承章5 落し物を探せ
「ちょっと、何あの人!」「あんなところで何してんの?」
通りかかる人達が口々に草むらをあさっている者に対して、気味がったり、不思議がっている。
人々が見ているおかしな人物とは俺の事だ。俺がなぜこんなことをしているかというと大切な物を必死に探しているのだ。
「ったく、ここにもないか。あとはどこだ。」
探し始めた時はまだ日が昇っていたのに今はもう沈みかけている。かれこれ二時間ぐらいか。
何をこんなに一生懸命探しているかというと、いつも身に着けているラピスラズリ(瑠璃)のブレスレットだ。事の始まりはいつもの様に友人と昼ごはんを食べている時に・・・・・・・・・・
「なぁ、いつも付けているそのブレスレットってなんなんだ?」
そんな些細な疑問から始まった。
俺はもぐもぐと口を動かしながらブレスレットを取って渡した。
「・・・・いつどうやって手に入れたのかはわからないんだが、ずっと昔から持っている物だ。」
口の中の物を飲み込み昔を思い出しながら教えてみた。
「あんまり見ない鉱石な気がするけど特別なもんなんじゃねぇのか?」
さぁねと両手を広げて見せると友人は俺にそのブレスレットをさっと返し別の話題に移った。この時俺は何を思ったか受け取ったブレスレットを再び腕につけるのではなく自分のズボンのポケットに入れてしまった。これが現状に繋がる原因となる。端的な説明をするならばこのポケットに入れたブレスレットをどこかで落としてしまったのだ。訓練が終わり帰ろうとした時、何気なく腕を触った時に気付いた俺は今日自分がお昼以降に歩いた場所を文字通りくまなく探しているわけだ。
・・・・・運が悪いことに今日は中央のまで戻ったりしたもんだから捜索範囲が広い。おまけに中央だから全学科の生徒の目に触れることになってしまっている。
「(あと思い浮かぶのは・・・・)」
「・・・・ラッセルさん、どうかしたんですか?」
突然後ろから声をかけられ思わずドキッとする。そして振り向いた瞬間心臓が飛び出すのでは思うくらい跳躍する。そこに立っていたのは想像もしなかった女の子の姿があった。
「何か探しているんですか?」
「あ、あぁ・・・ちょっと落とし物をな。・・・ルキナは今、帰りか?」
片言の様な言葉にルキナは微笑み、
「えぇ。・・・・もしかして探しものってこれですか?」
そう言って一つのブレスレットを見せてくれた。
「あっ!それ!」
「やっぱり、ラッセルさんのですか?この前身に付けていた様な気がしたので。」
「あぁ、これを探していたんだ。」
彼女が握っていたのはまさに俺が探している物そのものだった。
「助かった。」
俺はもう一度青く輝くブレスレットを見つめた。
「・・・・そんなに大事なブレスレットなんですか?」
単純な質問だとは思うが、彼女の瞳が何かを訴える様に真剣なものだった。
「正直誰に何でもらったのかは覚えていないんだ。偶然数年前に物置から見つけたんだけなんだけど。ただ、すごく大切な物だった気がする。」
「そう・・・ですか。」
その時の彼女の顔は嬉しい様な悲しい様な複雑な表情だった気がする。
「・・・アイドル科でまたイベントとかはあるのかな?」
なんだか気まずくて別の話題にそらす様にした。
「・・・えぇ。今度は私達のクラス棟で行うんです。もし、良かったら・・いらして下さい。」
ルキナは鞄から一枚の紙を出し俺にくれた。
「じゃあ、私はこれで。」