起章
【起章】
俺の名前はラッセル・グランスター。故郷を離れ、聖アルビオン学園に通っている。
聖アルビオン学園・・・、そこは様々なクラス(職業)を目指す者たちが集う巨大な学園である。夢の為に聖アルビオン学園の戦士科で日々鍛錬に励んでいる。
「それでは模擬戦・・・開始っ!」
その掛け声がかかると同時に俺はダッシュでヤツとの距離を縮めた。
「ハッ!」
模擬剣を振り下ろすが、軽くかわされてしまった。
ヤツは一瞬のうちに後ろに回り込み、俺の後頭部に模擬剣で一撃を入れる。
俺は衝撃に耐えきれず地面に叩きつけられてしまった。
「いやぁ、お前やっぱり戦士になるのなんてやめた方がいいんじゃない?」
地面に叩きつけられている俺に対戦相手は声をかける。
顔を上げると蔑むような顔で俺を見下ろしていた。こいつの名前はカシウス、戦士科の中でも1、2を争う実力者である。
「やっぱり、才能ってものがあるだろ。才能が無いやつがいくら頑張ってもしょうがないし、お前がいるとクラスの評価が下がるんだよな。」
「(くそったれ・・・)」
俺は訓練をさぼるようなことは無かったが、その成果が実ることはなく最下位という劣等生のレッテルを張られてしまっている。
そしてこのレッテルがあるせいでカシウスにやたらと絡まれている。
「ははは、まぁ頑張ってくださいよ。努力の天才君。いや無駄な努力の天才君。」
高笑いを上げながら去っていくカシウスを見ると心がえぐられるような気分だ。
俺はその場から逃げる様に立ち去った。
自分を見下してくるカシウスと、そのカシウスに言い返せない自分自身に憤りを覚えながら・・・
こんな時、俺は決まってある場所に行く。
「・・・・」
無言のままベンチに腰を下ろし背もたれに体を預ける。
いつだったか偶然見つけたこの公園は人通りが少なく俺のお気に入りの場所になっている。
小さい頃も近所の公園を秘密基地にしていたことがあり、その公園に似ている気がする。
だが、そんな安らぎの中でもさっきまでの模擬戦を思い出し、身体を丸めて考え込んでしまう。
「(・・・・なぜ、俺は勝てない・・・・)」
自分には剣の才能は無いが、それを補えるように努力はしているつもりだ。
そのはずなのになぜか誰にも勝てない。
「(・・・なんでこんな理不尽なんだ・・・)」
もはや溜息しか出てこない。
「・・・あの、・・大丈夫ですか?」
不意に声をかけられ、丸まっていた背中に電撃が走る。顔を上げるとそこには一人の女の子が立っていた。
「・・・あの、これ使ってください。・・・どこかで転んだんですか?・・・」
「え?」
気が付かなかったが地面に叩きつけられた時に傷を負っていたようだ。そしてあちこちが汚れているから女の子にはどこかで転んだ様に見えるのだろう。
女の子は途切れ途切れながら言葉を続けハンカチを差し出してくれた。
「あ、あの・・・」
差し出したハンカチを受け取らない俺に、前に立つ少女は戸惑う様にしながらさらにハンカチを前に出す。よく見れば手が若干震えている・・・のか・・・?
「あ、あぁ、・・すまない・・・」
ハンカチを受け取ると、女の子はもう耐えきれないと言わんばかりに何も言わずに全速力で逃げて行ってしまった。
「誰なんだ・・・」
渡されたハンカチを見つめて、そう呟いた。