度アイドル科のクラス塔で行われるイベントの下見だ。前回来た時は休んだりしたので辿り着くのに正確な時間もよく分からない。その辺も確かめる為の下見。そしてどちらかというともう一つの理由が今回の主目的になるがルキナにハンカチを返す為だ。前回のクラス棟へ向かう途中、偶然にも彼女に会ったのはいいが主目的であったハンカチを返すというのをすっかり忘れてしまったのだ。・・・・ハンカチを見せておきながら・・・・
「(・・・彼女も言ってくれればいいのに・・・)」
借りたハンカチを見せびらかすだけで返さない俺を彼女の目にはどう映っていたのだろう。今までだって何回か会っているのに。
「今日こそはちゃんと返そう。・・・・にしても・・・・・」
アイドル科のクラス棟、どう考えても遠すぎないだろうか。
男の、しかも仮にも戦士科の俺がここまで疲労するような長い道筋を女の子達に歩けとはいささか残酷ではないだろうか。そりゃアイドルは体力も必要だとは思うが、ルキナなんてこんな道を毎日歩いていたらそれこそ倒れてしまわないか心配だ。
そんなことを考えているとようやくこの前の公園に到着した。ここまで来るとアイドル科のクラス棟もう少しだ。
・・・・・少し気になるのだが、なぜこんなにもこの辺りは人がいないのだろう?前回は夜だったからかも知れないが、今は昼間なのに人っ子一人いない。もしかしてこんな道を歩いてこなくても別の道があるのだろうか?
「まぁ、こんな日もあるんだろう。俺はガヤガヤしているより静かな方が好きだし。」
「確かに、すげぇ静かなところだな。」
「だろ。なんかこんな風景も落ち着くよな・・・・・・・・・・・・・うぉい!」
「なんだよ、いきなり大声出して?」
神出鬼没の友人ダニエルは何を驚いているんだよと唇を尖らせた。
「なんでこのタイミングでいきなり現れるのか明確な説明を求む!」
「フッ・・・・・風が俺を導いたのさ。」
・・・・・・・こいつマジで何言ってんだ・・・・・・・・
「ユウヤさん、マジで行くんすか?」
「あぁ?当たり前だろ。アイドル科なんていったらかわいい子盛り沢山だろ。端から彼女にしてやんよ。」
「そりゃそうですけど、なんかアイドル科のクラス棟に入るだけで命がけとか噂よく聞きますよ。」
「そんなもん噂に決まってるだろ。」
「さすがユウヤさん、パネっす!」
あいつは・・・・
突然の友人の出現でワイワイと話しながら辿り着いたアイドル科には先客がいた。前にルキナに絡んで俺をボコボコに殴っていったヤツとその取り巻き3人組だ。舎弟を引き連れてアイドル科に直接乗り込もうとしてるようだ。
ダニエルにあれが、俺をボコボコにしたやつだと説明すると「少しぐらいお灸でも据えてやれば」と無責任な発言が返ってきた。そんなやりとりをしていると、突然ユウヤ達の前に光の柱が出現した。
「まったく、何度体験してもこの急な呼び出しは慣れないぜ。」
光の柱はすぐに集約したかと思うとそこには一人の男が立っていた。
「な、なんだよ、テメーは!?」
「どっから現れたんだ!?」
「俺はビックフォーのグラップルマスターレオンだ。まぁそんな自己紹介はどうでもいいだろう。アイドル科に無断で侵入しようとする輩が2組いると連絡が入ってな。今ここで引き返すのなら見逃すぜ。ただ、この先に行こうとするなら悪いが力尽く帰ってもらう。さぁどうする?」
「はぁ~?何訳わかんねぇ事言ってるんだよ!バカじゃねーの。」
「ユ、ユウヤさんまずいすっよ。ビックフォーっていったら学園最強の4人組ですよ。その力は戦闘学科の生徒全員が束になっても敵わないだとか言われてるんですよ。」
「そんなもんはったりに決まってるじゃねぇか。大体4人なんていねぇしよ。」
「一人で充分と判断されて俺に押し付けられたんだよ。こっちだって暇じゃねぇのに。」
「ハッ、こんな奴はこないだのヤツみたいに一発ぶっとばしてやればいいんだよ。」
レオンと名乗る男の独り言を無視してユウヤは突っ込んでいった。その殴りに行った手をかわすと同時にレオンのひじ打ちがユウヤの腹に当たった。
「フッ」
レオンは軽い呼気と共にひじを打ち込んだ。
「グエェェェーーーーーー・・・・…
「「ユ、ユウヤさーーん!!」」
ものすごい勢いで吹き飛んでいったユウヤを追いかけて取り巻きが逃げて行った。