城下町
「で? 王様に喧嘩を売った挙句、住む場所も無くて追い出された勇者一行はこれからどうするんだ?」
荷物をまとめる俺達にカインが嫌みを述べた。
「行くアテなんてないわ。アルスの体調が戻るまで街の安宿で休むだけよ」
「元に戻る保障なんてあるのかよ。アルスがこのままなら、俺達はもう勇者一行じゃねぇ。只の貧弱なパーティーだっ」
ユウナがそう言うとカインは吐き捨てるように告げた。
無言で身支度を済ませた俺達は宮殿を後にする。外に出ると先に宮殿を出て行ったシヴァが待っていた。
「一応当面の寝床として、宿を取っておいた。とはいっても、私達もあまりお金がない。大部屋一つだけを借りたぞ」
大きな槍を担いだ黒髪のシヴァはそう言うとにっこり笑う。
「懐かしいな。なんだか昔に戻ったみたいだ。アルスが勇者になる前の頃にな」
「はっ。悪いが勇者になる前のアルスなんて知ったこっちゃないんだよ」
カインのセリフからして、彼は俺が勇者になった後から仲間になったようだ。
「ふっ。それと……こんなものを街で配っていたぞ」
シヴァが手にした紙をこちらに見えるように広げる。そこには、「求む。我こそは勇者だという者はその血族に関係なく、宮殿に集まり給え」と書かれていた。
「王様。ついに見境なく仲間を募集し始めた様ね」
「血族に関係ないということは、光の魔法が使えなくても構わないということですね」
ユウナとレイナがそう言う。しかしカインは何も言わずにその紙をじっと見ていた。
「レイナ。アルスがもう1度勇者に馴れる可能性は?」
宿につき、荷物を下ろした俺達だったが、思いつめた表情でカインがレイナに尋ねた。
「うーん。どうでしょう。正直言ってこればかりは分からないわ。これからアルスには魔法の錬成をしてもらうつもりだったんですけど、どうせなら皆さんも見に来ます?」
「ああ。これから俺達は自分で判断していかなければならねぇ。俺達が信じていい者が誰なのかをな」
カインが腕組みをしながらそういうと、ユウナが食って掛かる。
「なにをエラそうに言ってるのよ。今までアルスに頼って来たくせに。あの宮殿暮らしだって、アルスが勇者だったからなのよ」
「はっ。そんなものアルス一人の功績じゃねぇだろ。このパーティーには光の魔法が使えるのが2人いたからじゃねぇか」
「やめないか。お前達」
シヴァがユウナとカインの喧嘩の仲裁に入る。
「確かにカインの言うことももっともだ。これから私達は自分で決めなければならない。私達の向かうべき道をな。その為にはアルスを見極めさせてもらわなければな」
「そんな……シヴァまでそんなこというの?」
「別にアルスを見限るとかそういう意味ではない。ただ、今のアルスの現状を知っておいても損はないだろ」
「とっとにかく。皆さんで勇者様の置かれた状況を確認してみましょう」
レイナがそう言うと、全員の視線が俺に集まる。俺は申し訳程度で頷いた。
俺に光の魔法が使えるわけがない。だって魔王なんだから。
まるで審判を下される前の罪人のような気分で宿を後にした。