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承章9 再びイベントにて

「(今日も頑張ってるんだなぁ・・・・)」

最近では恒例となってきたルキナのイベント参加。いつもとちょっと違うのは今日の会場がアイドル科の中でということだ。

「(さて、気付かれる前に帰るかな。)」

毎回毎回見に来ていると知られるとひかれそうなのでルキナが気付かない様な位置から見るのが俺の日課なわけだが、この前の一件で実はルキナに気付かれているのが判ってしまったので今日はいつも以上に安全マージンを取って見ていた。加えて言うなら他に見に来ている人間の熱気が凄すぎて近づきづらいのだ。

「(・・・・何か飲み物が欲しくなってきたな。)」

なかなかの熱気に額には汗が滲み出てきて喉もカラカラになった。もう終わりも近いだろうが少しぐらい出歩いてもいいだろう。

「(ルキナにお疲れ様って言いたいけど、毎回毎回見に来てるのも迷惑だよな。・・・既に何回も目撃されているようだから今更なんだけど・・・・)」

「・・・・・・・ラッセルさん?」

「(今回は彼女から絶対見えなかったし、いっそこのまま気付かれない様に出るのもありじゃないか。)」

「もしも~し」

目の前にひらひらと揺れる物に気付き、無意識にその先を追っていた。

「ラッセルさん?」

「・・・・・ぬぉ!」

俺のちょっとした計画は僅かで頓挫することになった。視線を向けた先に立っていたのは頭の中で思い浮かべていた人物そのものだった。

「ごめんなさい。びっくりさせてしまって。」

「いや、こちらこそ。・・・えっと、久しぶり・・・」

「はい。また来て下さったんですね。・・・でもなんでこんなところに?出口はこっち側ではないですよ?」

「ちょっと、喉が乾いて・・・・。」

動揺のせいでいつも以上に言葉が喉から出てこない。

「おい、君そっちは出口じゃないぞ!」

どうやら相当運が悪いようだ。彼女に加え、警備員にまで見つかってしまったようだ。はぁ~と溜息が漏れ観念すると遊んでいた左手を突然引っ張られた。

「こっちです。行きましょう。」

ルキナに手を引かれどこかの部屋に入った。

「ん~~~少しここに隠れていて下さい。」

そう言われると同時に物置の様な部屋の一角に押し込められた。

それから本の数分しない内に部屋一体に扉をノックする音が響き渡る。

「・・・・はい」

「失礼します。」

俺の前はカーテンで眼前を遮られているので姿は確認出来ないが、声から察するにさっきの警備員だろう。

「どうかされましたか?」

「先程、建物の内に不審者がおりましたので見回っているのですが、だれか不審な人物を見ませんでしたか?」

ただ他の出口から出ただけ不審者扱いとは何とも抗議なり殴り飛ばしたい衝動にかられるが、そこはこの状況を考えると自己制御を行うのが妥当だろう。

「いえ、誰も見ませんでした。」

「そうですか。・・・では不審者がおりましたらすぐに連絡下さい。」

部屋の扉がパタンと閉まり、足音が一つこちらに近づいてきて目の前のカーテンをサァーと開ける。

薄暗く 薄いピンク一色 だった風景はすぐさま光が一面に広がり一人の女の子の笑顔に変わる。

「なんとかなりましたね♪」


その後何事もなくイベント会場を抜け出すことが出来た俺はルキナと二人で並んで帰ることにした。

帰り道にたまたまいつもの公園を通ることになったのは偶然だろうか・・・・そしてルキナが公園に寄ろうと言いだしたのは偶然だろうか・・・・・・

「ふぅ-ただイベントに行っただけなのになかなか疲れたな。」

「あれ?今日はちゃんと来てくれたんですか?前みたいに偶然通りかかったんじゃなくて?」

ブランコに腰を下ろし疲労と安堵の息を吐く俺にルキナは悪戯っぽい顔を浮かべて尋ねてきた。

「・・・・たまたまだ。」

彼女と顔を合わせられずそっぽを向いた俺には彼女の心地良い笑い声だけが耳に届いた。

「そういえばなんでルキナは警備員に見られていないんだ?」

今までバタバタしていて気にしなかったが、警備員に見つかったあの時ルキナは俺の横にいてあまつさえ手まで引いている。

「丁度角だったので私の姿はきっと見れなかったんでしょうね。だから私が手を引いたのに警備員さんにはラッセルさんが逃げた様に見えちゃったんですかね。警備員さんが入ってきた時には私もドキドキでした。」

満足そうに話す彼女に俺は話題を変えて一つ疑問を問いかけた。

「なぁ、なんで俺と話すみたいにみんなと話さないんだ?」

会場をうまく抜け出す為にルキナの協力が必要になったのはそんなに想像に難いない話で、ルキナが帰る準備をしてくると部屋を出て行った時間があったのだが、その時に偶然周りからの彼女の評価を聞いてしまったのだ。容姿も良く歌も上手いが人とうまく話せないから駄目だろうと評価を。しかし俺と話している彼女を見るととても人の話すのが下手とは思えないのだ。

「・・・・ん~~~ラッセルさんって話しやすいんです。私もともと話す事って得意じゃないんですよ。」

「・・・・なぜ、アイドルを目指しているんだ?アイドルなんて話すことなんて沢山あるだろ?」

俺はなぜこんな直球にしか話が出来ないのだろう。もう少し優しく聞くことがなぜ出来ないのだろう。質問を投げかけた直後にいつもに増して後悔の念が胸に渦巻く。

「・・・・・昔から歌を歌うことは好きだったんです。だから小さい頃からいつも歌を口ずさんでいたようなんです。ある時一人の友達が出来ました。その子は事情があったようですぐまた別の場所に移ってしまったんですけどね。その子と遊んでいる最中にやっぱり歌を口ずさんで、そしたらその子が私の歌声がすごいきれいだねって喜んでくれて。その頃そんなに歌は知らなかったんですけどその子が喜んでくれるのが嬉しくて何回何回も頑張って歌ってました。」

そう話す彼女の瞳は遠くを見ている。その顔はどこか嬉しそうでどこか寂しそうな感じがする。

「その子が言ってくれたんです。私の歌は聞いてて気持ちいいって。だから大きくなったらその歌声でいっぱいの人を元気にしてって。」

突然首を回しこちらを見た彼女と目が合ったので慌てて回していた首をもとに戻し目をそらす。

「そ、そんな小さな時の事で自分の道を選ぶなんてすごいな。」

「バカですよね~。その子はそんなことこれっぽちも覚えていないでしょうに。」

いくら子供とはいえ言った子供はちょっと無責任ではないだろうか、いや彼女が真面目すぎるのか、いずれにしても何か言おうにも言葉がうまく出なくてしばし静寂が辺りに満たされる。

「・・・・・・・ラッセルさんはなぜ戦闘学科に入学したんですか?」

そんな静寂を打ち破ったのは彼女だった。

「あぇ、・・・・いや、俺は・・・」

正直楽しい話ではないのであまりこの手の話はしたくないのだが、不器用な俺が都合のいい言い訳を言えるわけでもなく、

「・・・・・俺はおやじを探しに行きたいんだ。」

「えっ?」

「・・俺の親父は冒険者だったんだ。一応そこそこ名の知れた。親父はいつも色んな面白い物を持ち帰ってきたよ。異世界の人が持ってた話す事が出来たと言われる剣だとか時を止めることが出来たコウモリ男の血だとかいわく付きみたいな物を沢山。そんな親父もある冒険に行ったきり戻って来なかった。」

「そんな・・・・」

昔話で嬉々とした顔を浮かべていた彼女の顔はみるみる沈んでいってしまう。

「別におふくろだってこういう事態は覚悟していたみたいだし、それに・・・俺にはあのおやじがそう簡単に死ぬとは思えなくてな。」

「・・・ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまって・・・」

「いやいや、そんなに気にする話じゃないんだ。・・・それに大切な人を守るにはやっぱり力は必要だと思う。」

「・・・フフ・・・・フフフ。」

深刻な顔をしていた彼女が突然笑い出したので思わずキザなことを言ってしまったと顔がカァーとあつくなる気がした。

「言っていることおかしいか?」

「いえ、そんなこと。・・・変わらないなって思って。」

「変わらない?」

「ううん、何もないんです。・・・ただ何となく嬉しくて。」

そういうと彼女はまた遠くを見つめていた。

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