転7 スマラグドゥスドラゴン
改めて目の前に立つとスマラグドゥスドラゴンの存在感には圧倒される。ただそこに存在するだけ踏み潰されそうなプレッシャーを感じる。動いていないのに一筋の汗が額から流れ落ちていた。
グゥワーーーーーーーーン
一鳴きの咆哮は手広な洞窟内でも木霊し幾重にもなって俺の体を揺さぶった。
「(・・・・こんな奴とまともに勝負なんかしてられない。隙を見て逃げるしかない。)」
こちらから動かない事に痺れを切らしたのかドラゴンが大きな口を開き俺を噛み付こうとしたが俺はその瞬間ドラゴンの横を走り抜こうとした。
なんとかなった・・・・そんな一瞬の油断を分断するかのように腹の辺りに何かがドスンとぶつかり反対の壁まで吹き飛ばされることになった。意識と焦点が合わずそれが何だったか認識するには少し時間がかかった。ドラゴンの横から元の位置より後ろに吹き飛ばしたのはドラゴンの尻尾だ。始めから狙っていたのか、それとも俺の行動を見て振ったのかは分からないが、今のタイミングでこんな行動を起こす相手にどうすればいいのか、俺の頭はオーバーヒートしそうになった。
「(これは本気でやばいな。)」
スマラグドゥスドラゴンは今度こそ俺を噛み砕こうと飛行し、そのまま突撃してきた。
もう・・・ダメだ・・・・
そう思った瞬間何かが横から覆いかぶさってきた。
「ラッセルさん、大丈夫ですか!?」
まさかと思った。この声の主がこんなとこに居るはずないと、
「ル、ルキナ!?・・・・なんでここに?」
狭まっていた視野が一気に広がると同時に今の自分達がどんな体勢になっているのかに気付き顔が熱くなった。
「あっ!ごめんなさい。」
俺と同じ様に顔を赤らめたルキナはすぐに立ち上がり俺に手を差し出した。
「おいおい、のろけている場合じゃないぞ、お二人さん。」
ルキナの後ろからこれまた聞き覚えのある声が響きドキリとした。
「ダニエル!!お前までなんで!?」
「説明は後だ。とにかくこっちに来い。転移で逃げるぞ。」
ドスーーン!!!!!
何か質量のある物がどこかに突っ込んだようなすごい音が辺りに響き辺り視線が瞬間的にそちらに向いた。
「レオン、アンタまで!」
「話は後だ。多分まだ起き上がってくるぞ。急げ。」
どうやら音源はレオンがドラゴンを吹き飛ばしたらしいが、レオンの読み通りドラゴンは直ぐ様頭をムズと上げた。接近するのは危険と判断したドラゴンは近くにあった人の大きさ程度の岩を器用に尻尾でつかみこちらに放り投げた。
「!ルキナ!」
事もあろうにドラゴンは俺とルキナが潰れるよう岩を投げたのだ。
「ラッセル!」
ダニエルの焦りが混じった声が辺りに木霊する。
俺の中では焦る気持ちと一つ映像が浮かんでいた。
『えぇ~折角技教えてくれるってから期待したのに肘打ちかよ。』
『あぁ?肘打ちバカにすんなよ。鍛えれやこんぐれぃの岩だってな・・・・・』
レオンが前に立ったのは自分の身の丈の三倍以上はあろうかという大岩だった。
『(おいおい、そんな大岩を・・・・)』
『よく見てろよ・・・・』
・・・・・・ルキナを守るんだ・・・・・・・
『クビトゥム・イーレッ!』
次の瞬間・・・・・・・眼前に迫っていた大岩は粉々に粉砕した。
「でき・・・・た・・・・・」
「今のはレオンの・・・?・・・ラッセル、お前ってやつは・・・・・・」
「ボヤボヤするな。行くぞ。」
呆けているところをレオンに一括されルキナの手を引いてダニエルのいる場所に走った。
俺の攻撃を見たからかドラゴンは襲ってくることはなかった。
「ここに入れ!」
四人の体は一瞬で霞がかかりその姿を消した。