転章3 試練の洞窟
「・・・・・フゥ・・・・」
「何だ?何だ?ため息なんかついて。そんな辛気臭い顔してると飯がまずくなるだろ。」
「あぁ、・・・・悪いな。」
真向かいに座るラッセルは食も進まない感じでため息ばかり付いている。いつも仏頂面で不幸が寄って来そうな雰囲気を持っている友人だが、今日はいつにもまして負のオーラがひどい。理由をそれとなく聞いてみようと試みたものはぐらかされてしまった。
「なぁ、知ってるか?試練の洞窟で珍しい鉱石が取れるらしいぜ。その鉱石持ってると願いが叶うだとか言って女子の間でも今人気らしいぜ。」
「知ってる知ってる。俺彼女にプレゼントでもするかな。」
通りがかりの二人組の話が聞こえてきた。
「みんな、好きだよな。あの手の話。どうせただの噂だろ。」
「・・・・なぁ、ダニエル?・・・今のどういう話だ?」
友人の思わぬ反応にまた思わず吹き出しそうになる。
「珍しいな、お前がこの手の話に食いつくなんて。」
「・・・・・・・」
「・・・・まぁ、いいけどな。試練の洞窟は知ってるだろ。戦闘学科の端にある洞窟で下級、上級問わず試験なんかでよく使われる洞窟だ。なんか最近気候の影響だかモンスター生態が変わったのかあるモンスターの巣の辺りに特殊な鉱石が出来るんだとさ。採るのは簡単な話なんだが、巣の近くだから当然そのモンスターに鉢合わせする可能性が大ってことで難易度的には結構高いらしい。んで最近では・・・・。」
「分かった、ちょっと行ってくる。」
「あっちょ、ちょい待てって。」
仏頂面をした友人はそそくさと立ち上がり行ってしまった。
「せっかちだな。今の噂が広がったせいで洞窟に潜り込む人間が増えてるんで戦士学科の人間が番人になってるって話なんだけどな。・・・」
しまった!・・・・・。
ダニエルの話を元に試練の洞窟にやってきた俺はとある事実を気付いた。なんの事はない。採る鉱石やどのモンスターの巣に鉱石が出来るのかさっぱり聞き忘れた。
「(まぁ結構噂になってんだし中に入れば見つかるだろう。)」
「おや、そんなとこに突っ立っているのは無駄な努力の天才ラッセル君じゃないですか?」
眼前から聞き覚えのある声がするかと思い顔をあげると訓練でよく見る俺を見下した顔を確認した。
「カシウス!」
「相変わらず威勢はいいな。でお前みたいなやつがこんなとこで何やってるんだ?」
「お前には関係ないだろ。」
目もくれず、というより目も合わせず洞窟に入ろうとすると
ガンッ・・・・
目の前に模擬剣が叩きつけられた。無言のまま模擬剣の刃面からその柄の方に視線をずらし模擬剣の持ち主を睨みつける。
「ここは通行止めだぜ。」
沸点を一気に通り越し何かが俺の中で爆発した気がした。
・・・・・・相も変わらず結果は無残なものだ。
感情のままに殴りかかった俺をカシウスはどうやったのか一撃の元に気絶させた。どこかの部屋に運ばれたらしく辺りはカーテンで遮られている。がそのカーテンがヒラリ。
「よぉ、目が覚めたか?」
「!!・・・・お前は・・・・なぜ普通に声をかけない・・・・・」
ヒラリと光が差し込んだ隙間から人が出てくると思ったら後ろから声をかけられた。こんな神出鬼没な行動をやってのける友人に若干頭を抱えた。
「ダニエル、そこのカーテンをめくって普通に入ってこいよ。」
「今更だろ。気にするなよ。・・・やっぱりちゃんと説明しとくべきだったな。」
ダニエルは今回の件について詳しく教えてくれた。俺が聞きもせず探していたのはスマラグドゥスドラゴンの巣。スマラグドゥスドラゴンは緑の光沢がある鱗に外観を覆われその姿はまるで一つの宝石の様。ただ、その戦闘力は計り知れないものがある。鱗に覆われてている事から防御力が高いのは想像に固くはないが、驚愕させられるのはその知能の高さ。自信の爪や尻尾、ブレスの攻撃をしてくるのは当たり前だが、岩場で上手く逃げまわる事が出来ない場所に相手を誘き寄せたり、崖から岩を落としてみたりその戦い方は多様に渡るらしい。
「あんまり好戦的なドラゴンではないらしいから道で見つけただけなら問題無いのだが、相手が自分の巣に立ち入っている様な輩なら話は別。その性格は急変するらしい。んで噂の鉱石だが、どうやらスマラグドゥスドラゴンの卵の殻が試験の洞窟の特殊な岩に付着することで変化を起こし今回の鉱石になるってわけだ。」
「なるほどな・・・・・卵の殻!」
「そう。この鉱石は孵化して数日の卵で起こるらしい。必然巣には雛がいることになり、雛が気付こうものなら速攻で親を呼びその親はすっ飛んでくる、それが尚更今回の難易度を上げているわけだ。」
普段から巣に立ち入る者を許さないドラゴンが雛までいたら侵入者を見た瞬間激昂することだろう。
「こんな状況だけど例の鉱石の話が広がったせいであの中に潜り込む生徒が増えたんで学園側は戦士学科の成績上位者に番人に立つように命令したわけだ。仮に戦士学科の人間をのし倒せるぐらいの実力があれば中に入ってもある程度はなんとかなるだろうっていう試験的な意味も込めてな。」
「だからあんなとこにカシウスの野郎がいたのか。」
あの憎たらしい見下した顔が浮かんできてかぶりを振った。
「じゃあまずは戦士学科の人間をのし倒せる様にならないといけないんだな。」
「そうだが、・・・・・・お前少し変わったな。」
「はっ?どこがだよ?」
友人の意味不明な発言に素っ頓狂な声が漏れてしまう。
「前はこういう場面ではどこか塞ぎこんで落ち込んでいたような気がする。少なくも負けた直後に今の発言は出なかった様な気がしてな。」
「・・・・・別に対した変化なんかねぇよ。」
「まぁどんな変化かは知らんけど頑張れよ。」