プロローグ
昔々ここでは無いどこかで在った物語、とはよく言ったものの、物語なんてものは須らく昔々でここでは無いどこかで在ったからこそ物語と呼ぶのではないかと俺は思う。
今から始める物語も多分に漏れずそんな括りの中のそれであって、どっかの誰かさんはただひたすらに傍観者を決め込んでくれるだけでいい、たったそれだけの下らない有象無象の欠片に過ぎない一寸劇であることに違いはない。誰が役者で誰が観客かなんてのは一概には言い表せず、各人それぞれ見解の齟齬があって然るべきなのだが、そこはそれ、それはそこ。物語はどこまでも物語の枠を超えることはないというたったひとつの事実は、どれほどの範例を並べても覆せない。
だけど、俺はたった今、物語を物語るこの寸前、僅かに与えられたこの時間で、たった一度だけの例外を行おうと思う。言うなればそう、禁忌を、破る。誰かさんにとっては別に大した問題じゃないだろうし、それは実は俺にとっても大した問題じゃなかったりするのだが……でも、それでもだ、破る禁忌に変わりがあるわけでもない。ルール、規範、それらは全て守られることを前提として働きかけるものだ。その前提なくして言葉に意味は宿らない。
法を破る者を裁くために法はある。だから俺はきっと何処かで裁かれるだろう。その裁きとやらがいつどこでどんな風に行われるかは俺の知り得るところじゃないし、少なくともそれが俺にとって喜ばしくない内容であることに間違いは無いとは思うのだが、実際のところはどうだろうね。きっと誰も知らないんだろう。別段、今を急ぐ必要なんてない。それは遠くない未来、俺だけが知ればいいことだ。
では、前置きはそこそこにここらで本題といこう。
これから俺が破る禁忌、これから俺が望むこと。
一度だけでいいし、答えは胸に秘めておくだけで構わない。
ただ、思考をして欲しい。
俺たちの為に、少しでもいいから思考をして欲しい。
と、いうわけで。
俺は今から、傍観者であるあんたと、本来触れられない存在である筈のあんたと、直接的な接触をするぜ。
どうか。
考えてみてほしい。
エマージェンシー、応答せよ。
もしくは拝啓あなた様。
どっちのニュアンスでも構わない。
あんたに聞きたいことがある。それはとっても簡単な質問。
完璧な答えなんてどうせ在りはしないから、どうか気楽に答えてほしい。
心の準備はできた? じゃあ聞くよ。
世界が滅びるまであと七日、あんたなら残った時間で何をする?