転章1 彼女の悩み
「・・・ルキナ?・・・」
「ごめんなさい。少しボーっとしてしまって。・・・・ほんとに何もないんです。あっ少し座って行きませんか?」
俺はルキナに初めて会った時のフラッシュバックを覚えながら二人でベンチに腰掛けた。
「大丈夫か?イベントの後だし結構疲れているんじゃないか?」
「いえ、ほんとに大丈夫です。・・・・この公園懐かしいです。昔住んでいたいたとこにも似たような雰囲気の場所があってさっき話した子ともそこで会ったんですよ。」
暑くもなく寒くもなく心地の良い風が彼女の髪をなびかせる。
「・・・・・ホントは少し迷っているんです。今の道を頑張っていこうか。」
何を話したらいいか迷っていた俺は彼女を見た。
「歌うことはほんとに好きなんです。ただ、やっぱりアイドルってクラスが何か違う気がするんです。だから今のクラスから変えてもいいんじゃないかなって思っていて。」
「でも勿体無いじゃないのか?あれだけ歌うことも出来て周りからも人気だってあるのに。」
先程の同じクラス内での評価はともかくとして客観的に見て彼女の人気が高いのは確かだ。ルックスがいいのもさることながら、何よりも声がいい。通りかかった人がつい足を止めて聴き入ってしまう事が度々目撃する。
「人気とかはどうでもいいんです。私はただ歌うことが好きなんです。」
自分がやりたいことはただ歌を歌うこと、人気があるとかそんな事はどうでも良い、そう自分の思いを吐露する彼女の顔は少し苦しそうだった。
「それに・・・・」
「それに?」
「・・・・・私が聞いて欲しいのはあの頃から・・・・・いえ、何もありません。・・・・・・・すいません。愚痴を聞いてもらって。来月少し重要な試験があるんです。自信が無くて少し弱気になっちゃったんですね。・・・・・今日は帰りましょうか。」
彼女が作り笑顔を作っている事は他人の感情に鈍い俺でもすぐに分かる。それでも彼女の苦労を何も判ることが出来ない俺には彼女を励ます言葉が見つからなかった・・・・・。