君って最高に面白いね
結局のところ、入部について決めるよりも早く入学式当日になってしまっていた。
で、今現在、入学式中だ。
入学式は当然だけれど体育館で行われていた。
校長先生の、長い入学歓迎の言葉をきいて、その他の人の言葉をきいて……と、していくうちに、一時間半経過した。
もうすぐ終わる頃だろうか。
「バンド部による演奏で、退場してください。」
スピーカーからそう言葉が発せられた。
それが流れてすぐさま、バンド部らしき三人の女性が前に現れた。
だけど、これのどこがバンドなんだろう。そう思ってしまった。
使われている楽器は、エレクトーンとピアノだったからだ。
バンドっていうと、ギターとかのイメージが強い。と、いうか『バンド』は、ピアノなどは使えないはずだ。
そんなことを思っていたら、曲がはじまる。 それと同時に、先生から教室に向かうように指示が出てしまう。
しぶしぶと、教室に向かっていく。曲が遠退いていく。うっすらと伴奏が聞こえる。
僕はその伴奏だけで、鳥肌が立っていた。
「卓球部について検討していただけましたか?」
卓球部室への行きかたを先生に尋ね、やっとのことでたどり着いた卓球部には、瀬永真広先輩がいた。
部室はそれなりに広く、真ん中に四角いテーブルがおいてある。そのテーブルの椅子に、瀬永先輩は座っていた。
「はい、決めました。」
「なるほど。ならば答えを聞かせてください。」
瀬永先輩がテーブルの上にあるティーカップの中の紅茶を掻き混ぜる。
「すいません、入りたい部活が出来てしまいました。」
罪悪感を感じつつ、僕が頭を下げて宣言する。
それをきいて、先輩が微妙にしたを向いた。
「そうですか……。ならば仕方ないですね。また、来たくなったら来て下さい。」
明らかに、声のトーンが下がっていた。
「はい、ありがとうございます。」
「ところで、どこの部活に入部希望で?」
瀬永先輩が紅茶をすする。
「バンド部です。」
瞬間、瀬永先輩が激しく咳込む。 むせたようだ。
「大丈夫ですか?」
駆け寄るが、瀬永先輩が手で平気とサインをする。 微妙に笑っていた。
「すいませんケホッ、バンド部っ、入部とかなっ、いですよ。ケホケホッ」
むせながら瀬永先輩がいう。
「はい?」
バンド部に入部ができない?本当なのか。
一分程度たち、瀬永先輩はようやく落ち着いたようだ。
「バンド部は中二だけですよ。そのうえメンバーはもう決まってます。」
驚きで言葉を失う。けれど、それなら選択に迷うことはない。
「すいません、今更ながら卓球部入れてもらえませんか?」
僕が頭を下げる。本日二回目だ。
それをきき、先輩が安堵の笑みをする。
「ええ、歓迎させていただきます。」
それから――――と先輩が話を続ける。
「入部するならば部員の紹介からです。」
そういって先輩が、椅子から立ち上がる。その瞬間、ドアが開いた。
「新入部員連れて来ました。」
「新入部員拉致って来たよーー!!」
同時にそんな声がした。と思ったら、入り口のドアから三人の女性が入ってくる。そして、瀬永先輩の前の二席に、二人の先輩らしい人が座る。『新入部員』と思われる女性は、その後ろに立っていた。
それよりも僕は、入ってきた二人の先輩に驚愕していた。なんなんだこの二人。
「紹介します。活発な『竹内雷火』と真面目な『竹内燈浬』です。見ての通り瓜二つな双子ですよ。」
本当に見事に瓜二つだった。顔の形も、セミロングの髪の毛も、体型も、全てまるっきり一緒だ。クローンかと思ってしまうくらいだ。
「お?そちらさんは新入部員ですか?」
「見ればわかるでしょ、こんなあからさまないじられキャラ、いなかったよ。それに――――」
いきなり(多分)雷火先輩がこちらを見る。
「私はあなたに、一昨年の小学生の部の大会で負けたよ。そうだったよね?」
僕が戸惑う。記憶のない僕には肯定なんて出来なかった。
そんな僕を見てか、瀬永先輩が口を挟む。
「それについては後で話すので、苗代君は卓球場にいる、副部長にあっておいてください。そこのドアから卓球場にいけるので。」
僕は助け舟をだしてくれたことに感謝しつつ、卓球場に入った。
卓球場はそれなりに広かった。六台の卓球台が、縦三列横二列で充分な間隔を保ちつつおいてある。
そして、一番奥の台の隣には人がいた。網にむかって、卓球ラケットで多数な卓球ボールを打ち付けていた。それによって乱れているセミロングの髪の毛が、振り回されている。
しかも何かブツブツ呟いているし。
ユニフォームを来ているというのに、暴れ回る胸をなんとか見ないようにしながら、話し掛けるために近寄る。
だんだんと声がはっきり聞こえて来――――。
「新入部員消えろ新入部員消えろ新入部員消えろ新入部員消えろ新入…………」
………聞き間違いだ、そうに決まってる。
そう自己暗示しつつ、尋ねる。
「副部長さんですよね?」
「男の新入部員消えろ男の新入部員消えろ男の新入部員消えろ男の…………」
よし、今すぐ退部して来よう。
僕が出口の方へ振り返る。
「あれ?君って新入部員?」
急に副部長に声をかけられ、一応振り返る。
「い、いえ。た、ただの見学者ですよ。」
「そっか新入部員かー。これからよろしく。」
「話聞いてました!?」
いや、嘘だけどさ……。
「身構えなくていいよー。さっきのは君がいじられキャラっぽかったから、ついついいじっちゃっただけだからさ。」
副部長が元気そうに笑いながらいう。
「いやーでもあれだね。私の胸をチラチラ見てたのはバレバレだったよー。君の印象ちょっとダウンだよ」
「え、あ……すいません。」
戸惑いながら頭を下げる。三度目だ。
「もっとガン見してたら印象アップだったのにさ」
いや違うかと。
「普通逆じゃないですか!?」
「自分の『普通』が正しいとは限らない。」
「キメ顔で胸を張りながらいわないでください!!しかも少なくとも僕の方が『普通』です!!」
胸を張られて、どこに目をやればいいのかわからないし……。
戸惑う僕を見て、副部長が大笑いする。
「いやー君って最高に面白いねー!!」
そういいながら、笑いつづける。最高に面白くない気分だった。
そんな状況で、先輩達が入ってくる。
「自己紹介終わりましたか?」
瀬永先輩が聞いてくる。完全に自己紹介について忘れていた。
「あ、そういえばまだだったような。」
副部長がそういって続ける。
「私は安川史、よろしくー。」
にまーっ、と笑いながら右手を差し出して来る。
無防備な笑顔に、警戒心失いつつ、その手を握る。単純に握手をした。
「僕は、苗代弘御です。よろしくお願いします。」
こうして、全員分の部員紹介を終えた。
竹内雷火(以後雷火)「竹内雷火と吉田七海の基本用語講座!!始めるぜっ!!」
吉田七海(以後七海)「そうだね。はじめようか。」
雷火「竹内姉妹で基本用語講座をはじめなかったに対して、作者からの悪意を感じるぜ。」
七海「別に悪意を買うほど時間たってないと思うよ雷火ちゃん……。」
雷火「まずは『ラバー』についてだな。七海、『ラバー』とは何だ!?」
七海「えっと、『ラバー』っていうのは、ゴム製のシートとスポンジを貼り合わせたもので。ボールを打球するところだよ。」
雷火「では、大雑把なラバーの種類だっ!!
ラバーには大きく分けて四つのラバーがあるんだ。正確にいうと、『裏ソフトラバー』『表ソフトラバー』『アンチラバー』『粒高』だな」
七海「『裏ソフトラバー』の細かい説明を入れると
『裏ソフトラバー』は、表面がひらべったく、ボールの接触部分が多いのが特徴だよ。接触部分が多いから、卓球で必要不可欠な『回転』をかけやすくなるんだよ。」
雷火「ちなみに、今一番多く使われているんだ。使い勝手がいいからな。」
七海「『表ソフトラバー』の細かい説明をすると
『表ソフトラバー』は、表面が粒粒で、ボールとの接触部分が少ないのが特徴だよ。
接触部分が少ないから『回転』がかけにくいけど、卓球ボールとの球離れがはやいから速い打球がうちやすいんだよ。」
雷火「まぁ簡単な説明だったけど、今回はそのくらいで充分だろ。」
七海「そうだね。そのほかのラバー説明はまた今度がいいよね。」
雷火「お?ある意味次回を読ませる宣伝になってるのでは?」
七海「いや興味がある人には、『次の回待つくらいだったらWikipedia見る方が早い』と思われるのが落ちだと思うよ……。」
Wikipedia参照




