承章4 今日も来てくれるのかな・・・・
アイドル科の大きなイベントといえばライブになるけど、何も年がら年中大きなステージでライブを行っているわけではないんです。大きいステージでの発表なんかはほんとにごく数日の日程があるだけで、あとは小さいステージで通行人相手に自分を浸透させる様に発表を行ってます。・・・ただ、元々引っ込み思案な私にはこれはなかなかの試練になんです。
「~~~~~~~~~」
「へぇ~あの子歌声きれいじゃねぇ?」
「歌声もだけど顔も良くね。・・・・・おっ!握手会だっていってみねぇか」
普段のこういう小さいライブなんかでも握手会みたいのはやるんです。
「(今日は来てないのかな?・・・・・・)」
「・・・・・俺、ユウヤっていうんだけどさ、この後どっか行かない?」
「あ、えっと行かないです。」
「そんなこと言わないでさぁ。みんなに名前知ってもらう必要があるでしょ。一緒に遊びに行ってくれたら友達にいっぱい紹介してあげるよ。」
「あ、いえ・・・」
握手会をするとこういう人が多いですけど、ただ私は何と答えていればいいか分からないです。
こういう人達は大概何も話さないでいればどこかに行ってくれるのだけど、今日の人達はちょっとしつこい。どうしようと考えていると
「やめろよ。嫌がっているだろ。」
「あぁ、何だよ、お前」
「別に誰だっていいだろ。とにかくやめろ。彼女が嫌がっているだろ。」
「うるせぇよ!」
突然現れた彼は思いっきり殴り飛ばされてしまった。
「まったく変な奴がきやがって。でさぁ少し歩くと人気の少ないすごい景色がいいところが・・・」
「やめろって言っているだろ。」
「ったくしつけぇ野郎だな。」
ダメ、止めなきゃ。その思いが心を支配するのと裏腹に体は硬直してしまっている。声を絞り出すことも出来ない程に・・・・
「なんだ、なんだ。どうしたんだ!?」
そうこうしている内に周りに人が集まって来てしまった。
「チッ」
それに気付いた男は最後に彼を殴って去ってしまった。
ようやく硬直の解けた体で必死に彼のもとに駆け寄った。
「イテテ、まったくバカな奴だな。」
むくりと起き上がった彼の鼻と唇から血が出ている。
「ルキナさん、何事ですか!とりあえず彼を医務室に連れて行って。」
先生に言われ、彼に付き添いながら医務室に連れて行った。
「ごめんなさい。私のせいでこんな・・・」
「あらあら、一体どうしたの?」
この騒ぎのせいか誰かが言ったのか医務室の先生が入ってきた。
「実は・・・・・」
私が事情を説明すると先生は彼を見て
「・・・・・そう、それは大変だったわね。さて、じゃあかっこいいナイト君はもう少しだけ我慢してね。傷以外は問題無さそうだから今治療魔法の先生を呼んでくるわ。ルキナさんはもう少しだけ彼を見ていてあげてね。」
と立ち上がり他の先生を呼びに行った。出て行く間際に「少ししたら別の先生が来るからね。分かってるわね?」という言葉に彼は「はぁ」と首を傾げるのが面白かった。私達の事、先生勘違いしてますよ・・・・・・。
「あの、私のせいで・・・・あっ、しみますか?」
先生が来るまでに何か出来る事がないかと彼の血を拭き取ろうとすると彼が苦虫をつぶした様に顔を歪めるのでやめることにした。
「お待たせ。ってあら、お邪魔だったかしら?」
「あ、いえ・・・・私達そういうんじゃ・・・・・。」
私は慌てて曲げていた膝を伸ばし数歩彼から離れた。
「ごめんなさいね。魔法でちゃっちゃっと治しちゃうからそしたらまた続きをすればいいわ。」
「だから違いますってば!」
「・・・はい、傷の手当て完了。」そう医療の先生が言ったのは先生が来てから僅かの事。
何度見ても魔法ってのはすごいと関心させられる。さっきまで血が出ていて箇所がきれいに治ちゃって。治療を終えた先生は何故か彼を訝しげに見ていた。
「君・・・その腕章は戦士科の生徒よね?それこそそんな相手返り討ちに出来たんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・」
彼が戦士科ということは正直びっくりでした。戦士の人ってなんか筋肉質の人ばかりなのかなって思っていたので。でもそんな事よりも先生の言う様にわざわざ殴られる必要なんか・・・・
「・・・・・・・俺は暴力をしたくて戦士科に通っているのではないので・・・・」
目の前で腕を組む先生に観念したのかばつの悪そうな口調でボソッとつぶやいた。
それは聞いた先生は両手で何度も彼の肩をたたき、君みたいな男久しぶりに見たと喜んだ。
叩かれた肩が痛いのか、先生の言葉に困っているのか彼が顔を歪めたのは間違いない。
「(戦闘学科の人ってこんな人もいるんだ・・・・・・)」
「・・・・・悪いな。いつもいつも。」
手当てが終わり帰り際に彼がボソッとつぶやいた。
「ほんとにごめんなさい。私のせいでこんなことになってごめんなさい。」
目から涙がこぼれてしまいそうだけど、ここで泣いたりしようものなら彼をまた困らせてしまう様な気がして必死に堪えた。
「別に君のせいじゃ、・・・ただ、たまたま通りかかったら変な奴がいたから注意しただけだ。」
「・・・・・・・・」
「・・・・ほんとにたまたまだから気にしないでくれ。」
「・・・・フフフ」
思わず笑いが抑えられなくなってしまった私を見て彼は首をかしげる。
「ごめんなさい。私イベントの度にラッセルさんと似た後ろ姿を見るんです。それもきっとたまたまですね。」
そう言うと彼は目を大きく見開き
「じゃ、じゃあ俺は帰る。」
と即座に踵を返すのだった。後ろからだから顔は分からないけど彼の耳が朱に染まっているのは気のせいじゃないはず・・・・。
「はい♪また来て下さいね。」
振り返らずに彼は片手をあげた。その時チラッとブレスレットが目に入った。
「(今のって・・・・・そんなはずないか・・・・)」
バタンと閉まった扉を見ながら高鳴る胸を押さえた。
「(・・・・・・次も来てくれるのかな・・・・・)」