密会
「ようこそいらしてくださいました。レイバーン様」
副将に諂う初老の男。身に付けている服装からしてかなり高位の人物である。確信はないが、リーマ王国の国王なのかもしれない。それにしても、敵であるはずのレイバーンに対して様付けとはどういうことなのだ。
「リーマ国王よ。何故そんなに浮かれているのだ。我々の作戦は失敗たのだぞ」
我々の作戦。嫌な予感が的中したようだ。やはりレイバーンとリーマ国王は裏で繋がっていた。彼らが手を結ぶ目的など簡単に察することができる。
つまり俺の抹殺だ。先日リーマ王国の軍隊に待ち伏せされたのはレイバーンの仕業だと判明する。
「承知しておりますぞ。しかしながらあの若い勇者との一戦で魔王は深手を負っているとか。それであれば、あなた様のお力であの魔王を抹殺することもたやすいのでは?」
「はっ。勝手なことを言ってくれる。良いか、あいつの側近が24時間体制で護衛しているのだぞ。いくら私でもアシュロスとシバルを同時に相手できるはずもない」
レイバーンのその言葉にリーマ国王は態度を一変させる。
「なんだと。では魔王は誰にも殺されないと申すのか。我々があの男の恨みを買った、それだけだと……」
彼らから離れた位置に陣取った俺の場所からでも国王の怒声はよく聞き取れた。そして顔が青ざめていくのも。
「貴方だけではない。私も少なからず不信を与えてしまったでしょう。つまり、われわれの作戦は潰えたのです」
「ふざけるな。この話を持ちかけてきたのはそちらではないか。いいか。何としても魔王を殺せ。貴様の事情など知ったことか」
怒りをぶちまける国王に対し、レイバーンは終始冷静なまま彼に進言する。
「残念ながら私一人の力では無理です。ですが、ここでリーマ国の力があればそれも可能かもしれません」
「どういうことだ?」
「つまり、今魔王様は眠りに入られている。私や七天魔将だけでは側近や他の軍勢を退けることはできないでしょう。しかしそこでリーマの、あの勇者共が攻めてこれば話は違います。当然側近たちはそちらの対処に走ることでしょう。我々がその隙をついて魔王の寝首をかいてみせましょう」
恐ろしい計画である。俺を殺すために勇者を差出し、俺の護衛がいなくなったところでレイバーンが殺しに来るということだ。
元々、知性と実力共に併せ持っていたからこそ、俺はこのレイバーンを副将に選んだ。だがそれが自分の首を絞めるような結果になろうとは。
これはまずい。今俺は勇者なのだ。今すぐ側近であるジルバにこのことを伝えたいのだが、それはできない。
「レイバーン。貴殿の考えは分かった。……だが、少しだけ考えさせてくれ」
「分かりました国王。しかしあまり時間はありません。こうしている間にも魔王様は傷を癒しております。ぜひとも聡明なご判断を。あなたがこのシンフォルニアの救世主にふさわしいと私は思っております」
レイバーンめ。よくもぬけぬけと。どうせ俺を殺した後には自分が魔王となってリーマ王国を襲う算段に決まっている。あの国王はそんなこともわからないのか。
無能の極みだな。俺は怒りを内に収めるとレイバーンを睨み付けた。このまま彼らを帰らせるわけにはいかない。かといって敵の領土のど真ん中で魔王の力を使うわけにもいかない。
俺は唇をぎゅっと噛みしめたまま、国王に深々と頭を下げ、部屋から退出していく副将を睨んでいた。
「なにをやっているんだ?」
ふいに背後から声を掛けられる。前方に注意していた俺は驚いて振り返ると同時に右腕で殴り掛かっていた。その右腕が受け止められる。
「なんのマネだ。アルスっ」
アルス。聞きなれない言葉だが、きっと俺の名前だろう。だがそんなことはどうでもよかった。俺の腕を掴んだまま目の前にいる銀色の騎士。兜で顔は見えないが、この男が敵なのか判断が付かない。
「まったく。ユウナに頼まれて様子を見に来てみれば、こんなところで迷子か」
ユウナ。最初に会った茶髪の少女の名を語るこの男は俺の仲間のようだ。殺気を感じた為、思わず殴り掛かったが、俺の気の所為だったのだろうか。
「それにしてもお前。いきなり殴りかかるなんてどうかしてるぜ」
「ああ。すまない。混乱していて……な」
苦し紛れの言い訳を述べると、その騎士は背中を見せ、「皆の所に戻るぞ」と言ってて歩きはじめた。その男の後に続く。